第24話 転がるように


「零史がそう望むのなら……。」


ルナが、俺の眼を真っ直ぐ見て答えてくれる。


「俺も頑張るから。ルナとは兄弟みたいなもんだし、一緒に成長していこうな。」


同じ場所で生まれた二人だ、ルナと二人で一人前みたいなもんだし。一緒に頑張っていきたい。

俺は覚悟を決め、3人へと向き直った。

その時、騒がしい音が扉の外から近づいて来る。

ドタバタの人の近づく足音と焦った声が途切れ途切れに聞こえてきたのだ。


「待て!勝手に入っちゃダメだ!」

「こら待てっ!誰かっ団長に報告っ!」

「とまれー!」


そして、俺たちが見つめる中……バンッ!!と団長室の扉が開いた。

そこに居たのは……にっこり笑顔のスピカだった。


「零史お兄ちゃんを迎えに来ました。」


堂々と両開きの扉を開き、いつも通りの笑顔でこっちを見ている。後ろにアルタイルとベラトリックスも一緒だった。

2人は部屋の中の様子を警戒しつつ、俺を見る。そして肩のルナを見た。


「零史すまんのぉ、止めたんじゃが。」

「アナタが夜になっても帰ってこないなぁって思ってたら……。」

「新人調査官が捕まったと聞いての……。」


アルタイルとベラトリックスはそう言うと、困った顔でスピカを見た。

不自然なほどいつも通りのふるまいをしているが、ルナがウサギになっている事や部屋の空気から、何となく事情は察したようである。

スピカはにっこりと笑って、


「さぁ、帰りましょう。今日は新しく教わった、カレーという料理を作ってみたんです。」


表情はにこやかなのに、スピカの背後にはブリザードが吹いていた。そうとう怒り心頭のようだ。


「……あ、悪魔の子……。」


シリウスがそう呟いたとおり、スピカの眼は金色に光る。笑顔の裏の激情が読み取れて、より恐ろしい。

その瞳をみて、レグルス団長が立ち上がった。


「待て、君はまさか、誘拐された悪魔の子か!?」

「あはははっ、なんの話ですか?私は誘拐されてなんかいません。」


スピカは、爽やかに微笑んで笑い声をあげていた。緊迫感を感じさせないシュールな光景だ。

国境に近い街ラーヴァの騎士団の団長。歴戦の猛者レグルス団長に、一歩も引かないスピカは将来きっと大物になるだろう。いや、もうなっているかもしれない。


「はぁん良い匂いだわ♡」


スピカの怒りが高まるにつれて、ベラトリックスのテンションもおかしな方向にいってしまっている気がする。あの魔力狂いは、今日もなんの匂いを感じているのだろうか。


「いったい、何がどうなってるんだ……。」


シリウスが、呆けた顔で座っている。俺も分からないので教えて欲しいくらいだ。


「んぉほんっ!零史を殺すと言うなら、私たちが全力でお相手しよう。」


アルタイルが、真面目な空気を強引に引き戻し、部屋に居る者達を見回している。


「あは~楽しそう。もちろん私も相手してアゲル♡」


ベラトリックスも好戦的な姿勢を見せた。

そこへ、余裕を取り戻したレグルス団長が声を上げる。


「ちょうど良い。じゃあこういうのはどうだ?

お前たちが勝てば、零史の言葉を信じてみよう。しかし、負けたら聖信教に誘拐犯として報告させてもらう。」


団長はそう言って立ち上がった。


「反対です!」


リゲルが驚きの声をあげる、まさかレグルス団長が挑戦を受けてしまうとは思わなかったのだろう。


「しかしな、そいつが聖霊じゃなかったら説明のつかないことが多すぎるんだよ……どのみち、俺たちより強いなら捕まえられないしな。」


団長はポリポリと後頭部をかいて困り顔だ。

リゲルは怒りに顔を赤く染めている。


「ならば!私が勝つまでです!私が勝って法を……正義を通してみせましょう!」


リゲルがこちらを振り返り、ギッと俺を睨み付ける。


「こんな頭のおかしな男が『聖霊』だと?身の程をわきまえろ!」


ビシィッと指差して、怒鳴り声を上げた。そこへベラトリックスが割って入る。ぐいっと顔を近づけ、ニヤァと笑った。


「なっ……なんだお前はっ!」

「ふふっ……ベラがこいつと戦う~!ね、いいでしょ?」


ベラトリックスは、リゲル越しにレグルス団長を見ている。悪役のような笑顔にみえるのは俺だけだろうか。それとも何か考えでもあるのだろうか?


「無礼な!」

(いや、ホントにな!……うちの子たちがスミマセン。)

「ふふっ、元気な子は好きよ♡」

「くっ、お前もまとめてつきだしてくれる!まずはお前からだ!」


ベラトリックスがリゲルを煽りに煽る。リゲルは激昂にますます顔が赤く染まっていた。

そして騎士団と俺たちRENSAの面々は、再び訓練場へと戻ってきたのである

他の騎士たちの目があるので、ルナは人間の少年へと姿を戻している。

ぞろぞろと訓練場へ移動し、中央にレグルス団長が立つ。その両側にリゲルとベラトリックスが向かい合っている。


「では、3本勝負といこう。こちらは団長の俺と、副団長のリゲル……ルナーはさっき倒れちまったから、アダラの3人だ。」


アダラと紹介されたのは、ピンクのベリーショートな髪に2メートルはあるマッチョボディーでモデル立ちしている男性だ。こちらに手を振って自身の紹介に応えている。


「はぁ~い!可愛いジャリボーイ、あなたは好みだけどお仕事だから本気でいかせてもらうわよー!」


そう……アダラは男性だ。見た目は。


(うらやまマッチョボディの『オネェ』さんだー!!!)


アダラさんはプルっプルの唇で投げキッスを飛ばしてきている。

俺はレグルス団長に聞きたいことがあった。


「本当に、この戦いに勝てば……俺を信じて……無事、解放されるんですよね?」

「ああ、……もちろん!」

「ゼッテー勝つ!!!」


俺は1回戦の『ベラトリックスvsリゲル』戦を全力で応援することにした。勝つためならば全てを捧げよう。


「ベラトリックスさん、やっておしまいなさい!」

「はぁ~い♡」


ベラトリックスはヒラヒラと声援に手を振り、余裕をかましている。

一方リゲルは、そんなベラトリックスの態度にも怒りを増幅させているようで、今にも切りかからん雰囲気だ。


「じゃー行くぞー。始めっ!」


レグルス団長の力の抜けた合図で、二人は同時に駆け出した。

騎士団には内緒にしているが、ベラトリックスは聖騎士……聖信教の精鋭部隊。ラーヴァの騎士団とどちらが強いのか、俺は興味津々である。

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