第21話 何系が嫌い?
「何で俺たちが犯人になるんだ!?」
魔物の凶暴化が、科学者のせいだなんて誤解を目の前で解いて見せたら、犯人だと疑われてしまった。
シリウスが目を細めて睨む。すぐは襲いかかって来ないようだが、完全に疑っている目だ。
「じゃあなぜ、狂暴化の方法を知っている?」
「それは…あの魔物と戦ってる時にさー……あれ?……んー?ちょっとタンマ。」
俺はひっかかりを覚えて、ルナへと向き直る。
「(なあ、ルナ。普通の人って魔力……。)」
「(見えません。)」
そこかー!そこだったのかー!どうやら普通の人には魔力は見えないようです。
「はっ!!もしかしてお前たち……科学者か?だから方法を知ってるんじゃないか!?」
俺とルナがヒソヒソやっている間に、シリウスのとんでも思考回路が本領を発揮している。
(はっ!?違うよ!科学者なのは当たってるけど!)
とりあえず、この場を切り抜けなければならないだろう。
まずは、科学者の疑いを晴らそう。この方法が本当に『魔法』ならひとまず『科学者』容疑は取り下げてくれるはずだ。
「シリウスもやってみれば魔法だって分かるじゃないか!」
「そうすれば、科学者という疑いは晴れるのでは?」
ルナの援護も入って、とりあえずこの場で襲われるルートは回避ではないだろうか?
「俺は、さっきの戦闘で、魔力を使いすぎて……今日はもう難しい。回復を待たないと出来ない。」
(おいおいおいおい、それでも1級調査官かよー!)
いま容疑者の疑いをかけられているのも忘れて、真面目に一言いわせて貰う。
「なんで1回の戦闘で、魔力使いきっちゃうんだよ。」
シリウスがちょっとうつむき気味に答える。
「あの魔物は、とても気味が悪かっただろう。」
どうやらシリウスは、うにょうにょ系が苦手なようだ。俺はゴースト系が苦手だから、その気持ちわからなくも無いけど……今はやめて欲しかったと心の底から思っている。
「とにかく、お前たちを1度拘束して騎士団に連れていく。本当に無実なら、素直についてきてくれると助かるが。どうなんだ?」
シリウスなりに、妥協できるギリギリのラインなのだろう。科学者なら即処刑してもいいことを考えれば、かなりの寛大な処置だ。
今ここで明確な証拠を見せる事も出来ないし、ここは素直についていった方が良いように思う。
科学者かどうかの判断方法もあいまいだし、騎士団で狂暴化の実証を行ってもらうのが手っ取り早い気がする。その時まで魔力の可視化の言い訳を思い付くといいが。
とりあえず俺とルナは村で借りた馬車の荷台に縛られて運ばれた。
そろそろ夕刻だ、まだ日は高いがお腹がすいてきた。
街を出た時は、シリウスに縛られて帰還するなんて思いもしなかった。
馬車は関所を通ると、そのまま神殿へと向かう。
足の縄がほどかれ、歩くように言われる。
腕を縛っている縄から伸びた先端を、シリウスが犬の散歩のように持っている。
神殿の中の人影はさすがにもうまばらだが、あまり気分の良いもんじゃない。皆が一様にチラチラとこちらをうかがっているのが分かる。
正面玄関を右に、騎士団の方の建物へと向かった。そして、どんどんと奥へ進み、たどり着いたのは騎士団長の部屋だった。
騎士団の建物は3階建てになっているらしい、3階まで上がり奥の両開きの扉を抜けると二人の騎士が出迎えてくれた。
中央の椅子に座っている男性と、その隣に立って報告をしていたであろう男性だ。
たぶん、座ってる方が団長かな?
団長は、突然入ってきた俺たちに動揺することなく、縛られている俺とルナを見る。
それからシリウスに声をかけた。
「突然どうしたシリウス、久しぶりだな。何の用だ?」
団長は、短く刈り上げたダークグリーンの髪に切れ長の目が光っている。そして何より頬の傷が、その威厳を増していた。
どこからどう見ても、歴戦の猛者だ。
「その二人は?」
隣の部下の方は、金の髪に甘いマスクのいかにも貴公子な人だ。無駄にキラキラしている。もしかしたら貴族かもしれない。きっと貴族だ。そうに違いない。
シリウスは、騎士団の二人と面識があるようだ。シリウスが団長へ向き直る。
「レグルス。魔物の狂暴化の謎を、こいつらは知っている。」
「ほぉ?それはとても興味があるな。」
その言葉に、団長と貴公子の目に剣呑な光が宿った。
シリウスが、「ほら説明しろ」みたいな目で見てくる。
俺は神妙に二人を見る。貴公子が腰の剣に手をかけるのが見えた。
「お前、科学者なのか?」
「待って!ちょっと待って!またそこからかよ!話を聞いてください!」
狂暴化させているのが科学者って話だから、知っているイコール科学者って思ったんだろうなー!俺は慌ててストップをかける。
そして、ルナは全く物怖じしない態度で騎士団の二人を睨む。
「魔物の狂暴化は、科学者のせいではありません。魔法です。」
そして、シリウスにした説明をもう一度繰り返すのだ。
かくかくしかじか……説明を終えた所で、レグルス団長がアゴに手をあてる。
「ふむ、なるほど。ならばとりあえず試してみるか。話はそれからだな。」
「良いのですか?聖信教が『科学者の実験』だと言っているのですよ!?」
団長の言葉に、貴公子が不満そうに詰め寄っている。
「俺は自分で見たものしか信じないたちなんでな、まあいいじゃないか。今殺すか後で殺すかの違いだ。」
(ひょえ~どっちにしろ殺す気じゃん!)
というかたまに忘れそうになるが、俺って聖霊だけど死ぬのかな?剣で切られたくらいじゃ死ななそうだけど。
俺とルナは後ろ手に縛られたまま、中庭に連れていかれる。
乱暴にひったてられて、俺はまだしもルナが心配だ。
中庭というより運動場と言われた方がしっくりくるほど何もない所だ。
きっと日々の鍛練をしたりするのだろう、何人か居た騎士団の人たちが、俺たちを囲むようにして配置されている。
その中から騎士の制服の上から、ローブを着た男性が進み出てくる。手には小さなゲージを持っていた。
「あ、スライムだ。」
ゲージの中にはスライムが入っていた。この世界でも最弱と言われるスライムだ。
団長がチラリと俺とルナを見る。そして前に向き直った。
「もしかしたらだが、スライムが暴れだすかもしれない。お前たち~、気を付けろよ?」
スライム相手に気を付けろと言われた騎士らは失笑気味だ。
「相手はスライムですよ?暴れたところで……。」
貴公子も不満顔だ、レグルス団長は困ったように笑っている。
「一応な、一応。」
各々、緩慢な動作で剣を抜き構えた。
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