第19話 シリウス
「はじめまして、オレはシリウス。1級調査官……。」
なんと、突然話しかけてきたイケメンは先輩だったのか!
「はじめまして。えと、零史って言います。こっちは弟のルナ。」
「ルナです、はじめまして。」
調査官は別に年齢制限は無いのだが、子供にしか見えないルナを連れているのをシリウス先輩は驚きなのかジッと見つめている。
「子供だけど、ルナはめっちゃ強くて頼りになるんだ。」
「私は、零史の足手まといにはなりません。」
「……そうか。」
ルナが小さい胸をはって堂々とシリウスを見る。
「シリウス先輩は……。」
「シリウスでいい。……零史はまだ、外にはいきたくない?」
相変わらずの無表情で、シリウスが俺を見る。納得したのかしてないのか分からないが、ルナの同行を咎める訳では無いようだ。
シリウスは、クールなのか独特の雰囲気とテンポの持ち主なのかな?
表情があまりなく、何を考えてるのかがイマイチ掴みづらい。
「えーと、仕事に慣れたら行きたいなー?とは思ってます。」
「……そうか。」
デジャヴ。
(それだけかーーーい!え?そっちから話しかけて来たのにそれだけ?何がしたかったの?)
俺が首をかしげると、それを見ていたシリウスも首をかしげた。
「聞きたいことは、それだけですか?」
(おお、すごい先輩にも物怖じしない、そんなルナにシビれる憧れるー。)
シリウスは、ハッと動きを止めて俺たちを見た。
「お前たちは『ビッグベアのウェズン』倒したから、外に行っても大丈夫。」
「あ、ご存じなんですね。恥ずかしいなー。」
ウェズンか、ついこの間なのになんだか懐かしい。
「昇級試験……オレと外へ討伐行こう。」
「へ?昇級試験?今から!?」
シリウスが頷いている。なるほど昇級するには1級調査官に同行してもらうのか。
「調査官は少ないから、お前たちのような人員は大歓迎だ。」
歓迎してるのかしてないのか分からない無表情でシリウスが言う。
「(零史、どうしましょう?街の外へ行くのは……。)」
「(だけどなー、理由を話すわけにもいかないし……断って不審がられちゃ困る。)」
ルナとアイコンタクトをして、俺はシリウスに向き直る。
「ヤッターよろしくお願いしますー!」
かくして、先輩調査官のシリウスと討伐依頼に行くことになった。
依頼の詳細を聞く。事前情報はあれば有るだけ良い。命の危険があるとしたら尚更だ。
「場所はここから2時間ほど馬で東に向かった村だ。新種の植物が見つかった。それの調査と、牧場を荒らす魔物の討伐だ。」
地図を広げて見てみる。森を大回りに迂回する方の街道を通って向かう村だ。森には入らないみたいである。気は抜けないが、ひとまず安心した。
「新種の植物の調査と、害獣の討伐ですね。」
「牧場を荒らしているのはディアらしい、討伐したらそのまま村人が食料にするだろう。その分報酬も良い。」
ディアとは、あの鹿のような魔物だ。森での暮らしでは、スープにしてよく食べていた。
あまり長く街の外に出ていたくないし、スピカたちに無断で外泊すると心配をかけてしまうだろう。今は状況が状況だ。
幸い、村は森とは外れた所にあるし、依頼内容も簡単そうだ。
「そうと決まれば。早くいってパッと終わらせて帰りましょう!」
「余裕だな。」
「ディアはよく狩りましたから、ルナが!」
俺は研究に没頭していたからね!
「零史は……面白いな。」
「面白い時は、笑ってください。」
シリウスは、真顔だった。
俺は一旦家に帰り、伝言メモを残しておく。
そして、盗賊たちから貰った馬にルナと二人で乗り、関所でシリウスと待ち合わせて出発した。
シリウスの先導で村へと向かう。
想定通り、二時間ほどで依頼対象のポーレ村についた。
牧草地帯にポツンとある村だ。牧畜が主な産業となっている。
シリウスと連れだって村へと入る。
広い村だ、30世帯程が住む小さな村だが、各々が牧場を持っているようだ。
入り口の兵士が伝えたのだろう。一人の老婆が出てきた。
「調査官のシリウスです。新種の植物はどこに?」
「ようこそポーレ村へ、村長のベガです。お探しの植物は、村の東にある丘の向こうです。案内を……。」
「大丈夫、ポーレ村には前も来たことがある。」
どうやら老婆はこの村の村長のようだ。
シリウスと俺は、馬からおりることなく丘へと進んでいく。
村長の言葉通り、村を抜け東へまっすぐ進むと丘があった。
丘に馬を停め、ここからは馬から降りて徒歩で進む。
この世界の文明レベルは中世ほどた。なら、まだ知られていない植物があるのも頷ける。現代の地球ですらまだまだ新発見があったのだ。
魔法がある世界だ、どんな植物があるのだろうかとワクワクする。
(浮かれてちゃダメダメ、仕事だぞ!)
丘を越えた先で俺たちを迎えてくれた景色は予想外のものだった。
一面のうっそうと繁った蔦(つた)のような植物が、ウヨウヨと蠢いていた。
緑の蔓(つる)は所々血走ったように毒々しく赤く光っていた。
「な……んだ、これ。」
「ほんとうに植物ですか?これが……。」
聖霊の知識と記憶を持つ、ルナすらも知らない種類らしい。
いま、とおりすがりの魔物が蔓に捕まり……断末魔をあげながらそのまりものような蔦の塊の中へと引きずりこまれていった。俺の中の『植物』がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
さすが調査官の昇級試験……こんなにハードだとは。調査官を舐めていたかもしれない。
「これはなんだ!?」
あ、シリウスも知らなかったみたいです。
(ウソーーー!!!)
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