第18話 新しい仕事
新しい朝が来た!
ラーヴァに引っ越して1週間が経った。
そろそろベラトリックスの暗殺失敗により、新たな聖騎士が派遣され、この辺りに着く頃では無いだろうか?
俺たちは今のところ研究や科学者探しは控えて、ラーヴァでの生活を楽しんでいる。
こそこそしてると逆に怪しまれるだろうしね。
スピカはラーヴァの市場で色々な食材を買い、毎日新しい料理に挑戦している。土地柄なのか、やっぱり辛い料理が多い。
そこで、ある日俺がスピカに魔法で氷を出してもらい、かき氷を作ってみた。
かき氷にフルーツのコンポートを乗せて食べていたら、見ていた皆に次々ねだられて、今では我が家の定番デザートだ。
ラーヴァはこの国でも南の方にあるだけあって、結構暑いしな。
さっそくスピカが、仲良くなった定食屋のおばさんに教えて、いまや街でも大流行している。
いっぽう、調査官の仕事の方はと言うと、街の中での依頼を何個かやってみた。
探偵のような……とは思っていたが、本当にペットを探させられるとは思わなかった。しかも、そのペットは火を吹く1メートルほどのワニだった。名前はキララちゃん。
激しく暴れるキララちゃんにアルタイルと悪戦苦闘したのに、あの仕事が5銀貨(5,000円)とは、この仕事が人気の無いのも頷ける。
もちろんまともな仕事もあった。
水路に流れてくる水量が少ないので、川上の調査などだ。街の境あたりで大きくなりすぎたフグのような魔物が水路に詰まっていた。
近づくと針を飛ばしてきたが、アルタイルは難なくローブを硬化してはじいていたし、俺はブラックホールで吸い込んで回避だ。
(ふっ相手が悪かったな!)
巨大フグは周辺の住民によって美味しく頂かれました。
というわけで、街の外に出るような仕事はまだやっていない。
最初は研修として先輩が着かないといけないみたいだし。今は街の外に行くのは避けたい事情もある。
聖騎士問題が片付いてから、行動範囲を広げたいところだ。
まあ、ここ一週間の生活はこんなとこかな?
その日、俺はあまりの苦しさに目を覚ました。
(俺の上に何か乗ってる……?)
さわやかな朝だ。なのに、苦しい。
そう、仰向けに寝ている俺の上に何かが乗っているのか腹と胸が圧迫されてくるしい。
あまりの息苦しさに、もしや金縛りか!と思ったとたん、俺の脳は瞬間で覚醒へと導かれた。
男、黒野零史、幽霊が怖いです。
男だろ?とか関係ない、怖いものは怖い。
だってユーレイは触れないんだよ!?そんなのチートじゃん、ずるい。怖いぃ。
俺は目を固く閉じ、寝たフリをするしかなかった。
だって、目が会ったら呪われちゃう!
『幽霊 金縛り 対処法 検索』教えてGoogle先生ぇえええええ!
なぜここは異世界なんだ、終わった、俺はユーレイに呪われてこの世を去るんだ……はぁ、宇宙行きたかったなぁ……。
「んっ……ぅ~ん。」
俺が死を覚悟した時、俺の上からそんな声が聞こえてきた。
「ん?」
……そのころ、リビングでは窓の外に見える木々を愛でながら、アルタイルが朝食を食べていた。
今日は目玉焼きとパンとフルーツだ。目玉焼きが双子だったので、嬉しくて鼻唄を披露している。隣ではルナがかき氷を食べていた。何とも微笑ましい風景だ。
そこへ、2階から悲鳴が聞こえる。
「イーーーヤァァァアアアア!!」
「起きてしまったか。」
「そのようです。」
アルタイルとルナは、悲鳴があがる事を知っていたかのように驚かない。
むしろ朝食のコーヒーを飲んで感想までのべている。
「ぬるいな。」
だだだだだだだだだだっと大慌てで階段をかけ降りる音がして零史がリビングに逃げ込んできた。
「おはよう零史。」
「おはようございます。」
「ぅわぁーーーん、ルナぁぁあああ!」
零史はルナに抱きついて、大泣きしださんばかりに取り乱している。
深夜の事だ、零史とルナの部屋に、スピカがやってくる。
零史はもう寝ていたがルナは起きていた。
スピカはベラトリックスが、夜這いをかけてくるのではと思い、護衛にきたのだ。
最初は気合い充分で、どこからでもかかってこいという気迫があったが、一時間もしないうちにウトウトと零史に倒れこむようにして、寝てしまったのである。
そしてさらに深夜のこと、予想通りベラトリックスが夜這いに来た。
ルナとスピカを抱えるように寝ている零史を見て、ベラトリックスはニヤニヤと仲間に加わったのである。
そして朝になり、ルナは朝御飯を食べに降りた。
アルタイルは(もう観念して食っちゃえばいいのに)と思っているが、口をつぐんでおくのが零史の為と、大人な対応である。
『ルナテラピー』でリラックスをした零史を椅子に座らせた。そして、そ知らぬ顔で食卓につくベラトリックスと、作戦失敗により不機嫌なスピカにも朝食を出すのだ。
慌ただしいラーヴァの朝だ。
今日の予定は、調査官の仕事をするつもりでいる。
今日は珍しく、ベラトリックスもついてくるそうだ。
ルナはもちろん毎日ついてきている。
だが、それではスピカが一人でお留守番になってしまう。スピカは魔法も強く、一人でも心配は無いが、今はいつ聖騎士が来てもおかしくない状態だ。ラーヴァに引っ越していることはバレて居ないと思うが、いかんせん2番目に近い街だ。しらみ潰しに探しに来ないとは限らない。一人にはあまりしたくない。
俺は朝食を食べ終わり、一息ついてから、スピカの髪を三つ編みにしている。
前に一度やってあげてから、たまにねだられるのだ。
今日は日差しが特に強く暑いので、お願いされた。おさげしか出来ないのが申し訳ない、男なんてそんなもんだろう。
「スピカは今日、どうする?」
「私も調査官のお仕事、お手伝いしたい。」
どうやらスピカは皆のお仕事についてきたいようだ。
「オッケー、いいよ。」
久々に大人数でのお出掛けである。
ベラトリックスの金髪司書スタイルもそろそろ慣れてきた。寝る時はさすがに元の姿なのだが。
アルタイルとルナも準備が出来たようなので、5人で連れだって家を出る。
家から市役所までは徒歩10分ほどだ。
今日も大通りのお店は高らかに掛け声をあげている。
神殿は、街の中枢期間だけあって人で賑(にぎ)わっていた。
正面玄関に着いて、右に行くと騎士団。真っ直ぐ行くと教会と治癒所(びょういん)。左に行くと行政機関だ。
調査官は左、不動産とか身分証もらった所も左の建物だ。
俺は心の中で、『市役所』と呼んでいる。
まずは、待合室のように椅子が並んでいるロビーで掲示板を見る。
ここには、街の中での調査官への頼みごとが貼ってある。
『うちのキララちゃんを探して!』という貼り紙をまた見つけてしまい。
(あいつはもう野生にかえしてやるのが一番なのでは?)
と思ったのはしょうがないだろう。
難易度の高い案件は、調査官ごとの熟練度に合わせてカウンターで閲覧・受注が出来る。
ランク付けがあって、俺たちは新米なので一番下の3級調査官。カウンターでの発注は2級からで、遠征や攻撃性の高い魔物の討伐や危険な地域での採取・討伐などだ。
なんでも、隣国へのスパイなんて依頼もあったりする。何でもありだな調査官。
「ベラはちょっとハジけてこよっかな。」
ベラトリックスが、街の畑に出る害獣の討伐を選んでいた。毎度一緒に行くわけではない、単独で依頼を受けることの方が多いだろう、特にベラトリックスは。
(ベラトリックスは戦闘狂なところがあるかなあ。)
「お先~♡」
「スピカは私と、キララちゃん探しはどうじゃ?」
「キララちゃんってこの間言ってたワニ?行く!」
どうやらアルタイルはスピカと、火を吹くワニを探しに行くらしい。どうせまた同じ用水路に居るだろうし、森で狩りをしていたスピカなら大丈夫だろう。水や氷が得意なスピカとの相性も良い。
「私、がんばってくるね。」
「気を付けてな~!」
そして、残ったのは俺とルナ。
さて、どうしたものかと依頼を物色していく。
(薬草の採取は、知識がないから無理だし。
恋人の浮気調査は、勘弁してほしい。)
あと目ぼしいのは森の街道まわりの魔物退治がほとんどだ。ウェズンが捕まり、街道を通りたい商人たちの森への依頼が殺到しているようだ。
(まだ森はなあ……どこで聖騎士と出会ってしまうか分からない。少なくともあと一週間は気軽に近づきたくは無いな。)
そう悩んでいる俺の後ろから、男が話しかけてきた。
「なあ、お前が新しく入ったって言う調査官?」
「え、俺?そうですけど。」
呼ばれる声に振り替えると、褐色のイケメンが俺を見下ろしている。
「はじめまして、オレはシリウス。」
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