第17話 ラーヴァの街
その後、何事もなくラーヴァの街に着いた。
やっぱり馬が居るのと居ないのとじゃ快適さが違う。予定の倍の速さで進むことができ、昼過ぎには街に着いたのだ。
恐慌状態で震えているウェズンに「ちゃんと罪をつぐなって、子分たちの所に帰ってやれよ。」とあたたかい別れの言葉をかけたが、悲鳴をあげられた。
ウェズンと合うことは、もうないだろう。
そして、街の入り口の詰め所で無事に褒賞金を受け取った。
どうやらウェズンは2年ほどまえから精力的に強盗に励んでいたらしく、なんと50金貨にもなった。
俺はこの世界で初めてお金を稼いだ。
ガラヴァ皇信国のあるリエーフ大陸で使われているお金は三種類で。
金貨、銀貨、銅貨だ。それぞれに、金貨は独特な縞模様が掘られ、銀貨は花の柄、銅貨は真ん中に穴が空いたドーナツの形だ。
森では使う事がなく、アルタイルが貯蓄していたお金がわずかながらにはあったので、見たことはあった。
それぞれの価値は大体教わっている。
簡単に言うと、金貨10,000円、銀貨が1,000円、銅貨が100円だ。
今回の報酬が50金貨ということは、日本円で大体50万円。結構な金額ではなかろうか。ウェズンよありがとう。
お金に困ったら賞金稼ぎの職を真面目に考えても良いなと思ってしまう。
そのお金で5人分の通行税を払った。5人で1金貨だった。
金貨は一万円相当だから、一人2000円か、だとすると2銀貨ということになる。
そして、身分証の提示だ。これが無いと街には住めないそうで、もともと皇都の市民だったアルタイルは身分証を持っている。
しかし、俺とスピカとルナは身分証が無い。ベラトリックスも聖騎士の身分証は使えない。
どうするかと言うと、新しい身分証を作るしかないだろう。
小さな村や町で生まれた子には身分証を持ってない子が多いらしく、関所の兵士が身分証の発行できる場所を教えてくれた。
こうして、やっと俺は人生初、異世界の街へと足を踏み入れた。
人類にとっては小さな1歩だが、俺にとっては大きな1歩だ。
関所を抜けてすぐに見えるのは、商店が両側に連なる石畳のメインストリートだ。
建物も石造りが多く、いかにも鉱山の街である。
まだ昼過ぎ、おやつ時。いたるところから威勢の良い声が聞こえる。
「おおー!これがラーヴァの街!!」
「おっ!兄ちゃんラーヴァは初めてかい?」
「だったらラーヴァ名物『ロック鳥のマグマ焼き』食ってきな!」
店先で女将さんや通りのおっちゃんが、俺に串焼きをすすめてくれる。
真っ赤に染まるほどスパイスをかけたこぶし大の鶏肉を、竹の串にさしている。
(うまそう!からそう!)
「うわー良いにおーい!」
「はぁ、お腹がすいてきちゃう♡」
スピカとベラトリックスもおおはしゃぎである。
「ひと串3銅貨だよ!」
1つ300円。真っ赤な鶏肉からは、スパイス特有の食欲をそそる匂いがたちこめ、俺たち一行を打ちのめした。ヨダレがとまらない!
「まいどあり~!」
全員分買ったのは言うまでもない。
ロック鳥をもぐもぐしながらメインストリートを歩くこと30分、たどり着いた街の中心部。
円形の広場の奥にその建物はあった。
俺たちを両手を広げて迎えるように左右に長く、白い壁がまぶしい。
街の中心にある1番大きな、そこは神殿のように見えた。
ここは市役所のような役割を果たしているようで、街の行政や騎士団などの主要な機関が全部まとめて入っている。
さっそく正面玄関をくぐり、俺たちは『アルタイルの孫』という事にして身分証を作った。
街には必ず1つはこの神殿(市役所)があるらしい。
アルタイルと出会った、あの遺跡のように、裁判所の役割もはたしている。
さらには、この街の不動産管理も行っているし、もちろん聖信教の教会も併設されている。街が運営している病院もここだ。商業組合に、農業組合まで何でもここに集約されている。
身分証を、もらった俺たちはそのまま、衣食住の「住」。家を借りられる部署に向かった。
家は、賃貸が基本なようだ。建物は基本的に街の区画整理とともに建てられ、市民に貸し出される。
その家賃が、街の整備や維持費になるのだ。税金のようなものだろう。
職業によって、貸し出される区画や形態が変わり。
商売をするなら通り沿いの1階、漁師ならモーリ川の近く、炭鉱夫は鉱山が近いだけあって、山側の大きな寮のような建物に安く住むことができる。
さらに、治安が悪い所は安く、良い所は高いのはどこの世界も同じみたいだ。
なので、家を借りようと窓口に来て真っ先に聞かれるのは職業である。
もちろん「科学者です!」なんて胸を張って言い切ったら、そのまま処刑台がお家になってしまうので無理だ。俺たちは表向きの職業を決めなくてはならなかった。
幸い、職業案内もこの施設にあり人材はいつも不足気味だという。要は選びたい放題だ。それに、俺には地球での知識があるので、新しく何か職業を作ってもいいと思うのだ。
(21世紀のテクノロジー知識を駆使して億万長者もいけるんじゃないか?)
何てほくそえんでみたりした。だとしても、どこまで許されるのか……がネックだな。
未来のテクノロジーは科学がメインだ。
うかつに「新発明!」とか言って発売して、処刑されてしまってはもともこもない。
この世界の知識では、『科学』とは分からないように『科学』を使うしかないのだ。
幸い、人体を切る医療など分かりやすい線引きもあるが、基本的に判断するのは聖信教らしいし……。
そういえば、科学の知識があれば、魔法の効率化や省エネ化ができることを、スピカとルナが『水の刃』で証明した。だから、他の魔法の使い方を模索するのも楽しそうではある。魔法研究家とか職業は無いかな?有りそうじゃない?
そんな事をとつとつと話し合った結果。
俺たちが決めた職業は……調査官だった。
調査官は、近隣の村や町に行って、暮らしや治安などを調査・解決する仕事だ。他にも街の人のお願いを聞き調査したり。
探偵の公務員バージョンという感じだろうか。
たくさんの人とかかわる事ができるし、科学者探しにも有効だと思ったのだ。
この仕事、意外に人気が無い。俺たちのここまでの道のりを考えると、仕方が無いのかもしれない。
他の村へと向かう道中、ウェズンなどの盗賊に襲われる可能性もあるのだ。戦闘にある程度の自信が無いと難しいだろう。
公務員と言っても、護衛を雇うほど給料も良くないし。歩合制(ぶあいせい)なので頑張ればそこそこ稼げるとは思うが。
俺の本業はあくまでも宇宙飛行士を目指す方でいきたいので、そこそこの頑張りでとどめたい。
それに、盗賊に会っても、また捕まえて賞金を貰えば一石二鳥だ。
最大のメリットは『公務員』というところか。身分証の信頼が上がる。現代社会を生き抜く大人に信用は何物にも変えがたいと思う、ここは大事にしていきたい。
行き先は自分で決められるようだ、市役所が調査して欲しいと提示したリストから自分で選ぶスタンスだ。
という訳で、調査官の登録と一緒に家も借りることに成功した。
調査官になったのは、俺とアルタイルとベラトリックスだ。スピカはまだ子供だし、自分のやりたいことを探して欲しい。ルナは単純に見た目が子供なので。
さて、職業は決めた!次は家だな!
さっそく、居心地良さそうな家族用の家を借りることが出来た。少し手狭だが、二階建て一軒家だ。家賃は公務員だけあって、少し安くなったし、給料からの天引きが出来る。
俺は、ベラトリックスなら独り暮らしでも良かったんじゃないかと思うが……なんか俺が身の危険を感じるし。
「もう別居だなんて、甲斐性なし。」
とか訳のわからない事を言っていたのでスルーしておいた。
ラーヴァに着いて1日目、街での暮らしの準備ができたのだ!
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