第15話 驚くのは早いわよ
森からワイルド系のオッサンが3人ほど出てきた。
(ルナは5人って、言ってたから。あと2人は伏兵かな。)
動物の毛皮や、商人から奪ったのか変に豪華な上着を着ていたりする。
そして3人とも手に大振りの湾曲した剣やナイフなどを持って、げひた笑みを浮かべていた。
センターの髭面の男がしゃがれた声で言い放つ。
「女と金目の物を置いてきな。あとその変な荷車も貰ってやるよ。」
隣の、キツネ目のいかにも子分です。という感じの小男がベラトリックスを見て口笛を吹いた。
「奥の金髪のねーちゃん、上玉じゃねーですか親分!」
そして、反対脇にいる小太りのタヌキ男は、俺の方を指差した。
「その肩に乗ってる非常食もちゃんと置いていけよ?」
(こいつ、ルナの事言ってんのか?ふざけんなよ……。)
小太り野郎の言葉に、俺は睨み返す。
「おら、さっさとしろよ?俺は気がみじけーからなぁ!がっはっはっはっ!」
「親分はここいらじゃ有名な『ビッグベアのウェズン』だぞ!!」
水戸黄門よろしく自己紹介をしてくれた盗賊の名前にベラトリックスが反応する。
「あれ?『ビッグベアのウェズン』って、たしか賞金首よ。生け捕りにして賞金貰いましょーよ♡」
「そうじゃのお、引っ越しは何かとお金がかかるからのぉ。」
世間話のテンションで、アルタイルとベラトリックスが話している。緊張感は皆無と言っていいだろう。
その言葉を受けて、スピカが皆の前に躍り出る。
「分かった、私に任せて!」
さっきの宣言通り、一人で戦う気マンマンのようだ。
怯(ひる)むようすのない俺ら。そして、一番小さなスピカが向かってきたことに、盗賊はプライドを刺激され……もちろん怒り心頭(しんとう)である。
「こいつら舐めくさりやがってぇぇええええ!」
「こんのやろぉお!!」
「余裕ぶっこいてられるのも今のうちだぞごるぁぁああ!」
3人の盗賊が一斉に駆け出したが……。
「そこ危ないよ?」
駆け出そうとしたキツネ男とタヌキ男が、に引っくり返って転けた。
スピカの魔法で凍った地面で、ツルッと滑ったようだ。
スピカの最初のモーションは、既に終わっていたのである。不意をつかれた二人は痛そうに呻いていた。
「やるぅ♡」
ベラトリックスがおかしそうに笑っている。
出鼻を挫かれたウェズンはそれでも、すぐに怒りを取り戻して突っ込んできた。
「おのれぇえ卑怯なガキがぁっ!!」
(3対1で女の子に向かっといて卑怯もあるかよ。)
初動で流れを掴んだスピカだが、その顔に油断は微塵もない。
「水冠(レドクルーク)・始(ノーリ)!」
両手に魔力を集中させ、丸い円盤状の水の刃を作り出すと、その刃が高速回転をはじめた。
「え、電動カッター?」
どーみても、あれは魔法で再現した水の電動丸刃カッターじゃないか!?
濃密な魔力を纏う水の刃はうっすらと光り、まるで洗練された日本刀のような光沢を放っていた。
予想外のスピカの武器に、目を見開いている俺に、ルナとスピカが教えてくれた。
「零史の記憶から、スピカに最適な武器を考えました。」
「私の新しい魔法だよ!ルナと特訓して編み出したの!」
どうやらルナ君の魔改造らしい。単純に相手にぶつける魔法よりもコスパが良さそうではある。
ルナが俺の肩で誇らしげに胸をはっていた。
「じゃが、水で剣と対抗できるのか?」
後ろでアルタイルが心配そうに、スピカを見ている。
たしかに、ただの水の刃なら金属製の剣に太刀打ちは出来ないだろう……ただの、水の刃なら、ね。だがこの刃は魔法によってものすごい回転を加えられている。
地球でも、水でガラスを斬る機械があったりするのだ。水は流動的であるからこそ相手を選ばない。
「変な魔法使いやがって、水だとぉ?舐めてんのかオラァア!」
ウェズンが風の魔法を織り混ぜ、その巨体では想像つかないスピードで向かってくる。そして上段から体重をしっかりと乗せて大きな剣を振り下ろした。
「うぉおお!!」
スピカはしっかりと腰をおとして、両手を前に構えている。
そして、剣と水の刃が触れた。
ギィィイイイイイ!!!という音が響く。まさに……金属の斬れる音だ。
スピカが、両手に構えた腕を振り抜き、その遠心力を使って流れるようにウェズンに回し蹴りを入れ、尻餅をつかせる。
ウェズンの剣は短くなり、綺麗に切断されていた。切断された2枚の刃片(はへん)が宙を舞う。
「へぇえ~。」
ベラトリックスが、水が金属に打ち勝つという、常識では考えられない現象に感心の声をあげた。
「親分っ!」
そこに、体勢を立て直したキツネ男とタヌキ男がナイフを投げてきた。
スピカは、刃の回転を止め、ナイフをすくうように水を伸ばす。
水に絡めとられたナイフは、今度はムチようにしなる水に運ばれ、元の持ち主へと戻っていく。
「なっ、なんだあれ!!ぐっ!」
「ぎゃぁっ!!!痛ぇぇっ!」
文字通り、飛んで戻ってきたナイフに手足を切られてうずくまる二人。
「まだ驚くのは早いわよ。」
スピカがにっこりと笑って、今度はその水の刃を手裏剣のように二人へ投げ、次いで新しい水を生み出し、ウェズンへと投げた。
「水冠(レドクルーク)・創(アヂン)!」
それぞれへ投げた水は、手と足へ絡みつき、凍りついた。
みずは、氷の拘束具へと姿を変えたのである。
「やった?……やったー!スピカの勝ち!」
ピョンと跳ねて喜ぶスピカが俺を振り替える。誇らしげな笑顔だ。無傷で盗賊3人を拘束したのだ、上出来と言って良いだろう。だが……そこへ、森の影からスピカを挟むように矢が飛んで来た。一閃、赤い光が走る。
「「ぐぁあっ!!」」
瞬間、くぐもった悲鳴が不協和音で響く。
「気を抜くでない、盗賊は5人じゃと言われたろう?」
スピカを守るように固くしたローブでアルタイルが矢を防いでいた。
伏兵を忘れて喜んでいたスピカを守ってくれたのだ。
すると森からガサガサと音がして、ベラトリックスが二人の男を引きずりながら出てきた。
いつの間に森に入っていたのか、全然気がつかなかった……。さすが異世界のMrs.ボンドだ。
「ベラに残しておいてくれたぁの?やさしー♡」
「うぅぅ、ごめんなさい。」
さっきの赤い光はベラトリックスのナイフだったようだ。
どちらの男のヒザにもナイフが刺さっていた。
(最小限で最大限の力を削ぐ、容赦ない攻撃だな……さすが。)
スピカは、目の前の相手に夢中になって、伏兵二人を忘れていた事を反省しているようだ。
まあ、まだ14歳だしこれから頑張ればいいさ。
ベラトリックスが、キツネとタヌキの所へ両手の伏兵二人を放り投げた。
「うぐぁっ!」「いてててて……。」
「ぅ、嘘だろ……。」「こんな女に。」
伏兵までも捕まるなんて、盗賊たちは信じられない様子だ。
ベラトリックスは地面に倒れ呻いている盗賊にまとめて止血程度の回復魔法をほどこしている。
「この子たち、どうする♡賞金が出るのは、そのウェズンだけよ?」
「くそぉっ!離せ!離しやがれ!!」
ウェズンは手と足を拘束されて、まな板の鯉のようにビチビチとはねていた。
「大人数で移動は面倒だよな……俺たちの方が数が少ないし。出来れば避けたい。」
「私たちの情報を持ったまま逃がすのは得策ではありません、能力(ブラックホール)で消滅させてしまいますか?」
ルナが軽い調子で、さらっと重い提案をしてくる。
ルナは人間じゃないからなのか、合理主義なのか、恐ろしい子だわ!
(そんな所も……大好きだぜ兄弟!)
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