第3話 そして俺はお星様になった
右手をスッと真上にあげて、挙手。
「ハイ先生。ちょっと聞いても良いでしょうか?」
「私に答えられることでしたら、なんなりと。」
異空間にうっすら光る可愛いウサギと青年。
宇宙人にさらわれたって言われても信じるよ。むしろありがとう。
ここは「帰る方法を……」って聞くところだとは思うんだけど、俺の知的好奇心がそれを許さない!
囁くのよ……ゴーストが。
「ここって、さっき俺が居た博物館とはあきらかに別の空間ですよね?
そして俺はっ!何で、浮いて、いるので、しょうか!?」
力強く溢れる熱意で聞く。もちろん拳を握っている。
「マスターの記憶から博物館を確認しました。この空間とは別次元と断言します。
ここは、マスターの死んだ場所であり、生まれた場所です。」
「……は?死んだ?俺死んだの??」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきたぞ……死んだ、だと?
俺が?黒野零史が??どーやって!?
あまりの衝撃に敬語もはずれる混乱っぷりだ。
「正確には、黒野零史(くろのれいじ)の肉体は、この世界のマスターによりエネルギー体へと変換され組み込まれました。今は同一の存在となっています。」
「ん?良くわからんぞ?……えぇっと……俺の体はマスターに組み込まれた。俺とマスターは別々の人だったけど、いまは同一人物?」
「その通りです。」
「は……はぁぁぁああああっ!?マスターとかいう奴、何してくれんんの!?え、取り込むって何!?俺、マスターとやらに殺されたって事だろ?カニバリズム?食べちゃったの!?ねぇ食っちゃったの!?
俺まだ宇宙飛行士になってなかったんだぞ!くそー殴ってやる……1発どころかボコボコにせんと気がすまん!出てこい!!
あ、いまは同一人物だから俺か!!!このやろーーー!」
……ひとこと言わせて欲しい。
とても混乱していた、カッとなってやった。
俺は右腕を振りかぶって、自分の顔面にフルスイングした。
ドムッ!
「ブベッ!」
冷静は何にも勝る美徳だということを学んだ瞬間だった。
とても鼻が痛かったのを追記しておこう。
「マスター大丈夫ですか?
エネルギーの異常な高まりを感知しました。」
「……大丈夫です。」
倒れた俺を心配するようにすり寄ってくるうさぎ、めっちゃ癒される。
「俺は、いま幽霊、なのか?」
「違います。魂の存在や輪廻転生などは観測されていません。
以前のマスターが消滅する際に激しいエネルギー爆発が起こり、この空間はエネルギーで満たされました。そこに生まれた新たな生命に黒野零史の記憶データが再現されている状態です。
あなたは黒野零史ではなく、黒野零史の記憶を持っている新しい生命(いのち)です。」
「俺、0歳だったのか。」
ハッピーバースデー俺。
所詮、中の上くらいの頭脳。
全くチンプンカンプン……
……かと思いきや、ところがどっこい!
皆は、宇宙の星がどーやって出来るか知っているだろうか?
(誰に話しているんだろうか。)
宇宙にある恒星は、寿命を迎えると爆発する。小さいと爆発しないのもあるが……ここでは割愛しよう。
星は爆発すると、あたりに鉱石だとかガスだとか、まぁ色んな物が散らばり、そのちらばった物が遠くから見ると雲みたいに見える事から"星雲"と呼ばれる。
その星雲の中でぶつかったりくっついたりして新しい星が出来るわけだ。
この爆発の時に爆発の中心部分に、中性子星や……まれにブラックホールが出来るとされている。
爆発→生まれる→爆発→生まれる
……話を戻そう。
「つまり、前のマスターが何でか爆発して。そのエネルギー(星雲)から俺(新しい星)が生まれたって事か。」
「その認識で問題ないです。」
俺はどうやら人間では無くなったという事がわかった。
(俺はお星様になった!!二重の意味で!……お星様でも宇宙飛行士になれるかな?……お迎えする側かな?)
「以前のマスターが爆発し。新しいマスターであるあなたは"能力"を、私は"記憶"を持って生まれました。マスターは……」
「ストーープ!!……マスターマスターってどっちの事かごっちゃになるから、俺の事は"零史"って呼んで。君は何て呼べば良い?」
「私は生まれたばかりです。名前はまだありません。」
「じゃあ、月から連想して……『ルナ』なんてどお?可愛いし我ながら良いセンスじゃない!?ルナ!!」
「……ありがとう、ございます。」
うさぎの表情は読めないが、心なしか嬉しそうな感じなので私的には万々歳だ。
「ではルナ、続きをどうぞ。何の話してたっけ?」
「零史はマスターから能力を受け継いでいます。
"この世界の全てを飲み込める程の力と、それをエネルギーに替える能力"です。」
「ん?……それってアレに似てるね?
"ブラックホール"」
俺=ブラックホール?
俺はブラックホールになったのか。
なんか厨二病みたいになってきたぞ……そーゆーの大好きだ。
俺は自分の手のひらを見る。
ブラックホールの引力は、光すらも逃れる事が出来ないと聞く。
この世界のあらゆるものってゆーのが、文字通りの意味なら……。
試しに使い方とかは分からんが、俺はキッと手のひらを見つめて集中する……手のひらが光を吸収するイメージだ。
ルナの淡い光に照らされて見えていた手が……闇に沈む。
がらんどうの様に手首から先が見えなくなった。
(できたー!)
「イメージ力(りょく)が素晴らしいです。既に光速すら捕らえられるとは。マスターよりも使いこなしているかもしれません。」
「俺が元々居た世界にブラックホールってのがあって。それが似たような力を持っているんだ。この力を前の世界では"引力"って言ってた。」
回りに充満してると言ってたエネルギーも吸ってみると何となくわかってきた。じんわり手のひらが温かくなる……ような気がする。
イメージとしては、引力をon offできるブラックホールって感じかな?
光を吸収して手を点滅させるように消したり戻したりしながら、ふと思った。
「ルナは何で光ってるんだ?」
「私は零史の下位互換の様な能力があります。離れて居ても、遠隔操作のように私を介して零史の能力が使えます。
いまは変換したエネルギーを結合させてしょうじた光を放っています。」
わお、この能力。使い方によっちゃ超万能なのではないだろうか。
色々実験したい、超やりたい。
「ねぇルナ。この世界には俺たちしか居ないのか?」
「この世界も地球があった次元と同じように、人が暮らす惑星があり、太陽のような恒星に照らされています。」
「じゃーここは……?」
「ここはマスターが造り出した空間です。マスターは生涯をここで過ごされました。まれに人間の願いを叶えたり。災害や悪意を飲み込んだりしながら、世界を眺めていました。」
なるほど、マスター専用の部屋。みたいなもんかな?
ってか、ずっと引きこもってたのねマスター君や。
なるほど、漫画やアニメや小説で異世界に飛ばされるという話を読んだことがあるけど。
ここはどんな世界なんだろう。宇宙へ行く技術が有れば良いなぁ~。
よし俺は行く!外へ!!
なんたって、宇宙飛行士になるという夢はまだ俺のものだ。この体がとか、記憶がとかは難しいので考えない事にした。
前のマスター君が爆発した理由も気になるし、それが解明出来ないと、俺もいつ爆発するか分かんないもんね。
異世界だろうと地獄だろうと、とりあえず宇宙飛行士めざして頑張るのは個人の自由だよな!
こんな能力もってるマスターが居た世界だ。
空飛べる能力持ってる人とかが単独宇宙旅行とかしてるかも?
「そうと決めれば行こう。ルナ!君に決めた!!
ブラックホール、黒い明日が待ってるぜ!……なーんてな!!!」
あ、外に出る方法、教えてください。
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