大聖堂-3


「……で、メローリアだっけ?」


 様々な思考も一段落したところで改めて問う。


「YES!!」


 メローリアは心底楽しそうに答える。ティアの目にはやや奇抜にも映ってしまうのだが。


「まぁ、貴方が奇抜なのはわかったけど、その、エンターテインメント……って何?」


 彼女の言い方的に旧時代の娯楽を表す単語なのだろうけど、と推測はしてみるものの、それの成否を問える知識をはティアは持ち合わせていない。行動から推測するに人を騙したり驚かせたりする類のものなのかもしれない。

 と、解答を知りたくて彼女に問うたのだが……。


「……えっ、ティアっち知らないの?」

「いや、そんなさも当然のように言われても。悪いけど、私旧時代の知識はあまりないのよ。あとその呼び方は何」


 基本的に旧時代のものに触れる機会も少なく、行ったとしても教団などのいざこざに巻き込まれることが多かったためそこまで知る機会もなかったのだ。


「ふーん? ふんふん。じゃあ、ティアっちは前の世界……じゃなかった。時代のことは全然知らないの?」

「ええ、全くというほどではないけれど」


 あとその呼び方はやめてくれないらしい。


「ふーん…………面白いね! そんじゃー仕方ない。エンターテインメントっていうのは人々を楽しませる娯楽のことを指す言葉なのさ。かつてはこれを売りにするエンターテイナーって呼ばれる人たちがたくさんいたんだ」


 メローリアはふふん、と自分のことでもないのに自慢げに話す。それほどまでに自分のしていることに誇りを持っているのだろうか。


「……まぁ、だとしてもやりすぎには気をつけたほうがいいわよ。すぐに手を出す過激な灰喰らいだっているんだから。殺されても知らないわよ」

「……へーい。もー、つまらないねぇティアっちは。この様子だとお連れの子に手を出すのはやめたほうがいいかなー?」

「何しでかすかわかったもんじゃないからね。とはいえ、あいつも何かあったほうが少しは警戒心も戻るのかしら……」


 そもそも私が出会う前からこういった場所ではあれほどまでに不用心でいるのだろうか、などとティアは考えてしまう。


「ま、そのあたりは私が触れるのはやめとこっかなー。一応驚かす目的もあったんだけど、彼といろいろ話したいってのは本当なんだよ? だから、そのあたりは受け入れてくれると助かるなーって思うんだがどうでしょ。?」

「……いや、別に私はあいつの保護者なわけじゃ……」

「いやぁ、完全に保護者でしょ。わざわざ人間について歩いたりそうやって心配したり。人間側が灰喰らいを受け入れてるのも中々に珍しいけどね」

「……」


 確かに人間側が灰喰らいを受け入れてこうして行動しているのは珍しいのかもしれない。大抵は忌避されるようなものだから。ただでさえ奇抜……というか特殊な服装をしている上に全員もれなく少女の姿をしている。そんな姿で悠々と地上を闊歩していれば気味も悪いだろうし、近付こうとはあまり思わないだろう。


「……ああ」


 ティアはそこまで考えてはたと気付く。


「もしかして、貴方人間の『オトモダチ』ってやつが欲しいの?」


 そう、言った瞬間。しゅぼぼっ! と音が出そうなほど勢いよくメローリアの顔が赤く染まった。


「い、いやそんなんじゃないしただよく暇つぶしに掲示板覗いてたらなんか楽しそうだなぁって思ってそしたら地上にたまに出かけてるってやつがいてそんなん気になるじゃん灰喰らいの私でも姿変えたら普通に話せるんじゃねって思っちゃったわけよ悪い!?」

「……別にそこまでは言ってないけど」


 最初は否定から入ったのに最終的には開き直っていた。ものすごい速度である。


「貴方に悪意がないなら別に構わないわよ。他の灰喰らいを近づけない理由があるわけでもないし」

「やっぱ視点が親じゃん」


「ん?」


「あ、うんいやごめんて無表情でこっち見ないで怖い。というかティアっちもうちょっと笑おうよ。基本仏頂面じゃつまんないよー」

「……別にいいでしょ。わざわざ感情を顔に出すことを強要しないでもらえるかしら」


 ティアはじろりとメローリアを睨みつける。いや、ティア自身に自覚はないのだが、感情の起伏の少ない彼女が一瞥するだけでも、その雰囲気と灰喰らいという存在のおかげで十分すぎるほどの『圧』がある。


「……ったく、確かにこの様子じゃ苦労もするわけだ」

「何か言った?」

「いーや? 別に関係のないことよっと」


 ぼそりと、小さくつぶやいたメローリアの言葉はティアには聞き取れなかった。だが、何か自分のことを言われたことだけはわかった。


「ま、とりあえずそろそろ戻ろっか。クレイ君だっけ? あまり彼を待たせて怒らせてもいけないでしょ?」

「それは……そうだけど、貴方その姿で行ってもわからないと思うわよ」


 今の彼女の姿は灰喰らいの少女そのものだ。

 クレイの知っているメローリアはカメルという名のだ。決してメローリアという名の灰喰らいの少女ではない。


「わかってるっての。ということで私はこれからお着替えをするから~。出てってもらえますぅ? あ、それともの・ぞ・き・た・い、とか? いやー人気者は困っちゃうねえ!」

「同性だしそもそも脱ぎもしないでしょ。さっさと戻りなさい」

「ああもうノリ悪いなぁほんと! だがそれも良い!」

「うっさい早くして」


 ティアに雑に催促され、あーだこうだと言いながらもメローリアは周囲の灰を纏い、あっという間に今日出会ったカメルという青年の姿になっていた。背丈から服装まで完璧である。


「それじゃあ戻るとしようか。クレイ殿も待っていることだろう。なぁティア嬢?」

「貴方そんなキャラじゃなかったでしょ」


 飄々とした態度を崩さないメローリアにペースを乱されながらも、ティアたちは集合場所である入り口へと向かっていった。


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