人間と灰喰らい-5
「凄い、ほんとにあった……」
拠点を出立してから三日が経ち、目的の場所に近付くとそれはすぐに目についた。
灰を被り、かつて綺麗だったであろう外壁はその色を失ってしまっているが、その独特な造形は未だ灰の上に存在しており、少し離れたところからでも認知できるものであった。
「これは……教会、かしら?」
特徴的な三角の屋根にその周囲に聳える細い塔。建物を一目見ただけで何か荘厳なものを感じる雰囲気を持っている。
「たぶん、そうだと思う。以前読んだ本に似たような建物があったから。えっと確か……」
「大聖堂、さ」
ふと背後から声がかかる。振り向くと二十代前半くらいの青年が立っていた。当然ゴーグルとマスクで顔は覆われているので声だけの判断ではあるが。
「大聖堂はかつて存在したキリスト教と呼ばれる宗教の建築種別のひとつ。語義には教派によって差があるらしいけどね。まぁ、今現在においては残された美しき建造物というだけさ」
とん、と軽く外壁をつつく。
「あの、えっと……」
「ああ、自己紹介が遅れたね。私は
「あ、はい。そうです。こっちはちょっと諸事情でついてきたというかバレたというか……」
「……ティア。見た目でわかると思うけど灰喰らいよ」
ティアは特に気にすることもなく、普段通りの淡々とした態度で自身が灰喰らいであることを明かす。とはいえティアが言うように見た目でだいたいわかるのだが。
こんな灰の降り続く世界でゴシックドレスに身を包み、大した荷物も持たず出歩いているのだから。
「ほほう、驚いた。まさか灰喰らいとともに旅をしている人間がいたとは」
カメルは興味深げにティアを見る。しかし、ティア自体はさほど気にした様子もなく大聖堂を眺めている。
「まぁ、この世界は広いものだ。灰喰らいも多様なのかもしれないね」
「あはは……。僕も最初はびっくりしましたけどね。でもティアはそんな悪い子でもないので」
「誰がいつ貴方の子になったのよ」
「そんなことは言ってないよ!?」
「はっはっは。まぁ仲が良いのはいいことさ」
カメルは楽し気に声をかけながら鞄から何かを取り出した。それはどうやら鍵束のようだ。
「さて、ずっと立ち話もなんだろう。実は私もこの鍵を入手して初めてここを知ったのでね。まだ中には入っていないんだ」
「……その鍵束はどうやって入手したのかしら?」
「ま、ちょっとしたツテでね。とはいえ一人で探索というのも中々怖いだろう? ということで少しこういった建造物に詳しそうで、かつ地上もたまに出歩くという君に声をかけさせてもらったのさ」
カメルに連れられて聖堂の扉の前までやってくる。少し古びてはいるが未だその重厚な雰囲気は失われておらず、その神聖な扉を今開こうとしているという事実にどうしても心がうずいてしまう。
かつてあった文明の、その宗教と建造物の一部にこれから触れるのである。
隣を見れば顔には出ていないものの、ティアの眼には間違いなく好奇の色が見えている。
カメルの差した鍵は何ら不自由なく回り、カチリという音を立てる。それはまさに今、この扉の鍵が解かれたということだ。
鍵を抜き、扉に手をかける。
「では、いざご対面と行こうか」
そして大聖堂の扉が開かれた。
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