人間と灰喰らい-3


「それで、貴方が会話していたのは昔の知り合い……ってわけでもなさそうよね」


 以前と同じように二人並んで灰の上を歩く。今回もティアが空中の灰を除去してくれているのか呼吸はしやすい。


「そうだね。初対面かな」

「ふぅん……」


 ティアはいぶかしげにクレイの目をのぞき込む。クレイにその意図はわからないが、一瞬だけ、ティアの目に呆れの色が浮かんだような気がした。


「まぁ、貴方が良いと思ってるなら構わないけど、警戒だけはしておきなさい」

「警戒?」

「……まぁ、いいわ。それより少し迂回するわよ」

「え、なんで?」

「…………」



 ズベシッ



「あ痛ったぁ!?」


 無言でデコピンをかまされた。


「自分のいる場所くらい考えなさい。いくら灰喰らいといるとはいえ、気が緩みすぎ」

「あ……」


 そうだった、とクレイは思い出す。

 ここは灰に埋もれた死の世界。気を抜けば灰物に殺される。

 以前はあれほど警戒していたというのに。


(……確かに気が緩みすぎてる。気を付けないと──)


 見ると、すでにティアは先ほどまでの進行方向とは違う方角に舵を切っている。人間とは比にならない感覚を有するティアの助言にあらがう理由もない。クレイは急いでティアの後を追うのだった。





 地上を歩くこと数時間。灰物の巡回をティアの指示で回避しつつ着実に目的地へと向かっていく。とはいえ迂回をするたびに手元のメモにズレた分だけ書き込み、やり過ごしたらそのメモに沿って軌道修正。を繰り返すため思うように進んでいないのも事実である。


「……灰物ってこんなに地上にいるの?」

「当然。奴らは元からそれなりの数はいる。むしろ貴方が今まで殺されてないのが不思議なくらい」

「うっ……」


 今回の旅路は普段のクレイの行動範囲外であり、どうしても今までのデータに基づく回避行動かしにくい。それでも結構頑張って動き方を考えたのだが、それは先ほどティアに見せた瞬間に一蹴されてしまった。


 曰く、


「そんな憶測で灰物の回避は無理。あいつらはそこまで単純じゃない」


 とのこと。

 じゃあどうすれば良いんだと聞いたところ、


「振動と音で判断すればいい」


 と。


 普通の人間に無茶言うな、とは思ったが、言わないほうが良いと思ったので言わなかった。変にティアの気が変わりでもしたら、クレイはこんな初見の地に取り残されてしまうのだから。


(……以前までは、それも普通にあることだったのに)


 クレイとて同じ範囲にずっといるわけではない。地上の探索のたびに少しずつ少しづつ範囲を広げていった。その過程ではいつも初見の地はあった。

 だが、今回は普段とは圧倒的に離れた場所であり、すぐに見知った場所へと戻れるわけではない。きっと、そのせいもあってか今回は好奇心と共に不安も大きい。その中でティアという知り合いの灰喰らいという存在がいるのは大きい。


「……クレイ? 早く行かないともう日がくれるわよ」

「あっ、ごめん」


 少し思案しているうちに立ち止まってしまっていたらしい。

 目的地は一日で着く距離ではなく、途中で一夜を明かす必要がある。

 情報網が広がったことで地上に残る建物のデータも少し増えたため、今回の宿泊場所はなんとか目安をつけてある。日暮れまでにそこへ到着しなければ。


 クレイは少し小走りで先を行くティアを追う。

 今回の旅は、少し長い旅になりそうだった。

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