人間と灰喰らい-2


「──『では、三日後にこちらを出立して向かいます』と」


 Kamelと名乗る人物と『メール』で会話すること数日。特定の座標に存在すると思われる建物に行こうという意見がまとまった。

 情報検索の範囲が広がり、旧時代においての簡単な座標を特定するまではできたため、こうして他人とでも座標を共有して移動が行えるようになったのは大きな変化だ。


「この前はティアに『わかるわけないだろ』って言われたからね……。ティアにも共有できたら今度は怒られないかも」


 ティアと一緒にいたのはあの二日間だけであり、その後もそもそも外に出ていないのでティアとは会っていない。

 この辺りを担当しているらしいので外に出たら出会うかもしれないが。そうなった場合、また外に出たことを怒られそうではあるが……。


「……早朝にひっそりと出よう」


 もし見つかったら面倒なことになる……というか普通に怒られそうだ。

 また怒られたり呆れられたりするのは面倒だと思い、早々に準備を始めることにした。



 三日後の早朝。再び大きなリュックを背負い、ゴーグルと布で顔を覆う。携帯電話は灰物と出会った時が怖いので必要なとき以外は電源を切ることにした。

 食料はいつものぼそぼそとした携帯食料と、先日ユーファに貰ったドライフルーツも持っていくことにした。ドライフルーツはクレイの好みに見事に当てはまり、もったいなさからちまちまと食べている。

 それでも中身は次第になくなり、既に半分を切っている。もとより少ないものではあったが、一抹の寂しさも覚えるものだ。


「まぁ、食べれるだけ幸運だし、無駄にしないようにしないと」

 ドライフルーツを無くさぬようにしっかりとしまい、その他の道具類もてきぱきとリュックの中に詰めていく。

 現在受けている依頼は無し。渡すものも無し。忘れ物も多分無し。


「……よし、行こう」


 荷物を持って、目標地点もしっかりメモ。あとはいつも通りに地上を歩くだけだ。


 ──そして


「…………」

「久しぶりね、クレイ」


 梯子を上り、地上に出た瞬間のご対面だった。

 おそらく灰で作ったであろう椅子に腰かけ、ゆっくりと足をぱたつかせている灰喰らい。灰色の長髪に黒のゴシックドレス。間違いなく数十日前に共に旅をしたティアだ。彼女はまるで待ち構えていたかのように穴の近くで座っていた。

 久しぶりに会った彼女は以前と変わらない様子で悠然とした態度で存在していた。


「……久しぶり、ティア。ずっとそこにいたの?」

「いや、私がここに来たのはほんの数十分前よ」


 つまり、本当にばったり会ってしまっただけ? いや、それでも数分前からここに座っている理由にはならない。


「貴方、また出かけるんでしょう? それも旧時代の建築物の場所に」

「えっ、なんで知ってるの?」


 また怒られる、なんて思考よりも先に疑問符が浮かんだ。

 細かい話はメールで行っていたし、ましてやティアは掲示板などにアクセスする術すら知らないはず(と思う)。他の人が知っているとも思えないのだが……。

 が、当のティアは呆れたように告げる。


「……もしかして貴方、本当に気づいていなかったの?」


 そう言ってティアが裾から何かを取り出す。


「──あっ」


 ティアが取り出したのは以前見つけた鉄塊の一つ。どうやら以前説明のために手渡したやつを返してもらい忘れてたらしい。

 そして、その画面にはクレイがKamelとやりとりしていたメールがそのまま表示されていた。


 何故だろうと考えたが、すぐに結論に至る。動作確認のためにあの鉄塊もクレイの携帯電話と同期させ、通信を確認していたのだ。結果として、ティアが持っていた端末にもクレイの送ったメールとKamelから送られてきたメールが記録されていったのだろう。──つまり


「……今日、出かけることもあらかじめ知っててここにいた……?」

「当然。自殺志願者がわかっているなら来るでしょう?」

「あはは……」


 よし、帰ろう。Kamelには悪いけどこれは無理だ。そろっと梯子を下り──


「どこ行くのよ」

「え、自宅」


 これ以上地上にいる理由もないですし。


「……何で帰ろうとするのよ。さっさと行きましょ」


 ……ん? 止めるのではないのか?


「え、だって怒るんじゃ……」

「誰がいつ貴方を止めに来たと言ったのよ。行くなら私もついていくってだけよ」

「来るの? というか追い返さないの?」


 てっきり怒られるものだと思っていたので拍子抜けだ。そのうえティアも一緒に来るだなんて


「ああ、あまり自惚れないほうがいいわよ。あなた一人なら叩き返してたから

 あ、やっぱりある程度は怒っていたらしい。

「今回は他者との約束があるでしょう? それを蔑ろにすることを良しとしないだけ」


 ティアは椅子から降り、クレイのいる穴に近づき、覗き込む。


「だから今回も貴方の護衛をしてあげる」


 淡々と告げる少女の考えはクレイにはわからない。だけど、今回の旅も少し楽しいものになりそうだという感覚だけは、はっきりと感じたのだった。


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