第45話

さて、時は廻り、高校に入ってからの初めての大きなイベントがやってきた。二泊三日の自然教室だ。


 普通この「自然教室」という名の行事には、沢山の楽しい思い出が詰まっていることだろう。

 大自然の美しさを知り、そこから取れる恵みに感謝しながら友と寝床を共にする。

なんと素晴らしいイベントだろうか。


 だがしかし、僕はこの愛すべき学校行事を憎むことこそすれど、楽しみなどと思っていない。


 ……中学時代、暗黒の時代を過ごしてきた僕には、この行事は地獄以外の何者でもなかったのだ。


 例えば、カレー作りの時に僕だけ水回りをやらされる地獄とか。

 なんで僕だけで洗い物しなくちゃいけないんだよ。周りは班員全員でやってたよ。


 …まあ、そういう事で、僕はあのイベントに少なからず憎悪を抱いているわけだ。


 だが、今回の自然教室は案外楽しみだ。

 何故ならば、僕の所属している班には大輝がいるからである。


 仲のいい友達が一人でもいれば、班行動はずっと楽になるというもの。

 男子班と女子班という規則で雪菜や天沢さんとは別れたが、久しぶりに男同士での行動も良い。存分に楽しもう。



* * *



 自然教室当日、僕と大輝は集合時間に間に合うため、始発電車に乗った。


「5時半って早すぎだろ……始発なんて初めて乗ったぞ。」


 ぶつくさと文句を言う僕を大輝が嗜める。


「俺もだよ。けど、集合時間が6時半なんだから仕方ないだろ。」


「そうだよなぁ……」


 下り方面の路線、更に始発の電車の中には人が殆どいない。ちらほら見える制服姿は、同じ高校の人達だ。


 僕達は座席に座り、電車が駅に着くまでの暇を会話で潰すことにした。


「大輝、今日の予定分かるか?」


「ああ。…確か、目的地のナントカ山の施設に着いた後、登山するんだったか。」


 首肯し、その後を僕は続ける。


「登山が昼過ぎまであって、帰ってきて休憩した後はカレー作りだな。」


それを聞いて、大輝は思い出したように笑った。


「高校も中学も殆どスケジュールは変わんないな。」

 

「僕もそう思う。変わってるところといえば、ちょっとは娯楽要素があることくらいか。」


「……肝試しにキャンプファイヤー。公立高校の自然教室にしては、かなり贅沢だと思うぞ。」


 確かにそうだ。肝試しはまだしも、キャンプファイヤーまでする高校を僕はあまり知らない。もしかすると、この高校は結構良いところなのかもしれない。


 その後も色々と話をしていると、いつの間にか駅に着いていた。

 そして、いつもの場所で雪菜たちと合流した僕達は、集合場所の学校に向かう事にした。

 

 


 

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