第46話

 またまた時は過ぎて、自然教室一日目。僕達は現在、絶賛登山中である。


「………………」


「………………」


 ただひたすらに、頂上を目指す。道行く先にミミズが居ようがヘドロがあろうが関係ない。僕達は頂上を目指さなければならないのだ。 


 何故ならば……


「……なあ、拓海。」


「なんだ?」


「弁当……早く食いたいな。」


「言うな大輝っ!余計に腹が減るっ!」


 そう。僕達は昼飯である弁当を食べるためだけに登山をしているのだ。

決して、「大自然の雄大さに触れる」などというふざけた理由ではない。

『絶対に負けられない戦い』が此処にあるのだ。


……よし。頑張ろう。弁当の為に。


「………」


「………」


 数時間後、結局僕達は頂上に辿り着いた。

そして、しっかりと弁当を味わったのだが……


「…つまらんな。」


「…ああ。想像を絶する程に。」


 なんと、山を登ったら今度はただ降りるだけだった。同じコースを。同じ時間を掛けて。おまけに雨まで降る始末。斜面が滑って降りづらい。 


「拓海ぃ、こええよぉ〜」


「いきなりどうした、大輝?」


「怖いんだよぉ〜」


「……え?」


…ちょっと待て。何で神崎が此処にいる!?


「怖いよぉ〜結城ぃ!助けてよぉ〜!」


「うわっ!お前どうなってるんだ!?なんか体がチョコレートになってるぞ!?」


「チョコチョコチョコチョコ………」


待て待て待て!これは明らかにおかしい!

なんか皆んなチョコチョコ言ってるし!


「「「チョコチョコチョコチョコ……」」」



* * *



「っ!!」


何か耳元で囁かれる感じがして、バッチリ目が覚めた。視線をずらすと、バスの横の座席に座った雪菜が「チョコチョコチョコチョコ………」と囁いている。


「…………」


「…あっ、起きた?」


「ああ。最高に寝覚が悪かったが。」


「あはは、やっぱり?私がチョコチョコ言ってたら、拓海うなされてたもん。」


 こういう事を平然という辺り、雪菜の頭のネジは何処かが外れているのかもしれない。


 だが、それよりも今は………


「……なあ、雪菜。」


「ん?」


 僕は腹いせとばかりに、雪菜の耳で囁いた。


「そんなに僕を起こそうとするなんて……そんなに僕に構って欲しかったの?」


すると、雪菜は少し恥ずかしそうに頷いた。…普通、そこは否定するところだろうが。

余計に可愛いわ。


「だって、皆寝てるんだもん。今起きている人なんて、私と拓海と運転手さんくらいだよ?」


「ああ……」


 何となく状況は察した。雪菜は暇らしい。


「……で、何で僕を起こしたの?」


「それはね……」


雪菜は小悪魔的な笑みを浮かべ、小さな箱を取り出してきた。


「じゃーん!」


それを見て、僕は疑いようもなく答える。


「トランプ……だよね。」


「そう!トランプ!」


 雪菜は嬉しそうに言った後、束になったトランプを僕に向けた。

 

「じゃあ、拓海はこの中から一枚だけ引いて!」


マジックか何かをするつもりらしい。

そう油断してトランプを引いたのが間違いだった。


「こ、これは………」


そのトランプには、

『貴方の好みの女性のタイプは?』

と書かれていたのだ。


 雪菜は僕が引いた問題を確認すると、意地悪そうに言った。


「じゃあ、質問に答えなさい!さもなくば罰を与えます!」


「くっ!嵌められたのか!」


 ……これに答えないと本当に罰とやらを受けそうなので、素直に答える。


「……僕の好きな女性のタイプは、自分でも分かりません。」


「………えっ!?」


 雪菜は目を丸くしていた。まるで嘘偽りない回答が返ってくると予想していたかのように。

 そんな雪菜に教えてやる。


「確かに雪菜は問題に答えろって言ったけど、誰も『正直に』とは言ってないよ?」


 雪菜はそれを聞いて、「しまった!」という表情をした。しかし、すぐさまその手を塞いでくる。


「じ、じゃあ!もう一枚トランプを引いて、その質問に正直に答えなさい!さもなくば厳罰を与えます!」


僕は悠々と新たなカードを引く。何故ならば、僕がもう一度恥ずかしい質問を受ける確率は非常に低いと踏んでいたからだ。


……しかしまあ、予想は見事に裏切られる。


『貴方は、今目の前に座っている人の事をどう思っていますか?』


 (これは、最悪の質問だな……)


 僕は心身共に呻いた。


 この質問に答えると言う事は、僕の雪菜に対する恋愛感情を暴露するという事であり、今の僕にとって一番やりたくない事だ。


…しかし、雪菜は潤んだ瞳で催促してくる。

破壊力が半端じゃない。


「えっと……僕は………」


「………拓海は?」


「今目の前に座っている人の事を………」


「……事を?」


「………………」


さあどうしようと悩んでいる時、大きないびきが聞こえた。どうやら前の席の大輝のようだ。


……と、そこで妙案が浮かび上がった。

妙案というより、ただの屁理屈だが。


僕は勢いよく回転すると、大輝の方を向いた。


「えっと!僕は貴方に--------」


と言おうとして、雪菜に遮られた。


「それはダメだよ?九条くんは寝てるもの。」


「え、でも………」


「ダメなものはダメ。正直に答えなさい。」


「ぐう………」


 ……まあ、予想はしていた。

なので、覚悟も既に決めてある。


「僕は、月城雪菜さんの事を………」


「私の事を……?」


「す…………」


「す?」


「す…………好きですっ!」


そう言った時、視界が暗転した。



* * *



気がつくと、僕は眠りから覚めていた。

 ぼんやりと横を見ると、何故か雪菜がじっと見つめている。


「どうしたの?」


 気になって聞いてみたが、別に何でも無いと言われたので、僕は再び眠る事にした。


 微睡に落ちていく間際に、「私もだよ」という声が聞こえたのは多分気のせいだろう。

 






* * * *



さて、読んでくださった読者の皆様。

この話を書いた作者は現在、徹夜をしております。故に、テンションが物凄く高いです。


こんなおかしな話を書いたのも、俗に言う

「深夜テンション」の影響でしょう。多分。


更新ペースはまちまちですが、どうぞこれからもよろしくお願いします。

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