幕間:大輝と春菜①
※この話は、本編と時間軸がずれています。
俺の名は九条大輝。
今年からとある公立高校に入学してきた高校一年生で、最近少し困り事がある。
…んで、今俺の隣を歩いているのが俺の親友、結城拓海なのだが、コイツは普通の高校生ではない。
その原因は……
「ちょっ、雪菜!返せよっ!」
「ふふん。拓海は鈍チンだねっ!」
今、拓海の隣をすり抜けた美少女、月城雪菜にある。
…端的に説明すると、入試の合格発表で偶然出会ったこの美少女が、実は拓海の幼馴染みで、更に拓海の事をずっと好きだったらしい。
拓海も満更では無いようで、春休みの時にはデートとかしていたそうだ。
その甲斐あってか今では、
「本当もうお前ら付き合えよ」と面と向かって言いたいくらいのイチャつきぶりだ。
もうすぐ糖尿病になるかもしれない。
…まあ、拓海は今まで散々な目に遭ってきたし、そろそろ幸せが訪れても良い頃だと思っている。
…っと、長い話を続けてしまった。
本題に入ろう。
「困り事がある」と言ったと思うが----
「だーいき君っ!何ぼーっとしてるの?」
「…なんだ天沢。今俺は忙しいんだが。」
「ぼーっと宙を見つめる事に?」
「…そうだ。」
天沢春菜。コイツが俺の「困り事」だ。
その内容を説明する前に、天沢と俺が出会った経緯を話しておかなくてはならない。
…時は一ヶ月ほど前まで遡る。
* * *
三月某日。俺は拓海と共に、入学試験を受けに来ていた。
「じゃあな、大輝。」
「ああ。」
昇降口で拓海と暫しの別れを告げる。
…此処からは、俺だけで戦わなくてはならない。
試験会場の教室に着くと、時間が早いせいもあるのか、人はまだ疎だった。俺は指定された席へ荷物を置き、鞄から復習用のノートを取り出して読み始める。
半分程読み終えた所で、教室の殆どの席が埋まった。
空いているのは……え、俺の隣?
俺は席順表を思い出す。確か、俺の隣は女子だったはず。
…と、そこで教室のドアが勢いよく開いた。
「はぁ、はぁ……」
荒い息をたてながら入ってきたのは、一人の小柄な少女だった。その子は俺の隣の席に迷わず座る。
「ふぅ……間に合った……」
そう呟きながら鞄からタオルを取り出して、吹き出す汗を拭う少女。俺はチラリと横目で彼女を見る。
「…………」
普通に整った顔立ちをしているその少女は、汗を拭いたタオルを机に置くと、鞄の中身をゴソゴソとあせくりだした。
俺は直ぐに興味を無くし、またノートに目を落とす。
暫くゴソゴソという音が隣から聞こえていたが、不意にそれが途絶えた。代わりに、震える声が聞こえてくる。
「…ど、どうしよう……筆箱…無い……」
驚いて少女の方を向くと、鞄を見下ろしながら泣き出しそうな表情をしている彼女が目に入った。
「……………」
俺は特に何も考えず、自分の鞄から筆箱を取り出した。
ジッパーを開き、シャープペンシルを二本程と、予備の消しゴムを取り出す。
そして、震える彼女に小声で話しかけた。
「…なあ。」
少女はピクッと反応して、此方を向いた。
その瞳には、今にも零れ落ちそうな程の涙が溜まっている。
俺は笑顔を作り、出来るだけ優しい声で言った。
「これ、使って良いよ。」
少女は俺の手に乗った筆記用具を見て、次に俺の顔を見た。
暫くポカンと口を開けて彼女は俺を見ていたのだが……突然、瞳から一粒涙が溢れた。
「お、おい…泣くなよ……」
俺がそう言うと、彼女は慌ててゴシゴシと制服の袖で涙を拭った。そして、差し出された筆記用具を受け取る。
「…あ、ありがとうございます…」
「ああ。」
残りの半分を読もうと、俺はまたノートを見る。
試験が始まるまで隣からずっと視線を感じていたが、俺は特に気に留めず、落ち着いて試験に取りかかった。
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