第42話
教室に入ると、早速クラスメイトが寄ってきた。雪菜に。
…はいそこ。「週末何してた?」とか聞かない。
誤魔化すのに必死だろうが。雪菜が。
…そんな風に僕が無言のツッコミをクラスメイト達に入れていると、担任が入ってきた。
「席つけー。点呼とるぞー。」
担任がのんびり言うと、各々席に座っていく。
出席簿を担任が取り出し、点呼を取ろうとしたのだが……
「天沢。……あれ?天沢は?」
……え?天沢さん?
……そういえば、今朝は待ち合わせ場所に来ていなかった。
…何で気が付かなかったんだ?
「天沢さん、どうしたんだろう……」
隣の山崎さんが心配そうに呟く。
僕も内心、かなり心配になってきた。
何か知ってるかもしれないと大輝の方を見ると、向こうもこちらを見つめていた。目の合図で問いかける。
(何か知ってるか?)
(いや。お前は?)
(分からないな。)
大輝は知らないらしい。
天沢さんの事だから、休む時は大輝に連絡でもすると思ったのだが……
大輝に確認をとった僕は、今度は雪菜の方を向く。
こちらは距離が近いので、口パクで伝えられた。
(何か知ってる?)
(ううん。)
(拓海は?)
(さっぱり。)
(そっか。)
雪菜もダメか……
一体どうしたんだろう…
少し点呼は中断したが、いつも通りに続けられる。その後連絡が終わった後、ホームルームは終了した。
僕は早速大輝の所に向かう。
「大輝、天沢さんから何も連絡は貰ってないのか?」
「あぁ。土曜日に会ってから、一度も連絡は来ていない。」
と、その時。
ピコン!
メッセージアプリの通知音が鳴った。
音源は、大輝の制服のポケットだ。
「なんだ…?」
大輝はスマホを取り出して画面をスワイプすると、はぁぁ…、と溜息を吐いた。
「どうした?」
「春菜から……風邪で休むって……」
それを聞いて、僕も体から一気に力が抜けた。昨日からの先輩の件で、少しそういう心配をしてしまったのだ。
そしてそこへ、クラスメイト達にまたもや囲まれていた雪菜も小走りでやってきた。
「通知音が聞こえたけど、春菜ちゃんから?」
「あぁ。風邪で休むらしい。」
「良かったぁ……」
雪菜も僕と同じように安堵の溜息を吐いている。
……ともかく、先輩が絡んでいる可能性が消えて良かった。
…しかし、そこで僕はふと疑問に思った。
…そもそも、先輩が何かをしてくるなんて誰が言った?
…実際は、大輝と雪菜が少し変な質問をされただけじゃないか。
……もしかすると、本当に先輩は興味本位で聞いてきたのでは?
…考えれば考えるほど、先輩の事を勝手に誤解していたのでは?という思いが募ってくる。
……だがしかし、ここで油断するのは愚かな人間がする事だ。
取り敢えず、今日は先輩に接触しない様に気をつけよう。
そう心の中で今日の行動の方針を決めると、僕は雪菜達を近くに寄せ、同じ事を伝えた。
「了解。」
「分かった。気を付けておく。」
その後、担任に天沢さんが休む事を伝えた僕達は、それぞれの席に戻り、入学後初の授業を受ける事となった。
*
最初の授業は数学だった。
予習をバッチリしていた僕は、どんな授業をするのか楽しみにしていたのだが……
「えー……まず、最初に言っておこう。高校の授業、特に数学は予習をしないと着いて行けない!
だから君達には〜〜〜〜」
教壇に立った数学教師は、僕達に説教をしだしたのだ。それも、何処からそんなペラペラと言葉が出てくるのか?と言いたいくらいに長い説教を。
「〜〜だから、君達は大学受験も〜〜」
……話が飛んでるぞ……
「〜〜であるからして、古典や英語などは〜」
……いや、もはや数学ですらないぞ?
「〜〜〜〜」
結局、その時間の授業は全てあの教師の演説で終わった。
教師が出ていった瞬間、クラスメイト達がブーブー文句を飛ばす。その喧騒を聞いていると、横から溜息混じりの声が聞こえてきた。
「はぁ……予習してきたのに……」
見ると、山崎さんが見るからにがっかりした表情で教材を鞄にしまっている所だった。
僕も苦笑まじりに言う。
「僕もだよ。週末しっかり予習して来たのに…」
山崎さんは僕も予習をしていた事を知ると、プンスカと怒り出した。リスみたいになっている。
「だよね!ああいう行動が新入生のやる気を削ぐんだよ!」
「そうかも…………もしかすると、今日の授業は全部こんなのかもな。」
「……そんな………」
山崎さんは絶望に満ちたような声で言った。
僕は慌てて付け加える。
「た、多分だぞ?絶対じゃないから。そんなに絶望するなよ……」
すると山崎さんはこっちを見て、ふふふと笑った。
「………分かった。じゃあ、全部説教だったら結城くんの責任という事で。」
「え!?なんか凄いことを要求されそうで怖いんだど!?」
「別に?そんなに無茶なお願いをするつもりはないから。……例えば……クククッ!」
物凄く下卑た笑みを浮かべている。
…ちょっと距離を取ろう…
怖くなった僕が少し椅子を後ろにずらすと、山崎さんはムッとした表情でこちらに詰めてきた。
「ちょっと?何で椅子を下げたの?」
「いや……別に。」
そう言いながらも、僕は更に後ろに下がる。
「フゥーッ!……」
今度は唸り声を上げてきた。
……この人、本当に大丈夫か?
そんな風に、僕が山崎さんに恐怖していると、丁度次の授業担当の教師が入ってきた。
僕はチラリと山崎さんを見たが、さっきまでの恐ろしい姿は何処にもなく、至って真面目な顔でそちらを見ている。
……一体何だったんだ?
僕は先程の豹変した山崎さんについて考えていたが、教師が挨拶を促した事によってそれは中断された。
僕は姿勢を整えて授業を聞く体制に入る。しかし……
この授業も、説教だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます