第40話
次の日、雪菜は早々に荷物を纏めて帰って行った。
朝起きた時には完熟トマト状態だったので、それも仕方ないのかもしれない。
僕はというと、朝目覚めてから美少女が腕の中にいたので、少々夢見心地になってしまっていた。
……それ故に、奴の襲撃に気がつかなかったのだろう……
僕の家には、入口が二つある。
正面玄関と勝手口の二つだ。
勝手口のドアの鍵は、いつもそこの植木鉢の中に入れているのだが、それを知っている者は四人居る。
まず、僕と父さん。当然である。
そして昨日、雪菜にも教えた。いつでも来れるようにする為だ。
そして、最後の一人は大輝である。
これが意味する事は……
* * *
数分前、僕は雪菜を見送っていた。
「じ、じゃあ、もう行くね?」
「…本当に送っていかなくて良いのか?」
「…うん。大丈夫。」
「そうか……分かった。また明日。雪菜。」
「うん。バイバイ」
雪菜はそそくさと出て行ってしまった。僕は雪菜が出て行った正面玄関を暫く眺めて、ボソッと呟く。
「もう少し、居てくれたって良いじゃん……」
…その時。
「乙女が居るぞ…乙女が……」
「うわぁっ!」
急に後ろから声がした。
僕は叫び声を上げて前に飛び出す。
「誰だ!?」
「俺だ、俺。君の友達の大輝くんだ。」
振り返ってみると、本当に大輝がそこに立っていた。
「何だ…大輝か……って、何でこんな朝っぱらから上がり込んでんだよ!?」
「いやぁ……何となく面白い物が見られそうな予感がしたから。……で、来てみたら予感的中。」
「お前な……」
「それにしても……学校一の美少女を家に連れ込んで、更にお泊まりとは………やりますな……」
うるせ。ほっとけ。
「……まぁ、それは良いとして……」
「良いのかよ!?」
幼馴染といえども、女連れ込んでんだぞ!?貞操観念なさすぎだろ!
「……泊まる事を自体は別に良いだろ。……それよりお前、結構不味い事になってるぞ?」
大輝は、先程とは打って変わって真面目な表情で話し出した。
「え?何が?」
「ちょっとこれを見てみろ…」
大輝は自分のスマホを操作して、とある画面を見せて来た。
メッセージアプリのトーク画面の様だ。
「?」
よく見えないので、もっと寄って覗き込む。
すると……
*
クソ神崎
[急にフレンド追加してゴメン。一年一組の九条君だよな?]
大輝
[ええ。そうですが。突然どうしたのですか?]
クソ神崎
[ちょっと聞きたい事があってな……]
大輝
[聞きたい事、とは?]
クソ神崎
[…君の友達と、月城さんとの関係についてだ。]
大輝
[あ、すみません。それについては俺も詳しくは知らないんですよ。]
クソ神崎
[君は訊かれる度にそう言っているみたいだが……]
大輝
[や、本当に知らないんすよ。]
クソ神崎
[…だが、君は毎日あの月城さんや結城君と帰ってるそうじゃないか。何か隠してるんだろう?]
大輝
[隠すも何も、アイツらは只単に仲が良いだけですよ。]
クソ神崎
[そうか……分かった。時間を取ってしまって済まなかったな。]
大輝
[いえ。俺も先輩と話せて良かったです。]
クソ神崎
[そう言ってもらえると助かる。…それじゃあ、失礼するよ。]
大輝
[はい。失礼します。]
*
「成る程……」
あの神崎先輩が……ね。
それは確かに不味いかもな……
「俺が言っておきたいのは……あのクソ神崎は、近い内に絶対何か行動を起こすって事だ。
トークでは何とか誤魔化せたが、実際に俺が訊かれたりすれば誤魔化せる自信は無い。…だから、予め注意しとけよ?」
「…分かった。肝に命じておく。」
大輝のトーク画面の最新のコメント時間は、今から一時間前と書いてあった。
恐らく、大輝は神崎先輩と話終わると同時に、僕に知らせに来てくれたのだろう。
……それにしても……
「クソ神崎って……」
「いや、アイツはクソだ。今までも何人も女を取っ替え引っ替えしてるみたいだしな……」
あ、それは確かにクソだな。
男が一番やっちゃいけない事だ。
僕もそう呼ぶ事にしよう。
「……で。そのクソ神崎は具体的にどんな事をしてくるとかは……分からないよな……」
「…まぁ。良くて嫌がらせ。悪くてリンチだろうな……」
「それを平然というお前はどうかしてると思うぞ…僕は…」
「…まあでも、アイツは男子にかなり嫌われてるからな……来るとしたら、恐らく一人だろうな。」
「そうか……」
……久しぶりに、木刀持って素振りでもやっとくか……
僕がそんな事を考えていると、
「……じゃあ、言いたいことも言ったし……なぁ?」
「?」
大輝はニヤニヤとしながら聞いてくる。
「…昨晩はお楽しみでしたか?」
「…そりゃ、楽しいだろうな。」
「拓海の部屋を覗いた限り、布団などは一切有りませんでしたが?拓海君は一体どこで寝たのでしょうかねぇ……」
「……ソファーで寝たんだよ。」
「掛け布団なども何も無しに?」
「……………」
「パジャマ姿である事を見る限り、起きてまだ間もないと思うのですが…」
「…………」
「更に先程の別れの時の、月城さんのあの顔。真っ赤でしたが?」
「……」
「……一緒に、ご就寝なさったのですか?」
「…っ!ああっ!もう!そうだよ!一緒に寝たよ!」
「ほうほう……で、感想は?」
「…良い匂いがして……暖かかい---って、なんでお前にこんな事話さなきゃいけないんだよ!」
大輝はケラケラと笑っている。
そんなに僕をからかうのが面白いのか……
「さて、まだまだ訊かせて貰うぞ?拓海?」
「……好きにしろ。」
コイツに隠し事をできる気がしない…
…そして、僕はその後も小一時間ほど大輝に尋問され続けたのだった。
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
今回は読者さんからの要望があった事もあり、立てておいたフラグを回収しに来ました!
次はクソ神崎が絡んでくる……かもしれません…
次回もよろしくお願いします!
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