第38話
怖い怖い、寝ろ寝ろと言ってくる雪菜を何とか黙らせて、僕は一階に降りた。
雪菜が泊まる泊まらないに関わらず、こんな時間なので夕飯を作り始めなくてはならない。
一階に来て、冷蔵庫の中身を見て2人分の食材がある事を確認すると、いつものように夕飯を作り始めた。
メニューはナポリタン。
…豆知識だが、ナポリタンは日本食である。パスタなのに。
色々と準備をした後、麺を茹で始めた時、後ろから雪菜の気配がした。
さっさと作り終える為に色々と作業を並行してやっているので、振り返る余裕は無い。
そのままの体制で聞く。
「どうした?」
ほぇーっ、と感嘆するような溜息と共に、雪菜は言った。
「……拓海、動きが洗練されてるなぁって……」
「……小学校の頃から家事をやってたからな。嫌でも身につくさ。」
「ふーん……」
そこでふと疑問に思った僕は、雪菜に質問してみた。
「雪菜は料理とかやらないのか?」
すると……
「んー……拓海程では無いけど、お弁当くらいなら作れるよ?」
「へぇ……」
「へぇ……ってなに?もしかして、私が作れないのかと思った?」
ちょっと声色が冷たくなりました。……ご機嫌とりをしないと…
「…いやいや。月城さんが料理上手だから、雪菜もそうなのかなって。」
「ふーん………」
ふっ、この程度で騙されるとは、雪菜もチョロいな。
僕は別に褒めてないぞ?
そう心の中で蔑んだ時、脇腹に激痛が走った。
「いだだだっ!!」
見ると、雪菜が僕の脇腹を摘んでいる。服の上から。握力何キロだよ。
「………なんだかよく分からないけど、バカにされてるのは感じた。」
な、なんなんだ!?……まさか、
”開心術”を使いやがったのか!?
「レジリメンス!開心せよ!」
とか唱えたのか!?
「普通にエスパーって言えばいいのに……」
…エスパーですか?
……と、その時。
「…あっ!拓海!煙!煙出てる!」
「えっ?……うわっ!」
フライパンから煙が立ち昇っていた。
慌てて中身をかき混ぜる。
雪菜はそんな僕の頭をペシっと叩いて言った。
「もう…気を付けないとダメだよ?」
「あ…うん。ありがとう。」
うん。それは良い。
料理がダメにならなかったのは良いとして……
……さっきのは何だったんだ?
胡椒を加えて味を整えながら、そんな事を思うのだった。
*
出来上がったナポリタンを皿に盛り、テーブルの上に並べる。
「どうぞ。」
僕はそう言って雪菜を促した。
「いただきます。」
雪菜は姿勢良く座ってそう言うと、目をキラキラとさせながら食べ始める。少し失敗したので、ちゃんと美味しくできているかどうか心配だ。
「……どう?」
少し自信なさげに雪菜に聞く。
二口ほど食べた雪菜は、ニコッと笑って言った。
「…美味しい。」
「本当?」
「うん。麺がパラパラしてて食べやすいよ?」
「ああ……そうなんだ…」
多分、さっき焦がしたのが原因だろう。美味しいのなら良いのだが。
僕もフォークを持って食べ始める。
「……いただきます…」
一口分、麺を絡めて口に入れる。
………うん。
…案外美味いな……
雪菜の言った通り、麺はパラパラしていて歯応えが良いし、良くケチャップの香りが付いている。
10点満点中9点くらいは付けても良さそうだった。
「……美味しいでしょ?」
雪菜もニコニコしながら言ってくる。
皿にはほとんど麺が残っていない。
「うん……雪菜、おかわりいる?」
「…いいの?」
「うん。まだあるから。」
雪菜は嬉しそうにフライパンに駆け寄り、麺を掬った。
だが……
……量多くないか?
…そういえば、この前お泊まりした時の雪菜の分のカレーは多かったような気がする……
「いただきます!」
「ど、どうぞ。」
……結局、雪菜は合計3杯おかわりをした。
*
食事が終わった後、雪菜が片付けをやってくれると言ってきたので、厚意に甘える事にした。
「ありがとな。雪菜。」
「いいの。これくらいしないと……」
雪菜はエプロン姿でせっせと食器を洗っている。
なんだか、新婚のふう………お、お姉ちゃんみたいだな!
………お風呂溜めてこよう。
僕は熱くなった顔を冷ます為に風呂場に向かった。
お風呂を溜めてしばらくした後、アナウンスが鳴ってお風呂が沸いた事を知らせた。機械は便利である。
雪菜は既に洗い物を終わらせて、そのままリビングにあるソファーで寛いでいたので、お風呂を勧めた。
「雪菜、先にお風呂入ってきなよ。」
「…………………いいけど。」
「何?今の間は?」
「…私の残り湯を堪能しようとし----」
「するかい!!」
急に変なこと言うなよ!
意識するだろうが!
「…ふーんだ。もう良いもん。入ってくるもん。」
「そうそう。早く入って来い。」
雪菜は着替えやらなんやら持って、風呂場に向かって行こうとして……
「……覗いちゃダメだよ?」
「さっさと入って来いや!!」
何なんだ!?
まさか俺が覗くとでも!?
…そりゃあ、年頃の男子だから、覗きたい気持ちはあるけど……
流石に覗かないよな!?
覗いたら犯罪だぞ!?
…そう心の中で叫んでいる時、風呂場の方からシャワーの音が聞こえてきた。
「…………」
僕は無心で毛布を持ち出し、クッションを頭に押し当てて音を遮断し、何も意識しないようにするのだった……
<作者より>
今回も読んでくださってありがとうございました!
あと、応援を毎回下さる方もありがとうございます!励みになってます!
…さて、今日僕は大変な事に気づきました。
「…妹が、小説を書いている……!」
しかも、かなりレベルが高い…!
…多分、すぐに追い越されますね。
次男、次女が優秀と言うのは本当だったらしい……
…じ、次回もよろしくお願いします…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます