第36話
アルバムという物には、人の記憶を呼び覚ます力がある。
生まれてからの写真を集めたアルバムは勿論、メッセージ欄が空白の卒業アルバムだってそうだ。
そしてその力は、僕と雪菜の写真を集めたこのアルバムにも存在した。
…因みにこのアルバムは、月城さんが小さな僕達を見ていて、「良い!」と思った瞬間を撮ったものらしい。
「…ほら、この写真。私と拓海が、初めてお使いに行った時だよ。」
雪菜が指差した写真には、少し涙目になった少女と、その手を引いて此方に歩いてくる少年の姿が写っていた。
「…お使い……」
僕は記憶を辿って、その場面を思い出そうとする。
「…確か……財布を失くしたとか……だったっけ?」
「そう!結局財布は首にかかってたやつ!」
いや、ドジすぎるだろ。
僕は苦笑いしながら、次の写真を指差した。
「……で、これは?」
「これは………な、何だと思う?」
「え?これは風呂場……って!?」
写真には、白い湯気で満ちた浴槽が写っていた。
そして、湯気の奥に見える二つの小さなシルエット……
「私達が……は、初めて一緒にお風呂に入った時の写真です……」
「そ、そうですか……」
……これには触れないでおこう。
うん。それが良い。
「…じ、じゃあ、これは?」
「初めて…ぎ、ぎゅーした時の物……」
「……こ、これは?」
「お泊まりの時……一緒に寝た時の……」
「…………」
……普通の写真はないのか。普通の。
そうやって僕が、アルバムの内容に懐かしいような呆れたような思いを抱いていた時。
「……あれ?これは?」
ふと、一枚の写真が目に入った。
僕と雪菜が満面の笑みで手を繋いでいる。
「ねえ、雪菜。この写真は-----」
そう言いかけた。
…しかし、続く言葉は雪菜の叫びに掻き消されてしまった。
「なっ!何で!?どうしてこの写真が!」
「…この写真がどうかしたの?」
見た感じ、普通の写真に見えるけど……
「あ……そ、その……」
…先刻は、蠱惑的な言動で僕を魅了した雪菜だったが、今は何かを慌てて誤魔化そうとしている。
…そんな雪菜を見て、僕はニヤリ、と意地悪く笑った。
さっきの仕返しをしようと思ったのだ。
早速、僕は雪菜に聞いてみる。
「…雪菜?なんでそんなに慌ててるの?」
「っ!…慌ててない!」
雪菜は毅然と言い返したつもりらしいが、僕には見えている。
雪菜の耳が真っ赤に染まっているという事を。
僕はその事に気づかないフリをしながら、
「ふーん……」
と返事をしながら、密着したままの雪菜の肩に手を回し、自然に引き寄せた。
そして、さっき雪菜が僕にしたように耳元で優しく囁く。
「………ほんとうに?」
「〜〜っ!!」
ビクッ!と雪菜の肩が跳ねるが、お構い無しに僕は囁き続ける。
「…嘘は、ダメだぞ?」
「…ぁ……」
雪菜は小さく声を漏らしたが、依然として何も言わなかった。目が少しだけトロンとしている。
多分、もう少しだな。
「……ほら、雪菜…言いなよ……言わないと……」
「ひ、ひゃい!言いましゅ!言いましゅからぁ!」
遂に限界に達した雪菜は、体をビクビク震わせながら降参した。
「…最初からそう言えば良いものを。」
「はぁ……はぁ………」
雪菜はしばらく荒い呼吸を繰り返した後、ようやくこの写真について説明し始めた。
「こ、これは……私と……拓海が……」
「僕と雪菜が?」
「………け……」
「…け?」
そして、雪菜は言い放った。
「結婚の約束をした時のです!!」
「…………」
…今まで生きてきた中でこの時ほど、
「聞かなきゃよかった」
と思ったような事は無い……
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
フォローしてくださった方、応援して下さった方もありがとうございます!
さて…今回のお話は糖度がとても高かったですね……
作者も描きながらニヤニヤしておりました…
読んでいる中で、
「こうしたらもっと良い!」というような事を思った方は、是非コメントして頂けると嬉しいです!
(文章力を付けたいので…)
次回もよろしくお願いします!
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