第33話
あの後、僕と雪菜は少々ぎこちない雰囲気のまま学校へと向かった。
通学路はいつもより時間が早いせいか、人がまばらだった。
しばらくして学校に着いて、僕達が靴箱に辿り着く直前、雪菜の前に一人の男子が現れた。
「あ、あのっ!」
手には白い封筒。
ガチガチに緊張した体。
これはもしや……
「い、1年5組の篠崎秀一郎と言います!月城さん!好きです!付き合ってください!」
「…ごめんなさい。貴方とは付き合えません。」
「そ、そんな……うぅ……」
雪菜に即バッサリと斬られた篠崎君は、肩を地に着けそうなほど落として帰っていった。
その背中は痛々し過ぎて見ていられない。
しかし雪菜は、何事もなかったかのように上履きを履き替え出す。
僕達はそんな異常な光景に唖然として固まっていた。
「せ、雪菜ちゃん…結構残酷に行くね……」
「あ、ああ……僕もあそこまでバッサリ切るとは思ってなかった………」
前も見た事あるけど、誰にでもこんな振り方をするんだな……
雪菜は上履きを履き替えようとしていたが、僕達が固まっていることに気づいて苦笑した。
雪菜にとって、こんな事は日常茶飯事なのだろう。
「…もう、そんな顔しないでよ。早く行こう?」
「あ、うん。」
「そうだな…」
僕達は顔を見合わせると、靴箱に向かって歩き出した。
*
教室に着き、昨日の様に男子達から好待遇を受けて鞄を机に置くと、山崎さんが話しかけてきた。
「ねぇ、結城くん。」
「ん?」
「月城さん、凄いらしいよ?」
「何が?」
「2年の神崎先輩の告白、秒殺したって……」
「そ、そうなのか……」
神崎先輩というのは、この学校一のイケメンと称されている、サッカー部所属の2年の先輩だ。
人当たりが良く、イケメンなのでそれはそれはおモテになるらしい。
実は僕も一度だけ、入学式の直後に見た事があるのだが…アレは凄かった。
何せ、周りにいる人間はみんな女子。完全なハーレム状態だったからだ。
イケメンは滅びるべし。みんな同じ顔になれば争いは起きない。
でも、雪菜はそんな神崎先輩を振ったんだよな……
「凄いよね…あの神崎先輩だよ?私なら一発で落ちちゃうかも……」
山崎さんがニヘラっと笑いながら言う。
「…そうだよなぁ……」
本当に、どうしてこうも告白を頑なに断り続けるのか。
そう僕が思考を巡らせていると、聴き慣れた声が横から聞こえてきた。
「拓海、明日どうする?」
「え?」
見ると、雪菜が山崎さんの席に座っている。
いつの間に入れ替わったんだ!?
「ほら、明日遊ぶって約束したじゃん!」
「ああ……」
…そういえば、昨日そんな約束をしたんだった。
色々と忙しすぎて忘れてたな……
「もう、ちゃんと覚えててよ?」
「ごめんごめん……で、どうする?」
「…あ、それなんだけどね?その……」
雪菜は、急にモジモジし始めた。
これは……恥ずかしい事を言う時のサインだな?
もうそろそろ雪菜の事が分かってきたぞ。
「…た、拓海の家に行きたいの……」
ふむ……
……みんなは、美少女がはにかみながら「あなたの家に行きたい」と言ってきたら、断れる?
もし自分の部屋がかなり汚くて、掃除をしないと不味い状態でも断れるかな?
僕は意志が強いから、ちゃんと断-------
「……ねぇ……ダメ?」
----れません。はい。
「…いいよ。」
僕が雪菜の可愛さに屈してそう言うと、雪菜はパァっと表情を明るくし、にっこりと笑って言った。
「やったぁ!前から行ってみたかったんだぁ!」
そんな雪菜を見て、ふっと顔の筋肉が緩む。
あぁ……今この瞬間は幸せだな……
あ、掃除……まあいっか。
雪菜の為だしな。
頑張って終わらせよう。
可愛いは正義。これは真理なのだ。
その日の授業も昨日と同じくホームルームだけで退屈だったが、ずっと幸せな気持ちだけは続いていた。
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
次回は雪菜さんが拓海君のお家にお邪魔する事になりそうですね。
……あ、面白い!と思った方は、感想や評価お願いします。
コメントとか、星とかは幾ら貰っても嬉しいので。
次回もよろしくお願いします!
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