第33話

あの後、僕と雪菜は少々ぎこちない雰囲気のまま学校へと向かった。

通学路はいつもより時間が早いせいか、人がまばらだった。



しばらくして学校に着いて、僕達が靴箱に辿り着く直前、雪菜の前に一人の男子が現れた。


「あ、あのっ!」


手には白い封筒。

ガチガチに緊張した体。


これはもしや……


「い、1年5組の篠崎秀一郎と言います!月城さん!好きです!付き合ってください!」


「…ごめんなさい。貴方とは付き合えません。」


「そ、そんな……うぅ……」


雪菜に即バッサリと斬られた篠崎君は、肩を地に着けそうなほど落として帰っていった。


その背中は痛々し過ぎて見ていられない。


しかし雪菜は、何事もなかったかのように上履きを履き替え出す。

僕達はそんな異常な光景に唖然として固まっていた。


「せ、雪菜ちゃん…結構残酷に行くね……」


「あ、ああ……僕もあそこまでバッサリ切るとは思ってなかった………」


前も見た事あるけど、誰にでもこんな振り方をするんだな……



雪菜は上履きを履き替えようとしていたが、僕達が固まっていることに気づいて苦笑した。

雪菜にとって、こんな事は日常茶飯事なのだろう。


「…もう、そんな顔しないでよ。早く行こう?」


「あ、うん。」


「そうだな…」


僕達は顔を見合わせると、靴箱に向かって歩き出した。



教室に着き、昨日の様に男子達から好待遇を受けて鞄を机に置くと、山崎さんが話しかけてきた。


「ねぇ、結城くん。」


「ん?」


「月城さん、凄いらしいよ?」


「何が?」


「2年の神崎先輩の告白、秒殺したって……」


「そ、そうなのか……」


神崎先輩というのは、この学校一のイケメンと称されている、サッカー部所属の2年の先輩だ。

人当たりが良く、イケメンなのでそれはそれはおモテになるらしい。


実は僕も一度だけ、入学式の直後に見た事があるのだが…アレは凄かった。


何せ、周りにいる人間はみんな女子。完全なハーレム状態だったからだ。


イケメンは滅びるべし。みんな同じ顔になれば争いは起きない。


でも、雪菜はそんな神崎先輩を振ったんだよな……


「凄いよね…あの神崎先輩だよ?私なら一発で落ちちゃうかも……」


山崎さんがニヘラっと笑いながら言う。


「…そうだよなぁ……」


本当に、どうしてこうも告白を頑なに断り続けるのか。


そう僕が思考を巡らせていると、聴き慣れた声が横から聞こえてきた。


「拓海、明日どうする?」


「え?」


見ると、雪菜が山崎さんの席に座っている。


いつの間に入れ替わったんだ!?


「ほら、明日遊ぶって約束したじゃん!」


「ああ……」


…そういえば、昨日そんな約束をしたんだった。

色々と忙しすぎて忘れてたな……


「もう、ちゃんと覚えててよ?」


「ごめんごめん……で、どうする?」


「…あ、それなんだけどね?その……」


雪菜は、急にモジモジし始めた。

これは……恥ずかしい事を言う時のサインだな?

もうそろそろ雪菜の事が分かってきたぞ。


「…た、拓海の家に行きたいの……」


ふむ……


……みんなは、美少女がはにかみながら「あなたの家に行きたい」と言ってきたら、断れる?


もし自分の部屋がかなり汚くて、掃除をしないと不味い状態でも断れるかな?


僕は意志が強いから、ちゃんと断-------


「……ねぇ……ダメ?」


----れません。はい。


「…いいよ。」


僕が雪菜の可愛さに屈してそう言うと、雪菜はパァっと表情を明るくし、にっこりと笑って言った。


「やったぁ!前から行ってみたかったんだぁ!」


そんな雪菜を見て、ふっと顔の筋肉が緩む。


あぁ……今この瞬間は幸せだな……


あ、掃除……まあいっか。

雪菜の為だしな。

頑張って終わらせよう。


可愛いは正義。これは真理なのだ。


その日の授業も昨日と同じくホームルームだけで退屈だったが、ずっと幸せな気持ちだけは続いていた。





<作者より>


読んでくださってありがとうございました!


次回は雪菜さんが拓海君のお家にお邪魔する事になりそうですね。


……あ、面白い!と思った方は、感想や評価お願いします。

コメントとか、星とかは幾ら貰っても嬉しいので。


次回もよろしくお願いします!

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