第32話
次の日。
僕は少し早く起きて、一本早い電車に乗った。
そして、電車の中。
「…なぁ、拓海?」
「…なんだ?」
「今日はいつもより早く会えるな。」
「ゲホッ!ゲホッゲホッ……………べ、別に雪菜と早く会いたいからとかじゃねえし。」
「…あれ?俺一言も月城さんとは言ってないけど?」
「……………」
「拓海って結構ウブなんだよなぁ……って、顔赤っ!」
「…………」
……やめてくれ。頼むから。
「クックック……これはからかい甲斐がありそうだぜ……」
「…………」
……結局、高校の元寄り駅に着くまで大輝の攻めは続いたのだった。
* * *
いつも待ち合わせている所に行くと、既に雪菜は来ていた。
「おはよ!拓海と九条くん!」
「おはよう雪菜。」
「おはよう」
挨拶されて、つい顔が緩む。
大輝がそんな僕を見てニヤニヤと笑ったので、慌てて顔を引き締めた。
と、その時。
「そういえば、今日は少し早いよね?拓海?」
「…へ?そ、そうか?」
不意打ちをくらい、変な返事が出てしまった。
「うん。いつもより20分くらいは早いよ?」
「あー…そうだな……………あ。そうだ。天沢さんは?」
「……露骨に話題を逸らしたね?」
雪菜さんは随分とお鋭いらしい。
「…いえ……その………」
しどろもどろしていると…
「…まぁ、良いけど。早く会えて嬉しいし。」
「……え、それって。」
僕がそう言おうとした時、突然雪菜の背後から、ニュッと手が生えてきた。
手は背後から雪菜に抱きつき、更に雪菜の肩越しから声が聞こえてくる。
「心の声が漏れちゃったんだよね!雪菜ちゃん!」
「きゃっ!?ちょっと!春菜ちゃん!?」
声の主は天沢さんだった。
雪菜の体をこれでもかというほど抱きしめている。
…僕もそれしたい。
……というか、雪菜と天沢さんって、こんなに仲良かったっけ?
……それに、さっきの言葉。
“早く会えて嬉しい”
もし僕に向けられていたのなら……
…あ、やべ。また顔が緩んできた。
僕は再度顔を引き締めると、天沢さんに挨拶した。
「おはよう。天沢さん。」
「おはよー結城くん。大輝くん。」
「おう、おはよう。」
挨拶を済ませると、天沢さんはこちらを見て、ふっふっふ……と、不気味な笑い声を出した。
何故か冷や汗が出る。
「結城くん……」
「は、はい?」
「昨日………雪菜ちゃんを置いて帰ったでしょう?」
「そ、それは………」
必死に言い訳を考えていると、天沢さんは驚くべき事を言ってきた。
「雪菜ちゃん、めちゃくちゃ寂しがってたよ?」
「え?」
「ちょっと!春菜ちゃん!」
「私が学校まで戻って迎えに来ても、”拓海じゃ無---「わ〜っ!春菜ちゃんダメーっ!」-----なんて言ってたし。」
「………………」
「…あ、あれ?結城くん?」
「…………………」
天沢さんが話しかけているが、オーバーヒートしている僕には聞こえない。
……雪菜が寂しがってた?
迎えに来た時、僕じゃ無い、なんて言った?
それって………
いや、違う違う!そんな都合のいい事がある訳が無い!
……でも、もしそうだったら………
………めちゃくちゃ嬉しい………
僕は頭の中の妄想に浸りすぎて、目の前の状況に気付いていなかった。
次の瞬間、ドン!と体に衝撃が走り、柔らかくて甘い匂いのする何かがぶつかってきた。
慌てて現実を見る。
僕がトリップしている間に、「何か」が起こったらしく、そこには僕の胸に体を預けて、上目遣いでこちらを見る雪菜がいた。
自然と見つめ合う僕達。
「……………」
「……………」
「…………………」
「…………………」
甘い匂いと暖かい体温で精神が限界に達した僕は、顔を逸らして言った。
「せ、雪菜……そろそろ離れてくれ……」
「ご、ごめん!」
バッ!と体制を立て直す雪菜。
だが………
「……雪菜?なんで僕のシャツを握ってるの?」
「…………」
顔を真っ赤にして、こちらを睨んでくる雪菜。
…正直、シャツの裾をちょこんと握りながら睨まれても、迫力など微塵も感じない。
「あの……雪菜?そろそろ……」
僕がそう言うと、雪菜は更に眼光を強くして言った。
「…今日、一緒に帰ってくれるなら、離す。」
「……………」
……もうね。可愛すぎてやばい。
うん。語彙がこれしか出てこない。
やばい。ヤバすぎる。うん。
………返事をしましょう。
「分かった。帰るから離してくれ………もう限界……」
雪菜はパッと手を離した。
そして、そのまま天沢さんの元に直行する。
天沢さんは、何故か顔を青くして懇願していた。
「せ、雪菜ちゃん!ごめんなさい!許してください!」
「ふふふ……春菜ちゃん?覚悟はいい?」
「い、嫌……いやぁ!」
「ふふふふ………」
早朝の閑静な通学路に、女子の悲鳴が叫び渡った。
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
今回は、砂糖を多めに投入いたしました。
味はいかがだったでしょうか?
次回もよろしくお願いします!
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