第30話
学校へと着く頃には、僕達の間に流れていた気まずい雰囲気は綺麗さっぱり消えていた。
そして、昇降口にある下駄箱で僕達は靴を履き替えようとしたのだが……
「はぁ……」
雪菜が自分の靴箱を見て溜息をついている。
「どうした?」
と、僕は聞いてみたのだが……
雪菜の下駄箱を覗き込んだ瞬間、事態を把握した。
「ラブレター………」
僕がそう言うと、雪菜は困ったように頷いた。
「…昨日と合わせて、これで3通目。」
「マジか……」
そういう僕も平然と答えているが……
実は、心の中で"嫉妬"というドス黒い炎が渦巻いている。
そんな気持ちを無理やり押し込めて、僕は雪菜に聞いてみた。
「…これ、どうするの?」
すると雪菜は、
「断る。」
と、キッパリと言った。
…しかし、僕には当たり前のように告白を断ると言った雪菜の心情が理解できない。
「……なんで、会う前から断るって決めてるの?」
すると、雪菜はまたもや溜息をついて僕に聞いた。
「…靴箱に毎日、それぞれ違う人からのラブレターが入っていました。……拓海ならどう思う?」
正直に答える。
「……嬉しい、かな?…あ、でも、毎日入ってたら少し困るかな……」
後半の部分を聞き、雪菜はウンウンと頷いて言った。
「そう。その気持ちなのよ。今の私は。…まぁ…他にも理由はあるけど…」
そう言って、雪菜はチラチラとこちらを見る。
「……そ、そういうものなのか…?」
モテる人の気持ちは理解できない。
"告白慣れ"というものなのか?
ところであの後、雪菜が恨めしそうにこちらを見ていたのだが……
僕、何かしたっけ?
*
教室に着くと早速クラスメイトが雪菜に寄ってたかり、我先にと挨拶をしていた。
物凄い人気っぷりだ。
それに引き換え僕はというと……
「あ、おはよう九条…あと結城も」
「おはよう九条…と、結城。」
昨日の出来事からか、完全におまけ扱い……というか、意図的に軽んじられていた。
…まあ、こんな可愛い嫌がらせなど僕にとってはストレスにもならないのだが。
僕はちゃんと挨拶を返し、クラスメイトにチラチラと視線を送られながら席に着く。
横を見ると、既に昨日の女の子が座っていた。
…あ、昨日の自己紹介の時に知ったのだが、この子の名前は山崎玲奈というらしい。
僕が鞄を置いて席に座ると、山崎さんはこっちを向いて
「おはよう。」
と挨拶してきた。
「おはよう。」
と返す。
そしてふと思った。
…この教室に入ってきて、初めてのまともな挨拶だな…
しみじみとしている僕を見て、山崎さんは苦笑しながら僕に言った。
「朝から大変だね、結城くんは。」
男子達の事を指しているのだと気づき、僕も苦笑しながら返す。
「…まあ 、自分が撒いた種だからな。仕方ないよ。」
「そう?私は、誰と仲良くなろうとその人の勝手だと思うけど……」
「うん。それが理想なんだろうけど……」
「…無理そうだね。」
「うん。」
…そう。無理なのだ。
みんながみんな、同じ価値観を持っているわけがない。
僕と雪菜は同じ人間なのに、こうも扱いが違うのがその証拠だ。
…でも、山崎さんはそんな事など気にせずに僕に話しかけてくれた。
単純に興味があったから、という訳でもなさそうだ。疑問に思った僕は直接聞いてみる事にした。
「ねぇ山崎さん。」
「ん?」
「山崎さんはどうして昨日、僕と話してくれたの?」
すると、山崎さんは少し考え、
「…悪い人じゃなさそうだから。」
と言った。
僕は少し驚いて、
「悪い人じゃない、ってどうして思ったの?」
と聞いた。すると……
「…最初に話した時。私が緊張してたから、無理やり仲良くなろうとしなかったでしょ?」
「え?」
……確かに昨日、僕は彼女にあまり接近しようとは思わなかった。
でもそれは、あくまで自分と同類だと思ったからであり、決して気を遣ったのでは……いや、気を遣ったのか?
昨日の自分を振り返っていると、山崎さんは話を続けてきた。
「…私、初対面の相手だと緊張しちゃうんだけど……でも、そんな時に待ってくれるような人と仲良くなりたかったんだ。」
満面の笑みでそう言われたら、
「そんなつもりは無かった」なんて言えない。
「そ、そっか…」
僕はぎこちなく笑って、その場を流そうとする。すると、タイミング良く雪菜がこちらに近づいてきた。
「拓海。」
「どうした?」
「ちょっと聞きたい事があって……あ、ごめん。山崎さんと話してた?」
「…ううん、大丈夫。」
山崎さんは首を振って否定した。
「ありがと。」
「聞きたい事ってなんだ?」
「クラスの係決めの事なんだけど……」
「あぁ…」
雪菜が言った"係決め"というのは、今日の一時限目に行われるクラスの役員決めの事だ。
役員の表は既に教室の掲示板に貼られており、上から順に、「体育、保健、風紀、図書、文化、選挙管理」
という6つの委員会があり、更にその下に各教科の提出物を集める係などが掲示されている。委員会も係も、それぞれ男女1名ずつ、クラスメイト全員が担当する。
因みに、僕は既に入る委員は決めている。
みんなだったらわかるよな?
そう。図書委員だ!
……おい、誰だ?いま根暗代表とか言ったやつは。
図書委員は至高の委員だぞ?
好きな本を好きなだけ読み漁れるし、それだけで内申書に"図書委員"の称号が付くのだ。
しかも、長く委員会を続ければ司書の先生とも仲良くなれる。
……とにかく、図書委員こそ至高!
僕達の学校での楽な委員会の代表!
異論は認めない!
僕が心の中で一人芝居を打っていると、突然視界がグラグラと揺れた。
「た・く・み!返事して!」
まだクラクラしている頭で見ると、雪菜が頬をぷくっと膨らませてこっちを睨んでいる。素直に可愛い。
「ごめんごめん……で、何だっけ?」
「もう………委員会、拓海はどこに入るか決めてるの?」
「ああ、うん。僕は図書委員になろうと思ってる。」
「図書委員ね………分かった。」
…あ、そうだ。
「雪菜も一緒にする?図書委員。」
すると、雪菜はパァッと顔を輝かせた。
「…いいの?」
「もちろん。むしろ雪菜が良いよ。」
僕がそう言うと、雪菜は何故か、
バッ!と後ろを向いてしまった。
ちょうど後ろを向いた雪菜の真正面にいた山崎さんが、コテンと首を傾げて言う。
「どうしてにやけ--ムグッ!」
「?」
何かを言いかけたみたいだが、神速で動いた雪菜に口を塞がれてしまった。出てくるのは踠き声のみ。
「んぐ〜っ!んぐ〜っ!」
「ちょっと黙ってようか?山崎さん?」
雪菜がそう言うと、何を見たのか、山崎さんは顔を青ざめて必死に頷いた。
そんな山崎さんの様子を見て、僕もこの事には関わらないでおこう、と思ったのだった。
<作者より>
読んでくださってありがとうございました!
次回も頑張りますので、よろしくお願いします!
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