第29話

お互いの事をより深く知った次の日、僕と雪菜は一緒に登校していた。

勿論大輝達も一緒だ。


そして、僕と雪菜との間には、複数の変化が起きた。


まず一つ目の変化は、二人の距離が縮まったという事だ。

心の距離というのは勿論だが、今歩いている時にも、僕と雪菜との距離はいつもより近い。


そして次に、お互いの事を絶対的に信頼するようになった、という事だ。


僕も雪菜は今までもお互いの事を信頼していたのだが、昨日の出来事で、更に信頼が深まった。

海よりも深く、山よりも高い信頼だ。



そして、そんな僕達を見て大輝は、僕と雪菜がいつもより物理的にも精神的にも距離が近い事に気付いたのか、

僕の顔を見てムカつく笑みを浮かべていた。


…だが、そういう大輝も天沢さんとの距離がいつもより近かったので、その事を小声で指摘するとそっぽを向いてしまう。


あくまで僕をからかうだけのつもりのようだ。


そんな風に僕と大輝が無言のやりあいをしている所に、雪菜が話しかけてきた。


「今日の授業って、ホームルームだけだよね?」


「…うん。そうだよ。」


僕は頭の中に入っている時間割を確認し、答えた。


…今週は、水曜日に入学式があったので、今日も入れてあと2日で土日になる。


今日が教科書などの販売日で、明日がクラスの係決めになるので、今週は一度も授業がない。


土日に予習をしておくべきかな。


僕がそんな事を思っていると、雪菜はチョンと僕の肩を突いてきた。


「ねぇ……」


「なに?」


「土曜日、暇?」


「暇だけど……」


僕がそう言うと、雪菜はパッと顔を輝かせた。


「じゃあ、遊ぼ?」


「小学生かよ……」


僕は苦笑して言った。


暇だから遊ぶ、なんて言葉を聞いたのは小学生以来だ。


……あ、そうだ。


「遊ぶのもいいけど、僕は来週の授業の予習をするよ。」


「えぇ……そんな事しなくてもついていけるでしょ」


「…雪菜………それは違うぞ。」


「え?どうして?」


僕は雪菜に、高校の授業が一体どれ程中学と違うのか、懇切丁寧に説明する。


「まず、中学と根本的に違うのは、ほぼ同じレベルの人達が集まっている、と言う事なんだ。」


「私は違うよ?」


そりゃそうだ。雪菜だったらどこの高校にでも受かる。

でも、他の人は違うんだな、これが。


「雪菜は例外。レベルがまずぶっ飛んでる。」


「ふふん。」


雪菜は得意そうに鼻を鳴らした。

あどけなくて可愛らしい。


「…でもな?雪菜以外の人達は必死こいてこの高校に入学したんだ。」


「大変だったんだね……」


「そうだ。そしてな?春休みの間、僕達は勉強を全くしていない。」


「え?私、したよ?数学だけ半年分くらい。」


「……は?」


とんでも無いことが聞こえた気がする。


……半年分くらい?


いやいや、おかしい。


高校の授業は中学の2倍は難しい筈。

数学は3倍だ。


それを二週間足らずで半年分?


「雪菜…嘘はダメだぞ。」


僕がそう言うと、雪菜はムッとした顔をして言った。


「嘘じゃないよ?ちゃんとノートもあるし。」


雪菜はカバンの中を弄ると、一冊のノートを取り出した。

ルーズリーフを挟んでパッチンする奴だ。


「はい。」


僕は受け取ったそのノートを開いた。


そして……今世紀最大級に驚いた。


新世紀にもこんな驚きはないと思う。


雪菜が僕に手渡したノートには、要点だけが簡潔に纏められた、数学の参考書のようなものが出来上がっていたのだ。


僕はページをめぐって確認する。


因数分解とたすき掛け……高次方程式……二次関数……順列と確率……三角関数……


このノートを作ることはともかく、授業や教科書無しで理解することは相当に難しい筈なのだ。


…えぇ……この人、ちゃんとホモ・サピエンス?


僕はそんな意味不明な事を思い、雪菜に無言でノートを返して、ガシッと雪菜の肩を掴んだ。


細くて柔らかい。


「ど、どうしたの?」


そう言って、赤くなって慌てる雪菜。

僕は雪菜の目を真っ直ぐに見てお願いした。


「雪菜…僕に……勉強を教えてくれ……」


どこかの三刀流の剣豪みたいな言い回しだな、と自分で思ったのは秘密だ。


「う、うん。分かったから……近いよぉ……」


ブツブツと呟く雪菜から僕はパッと手を離し、合掌してお礼を言った。


「ありがとう雪菜!恩にきる!」


すると雪菜は、


「そ、そんな風にお願いされたら断れないじゃん!」


と言って、顔を赤くしたまま、

プイっと向こうを向いて拗ねてしまった。


そんな雪菜を僕はなんとか宥めようとしたのだが……


「お二人さん、随分と仲がよろしいようで…」


「ムフフ……」


ずっとニヤニヤとこちらを見ていた大輝と天沢さんが、とうとう我慢しきれなくなったのか、僕達をからかい始めた。


…耳が痛い。


「…う、うるさい」


何とか平静を保った声を出そうとしたのだが、動揺しているのが丸わかりだった。


そんな僕を見て、更に二人は笑みを深める。

そして、今度は雪菜に食いかかった。


「だってよぉ?月城さぁん?」


「……ちがうもん…」


雪菜は顔を更に赤くして、下を向いてしまった。


「つ、月城さん……可愛すぎ………」


天沢さんは、雪菜のいじらしい姿に悶絶している。


大輝は大輝で、僕をいじるのに忙しいみたいだ。


「…で、拓海。進捗はどうよ。」


「…………」


黙って無視する。


「ほぉ?その顔は上手くいってるのか?」


「……………」


「ふむふむ……まっ、頑張れよ。」


「………」



………最後に、僕の中で起きた一番大きな変化を言おう。


それは……


雪菜の事を、一人の女の子として好きになってしまったという事だ。


…雪菜は、僕のことをどう思っているんだろう…?





<作者より>


今回も読んでくださってありがとうございました!


今日、改めてこの作品のPVを見たのですが、何と知らぬ間に5000を突破しておりました!ありがとうございます!



さて、今回は第二章の一話目という事になりますが……


初っ端から恋愛要素をぶち込みました。

理由は、読者さん達に早く砂糖を浴びせたいからです!


因みに、学校生活の方は細かく描写していくつもりです。

(現役高校生ですので。)


二章も頑張って参りますので、これからもよろしくお願いします!







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