第19話

「……………」


「……………」


「……………」


「……………」


かれこれ十分ほど沈黙が続いている。


話題を振ろうにも、今日の話題はもう話尽くしたし、なんとなくお互いに黙る雰囲気になっている。


と、そこで雪菜の家が見えてきた。

雪菜の家は病院の方ではなく、ちゃんとした一戸建てが別の場所に立っている。


初めて見るその家は、全体は白を基調とした明るい感じで、玄関のドアの色だけが黒だ。二階建てであり、屋根には見えるところでは天窓もある。


僕は雪菜を玄関まで送って、帰ろうとした。


「じゃあね。今日は楽しかったよ。」


雪菜は何故か俯いている。

どうしたのだろうか?


「雪菜?」


僕が彼女の名前を呼ぶと、雪菜はパッと顔を上げた。

今日一日で何回も見たように、真っ赤になっている。


「た、拓海!」


「はいっ!」


いきなり名前を呼ばれたので、驚いて言ってしまった。



「わ、私の家、見たいですか!?」


丁寧語で言われたので、思わず同じように返してしまいました……


「み、見たいです!」


うん……非常に光栄だ。

あまりにも嬉しすぎて天に召させるまである。


「じゃあ………どうぞ……」


「はい。お邪魔します…………………って、待て待て!」


「?」


「入っていいの?」


「え?うん。」


「僕、男だよ?」


「男がどうかしたの?」


「いや、入れるの嫌じゃ無いのかなって……」


「拓海なら良いの。ほかの人は嫌だけど……」


「え……それって………」


「あ、あはは……えっと--------」


「男として見られてないのか………」


僕がそう言うと、雪菜はガックリと肩を落として、何やらぶつぶつと呟いた。


「……はぁ………違うのに……なんでいっつもそうなるのよ……」


何か言っているのは聞こえないが、雪菜は僕を男として見ていないのは確かなようだ。


…僕はれっきとした男だぞ。


でも……ね?


女子。それもこんな超絶美少女の家に上がれるなんて、一生に一度かもしれないよ?


だから……


「雪菜が良いんなら、お邪魔しようかな……」


「ほんとっ!」


雪菜はパァァァッ、と効果音が付きそうなほど眩しい笑顔を浮かべた。

浄化されちゃう。


「…じゃあ、改めてお邪魔します。」


「はい。どうぞ。」


黒い扉を開けて玄関に入ると、芳香剤の爽やかな香りが鼻腔を刺激した。


僕が靴を脱いで揃えて置こうとすると、バタバタとドアの向こうから足音が聞こえてきた。


「お帰り〜!そしていらっしゃい!」


「ただいま。」


「どうも。お邪魔してます。」


恐らくリビングに続いているであろうドアから現れたのは、雪菜の母親だ。


医者をしていて、この近くに雪菜の父が院長の病院を経営している。

いつもサッパリとした服装をしているので、”デキる女”という印象を受けるが、実際はかなり騒がし………いや、賑やかな人だ。


雪菜の母親は、僕にニッコリと微笑んでいる。雪菜の母親だけあってとんでもない美人なのだが、今見ている笑顔は少々おかしなものを感じさせた。


なんというか………腹黒い?


「ほら、拓海くん上がって上がって!」


「へ?…あ、はい。」


雪菜の母親は、僕の背中をぐいぐい押してリビングに連れ込んだ。


リビングに入ってまず目に入るのは、綺麗なキッチンだ。

入り口のすぐ横に備えられたそれは、一目見ただけで日頃の手入れを怠っていない事がわかった。


それと………ガスコンロではなく、IHだった。羨ましい。


「雪菜、二人で部屋で待ってて。もうすぐ夕ご飯できるから。」


「え……でも、拓海はすぐに帰らなきゃ------」


「拓海くんのお父さんに、今日はこっちで夕ご飯をご馳走するって言ってあるから大丈夫。向こうも了承してるし。」


「いつのまに……」


僕の知らないところで父さんが色々やっていたらしい。

……ということは恐らく、これだけでは終わらないだろう。

僕がそんな事を思っていると、雪菜が肩を叩いてきた。


「私の部屋に行こ?」


……ああ、まずはこのイベントがあるんだった。


"美少女の部屋への訪問"が。


「…うん。」


僕は深呼吸をした後返事をして、雪菜について行った。

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