第15話
マネキンについて色々とあった後、僕たちはそろそろ真面目に服を選ぶことにした。
雪菜に似合いそうな服は、今日雪菜が来てきたような清楚系の服だと分かっていたので、僕は涼しい色合いの服が売られているコーナーに行くことにする。
雪菜は、選ぶまでの秘密、という事で今、僕の服を探してくれているはずだ。
「…………お。」
目に留まったのは、清楚さの筆頭と言わんばかりのワンピースだった。
しかし、あまりにもベタすぎだので、僕は素通りしようとする。
もっと他にも清楚さが感じられるものが色々とあるはずだ。
そう思ったのだが……
「……うーむ………」
何故かそのワンピースの元へと戻ってきてしまう。
無意識にそこへ目がいってしまうほど気に入ってしまったのだろうか?
(……ベタな白ワンピース、という訳でもないんだよなぁ…)
白ワンピースだったなら、僕はそれを選ぼうとした自分のセンスに絶望するだけである。
しかし、その服は白ではなく、淡い水色だ。
装飾も派手ではなく、スカート部分の下の方が花柄のレースでできていて、うっすらと膝丈まで脚が透けて見えるくらいだ。
(………やっぱり、これにしようかな……)
ほかにそこまで良いものも無い。
僕は自分の目を信じてそのワンピースを選ぶことにした。
* * *
僕がワンピースを持って雪菜の元に戻ると、雪菜は誰かと話しているように見える。
近づいてみると………
ああ、ナンパか。
僕よりも背の低い、恐らく受験が終了して調子に乗った中学生らしきチャラい男が二人、雪菜に声を掛けていた。
「ねえ、俺たちと行こうぜ。お金とか出すからさ。」
「…………」
「一人でしょ?俺たちと来た方が絶対楽しいって!」
「…………」
(……ん?)
僕はそこで、雪菜の二人への対応がおかしい事に気付いた。
彼女はある一点を凝視して黙り込み、二人の言葉を無視している。
雪菜なら、ちゃんと話してお断りする筈だ。
…というか……
(…自分が声を掛けられた事に気付いてない?)
中々面白い事になっているなと思いながらも、僕は雪菜を取り戻す為に男二人に声をかける事にした。
近づいて、背後から2人の肩に手を添える。
「おっす。お二人さん。」
「あ?」
「誰だ?」
邪魔された事が気に障ったのか、虚勢を張った声で返事をしてくる。
僕は出来るだけ笑顔を意識しながら、二人に言った。
「多分その子、二人の話には乗らないと思うよ。」
「……はぁ?お前何言ってんだ?」
僕の事を見上げながらオラオラ言ってくるチャラ男A。
僕はその男に、現実と言うものを教えてやろうと思い、雪菜に声をかけようとして、そこでふと思った。
……僕、性格悪くないか?
…まあ良いや。
気を取り直して、雪菜に声をかける。
「雪菜。」
すると彼女は直ぐに振り返り、僕の姿を視認するとふんわりと笑った。
「なに?私の服は決まった?」
……どうやら、本当にこの二人には気付いていなかったらしい。
僕は親切にも、二人に雪菜と話すチャンスを与えてやった。
「ああ。服は決まったんだが、この二人が雪菜と話したいって言ってきてな。」
連れが居たと分かった瞬間、コソコソと離脱しようとしていたチャラ男二人の服の袖を掴む。
雪菜はその二人を見て、不思議そうに首を傾げた。
そして、可愛らしい仕草とは裏腹に、テトロドトキシン並みの猛毒が付与されたナイフを二人に突き刺す。
「……どなた?拓海の友達?」
「……………あ、いや……」
「……えっと………」
気付かれてさえいなかったと理解した二人は、口をパクパクと金魚のように動かすだけで、言葉が出てこない。
僕はそんな無様な二人の耳元で囁いた。
「……ナンパなら他を当たってくれ。そもそも男物のコーナーに女の子がいる時点で、連れがいると察しろ。」
「…………チッ……おい、行くぞ。」
「…あ、ああ。」
チャラ男たちは、せめてもの置き土産として舌打ちをすると、足早に店を出て行った。
(……面倒臭いタイプじゃなくて良かった。)
恐らく僕の方が背が高かったのもあり、少し怖気付いたのだろう。喧嘩にならないに越したことはない。
……それに、もし二人がこちらに手を出してきたとしても、ブランクはあるものの、体は部活でそこそこに鍛えていたのでねじ伏せる自信はあった。
(というか……僕ってこんなに嫌味な奴だったっけ?)
* * *
二人が退散した後、僕は雪菜に持ってきていたワンピースを見せた。
「…これ、持ってきたんだけど、どうかな?」
「…え?……あ、うん。着てみるね……」
雪菜は少し驚いた表情をしたのち、ワンピースを持って試着室に入って行った。
カーテンの前で、そわそわしながら待つ事5分。
「…拓海?……どうかな?」
丁度、雪菜に選んでもらった自分の服を見ていた僕は、雪菜がどれほどの破壊力を持っているかも知らずに振り返った。
「……………」
(なんていうか……アレだな………もはや可愛いを通り越して神々しいな。)
語彙力が、全くと言っていいほど無くなる程に可愛かった。
「……なんか言ってよ。」
黙りこくっていた僕が不満だったのか、雪菜は口を尖らせて聞いてくる。
「……あー………その、凄い似合ってる。うん。」
「どういうところが?」
どうやら雪菜様は僕の回答に満足されなかったらしい。
“似合っている”の詳細を聞いてこられた。
僕は、とりあえず今思っていることを伝えた。
「えっと……全部、っていえばいいのか?」
「ふーん……」
まだご不満らしい。
誤解されたままなのは僕も嫌だったので、今の心情をありのままに言った。
「…言葉に表せないくらい可愛いというか……とにかくヤバイ。」
「……あ、あっそう。」
プイッと反対側を向いて突っぱねるような言い方をしたものの、横顔は嬉しそうだ。
僕は少しホッとして、同時にとんでもなく恥ずかしくなった。やはり本心をさらけ出すというのは心臓に悪い。
*
その後、雪菜が選んだ服を僕が試着し、”似合っている”という嬉しい評価をもらったので、雪菜のワンピースと共に買うことにした。
雪菜は、自分の分は自分で払う、と言っていたのだが、こういう時くらい見栄を張らせて欲しい、という僕の言葉に渋々了承してくれた。
レジを通す時に、店員さんが微笑ましいものを見るような目付きで見てきたが、そんな関係じゃないので無反応で支払いを済ませた。
合計金額は………僕の財布が一気に軽くなるくらい、と言っておこう。
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