第14話

雪菜が選んだ店は、服の事をあまり知らない僕でも分かるような店だった。雪菜は店の中に入ると、僕が居るのも御構い無しにレディースのコーナーに進んでいく。


僕も一応付いて行くが、思春期の男子にとっては目に毒なものがたくさん飾られているので、非常に居づらかった。


……と、そこで雪菜から更に僕を困らせるような要求があった。


「…拓海、この中から私に似合うと思うの、選んで?」


(無茶言うなよ……)


僕は自分の服は自分で選ぶが、真面目に選んだ事など一度もない。

外に出て恥ずかしくない格好だったらなんでも良かったのだ。

それが女性、しかも超絶美少女ときた。

真面目に服を選んだことがない上に、女性ものなど知らない僕にとって、それは非常に難易度の高い要求だった。


(……だけど、まだ光はある!)


…そう。

全く服選びが出来ない僕でも、ある程度のクオリティを出すことができる方法があるのだ。

それは即ち……


(マネキンだ!)


これは常套手段でありながらも、かなりの効果を発揮する方法だ。

服選びが難しい。

そんな時、参考にするのはやはり店員さんの意見だろう。


……ただ、店員さんの意見を望めない状況もある。


例えば今の状況。雪菜は、”僕”が良いと思うものを選べと言っている。そこで自分の力で選ばず、店員さんに頼るのは少し、いや、かなり愚かな行為だ。


そんな時、道標となるのがマネキンなのだ。

マネキンは服屋に設置された、”こんな感じで選べば良いですよー”と示す説明書のようなものだ。

そのセンスは抜群。何故ならあの店員さんが作ったものだからだ!


僕は服を選ぶフリをしてマネキンを探す。一つくらいあるはずなのだが……


(あった!)


僕はそのマネキンを凝視する。

えーっと………上半身……下着だけ。下半身…下着だけ………


(………………)


……おい。下着のコーナーはあっちにあったはず。何故お前だけこちらにいるんだ。


僕が卑猥な姿をしたマネキンに対して心の中で文句を言っていると、横から雪菜に呼ばれた。


「拓海?なに見てるの?」

「え?マネキンだけど?」


しまった。自然に解答してしまった。しかし、時既に遅し。

雪菜は僕が見ていた方向に視線を向ける。


「……………」

「……………」


理想的なジト目で見られた。


……言い訳しよう…


「……マネキンを見て、雪菜の服の参考にしようとしていました……」

「参考………え?」


そう言ったところで、僕は自分の失言に気づいた。


ここにあるマネキンはあのマネキンのみ。更にそのマネキンは下着姿。つまり………


「…へぇ……拓海は私に服を着せるんじゃなくて、脱がせるんだ……」


「あ……いや、そうじゃなくて……」


「ふぅん。拓海はそんなにあのマネキンを参考にしたいんだぁ?」


「そ、そうじゃなくて……」


「仕方ないよねぇー。拓海も男の子なんだから。」


と、そこで僕は雪菜の口元が少しニヤついている事に気付いた。


(……僕、からかわれてただけじゃん……)


それに気付いた僕は、反撃に出ることにした。半ばやけくそで。


「ねぇ拓海?私にあの格好をして欲しいの?ねぇねぇ?」


「…そうだな……頼んだら、雪菜はあの格好をしてくれるの?」


「へ?」


お、”予想外”って顔をしてる。このまま立場を逆転させるぞ。


「ん?どうしたの?僕、質問してるんだよ?」


「え?……その……えっと………」


突然の反撃に、雪菜は言葉が出てこないようだ。

徐々に顔も赤くなっていく。

このまま行けば立場逆転もできるが、流石にそれはやめた。


(会話の偏差値が低すぎる……)


顔が赤いままの雪菜に、


「冗談だよ。からかってみただけ。」


と言うと、雪菜は俯いていた顔をパッと上げ、こちらを睨んできた。


「……バカ……」


(いや……真っ赤な顔でそんな可愛らしく言われても、悶えるだけです……………)


強烈なカウンターを受けた僕は数分間、唇を噛み締めながら口元の緩みを必死に隠すのだった。

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