第13話

再び、僕は雪菜と一緒に上り電車に乗った。

雪菜はICカードを持っていなかったので、今時珍しい切符で乗車する事になる。


二分ほど待っていると、電車が到着する旨を伝えるアナウンスが流れ、ホームに電車が滑り込んで来る。

青緑の車体に赤いラインが走った旧式の車両だ。

通勤ラッシュの時間帯は既に過ぎているので、人は殆どいない。

乗っていたとしても、かなり高齢だと分かるお婆ちゃんや、私服姿の大学生らしき人達ばかりだ。


僕達は電車に乗り込むと、出口に近い所に並んで座った。


ドア閉まり、電車がゆっくりと動き出す。


「…………」

「…………」


先程の件があったので、お互い話しかけづらい。

僕は僕なりに色々と話題を探していたのだが、出てきたのは天気の話や所要時間の話などのありふれた物ばかりで、自分に会話力がない事を改めて思い知った。


ちらりと横目で雪菜を見ると、彼女はぼんやりと車外の景色を眺めていた。


(こんな普通の仕草でさえ、雪菜がやると絵になるんだよな……)


そんな事を僕は思い、話題を考える事を諦めて、僕も雪菜に倣って外の景色を眺める事にした。


二人の間に流れていた微妙な空気は、駅を一つ一つ通り過ぎる度に穏やかなものへと変わっていった。


* * *


「次は、○○。○○。終点です。」


目的地に着いた。


僕達が乗った電車は、終点に近付くごとに人が増えていって、今は軽い満員電車になっている。 


満員電車と言っても、本当の満員電車は戦場なので、これはまだ空いていると言える。


僕は雪菜に降りることを伝え、更に僕から離れないように、と言った。

ここの駅は改札口があちらこちらにあるので、一度はぐれると探すのが大変なのだ。



…なんとか安全に改札口を抜け、駅から出るとまず目に入ったのは美しい街並み……ではなく、選挙カーに乗って声を張り上げるおじさんだった。


「皆さん!私には日本を変える力があります!皆さんの不安を取り払う力があります!更に〜〜」


自信過剰なおじさんだな、と思いつつ雪菜の方を見ると、驚いた事に彼女はおじさんの方をじっと見ていた。

黒い瞳が一点を見つめている。


「こういうの、興味あるの?」


僕がそう聞くと雪菜は僕の方を見て頷いて、選挙について熱弁しだした。


「当たり前だよ!最近、選挙参加可能年齢が下げられたから、私達も高校三年生には選挙に行かないといけなくなったんだよ?」


「あ、ああ。……でも、選挙なんてまだ先のことだし……」


「そんなこと言ってるから、若者の投票率が上がらないの!」


選挙ねぇ……結構先の事だと思っていたが……


「そうなのか……」


「うん!選挙の時は一緒に行こうね!」


「え?あ、ああ。そうだな。」


また一緒に出かける事をさらっと約束されてしまった。


……というか、こんな所で時間を潰したら勿体無いな……


「雪菜、そろそろ行こう。」


「……うん。分かった……」


名残惜しそうにおじさんの方を見ていたが、渋々といった感じで僕について来てくれた。

なんだか中年のおじさんに負けたみたいで悔しい、と思いながらも、僕は雪菜を案内する事にした。


歩いていて分かるのだが、ここは周辺よりも人が多い。

駅が近くにあるのも理由の一つだが、その他にも色々なものがあるので、人が自然に集まるのだ。


「……人多いねぇ。」


「東京なんかに比べたら、こんなの少ないと思うぞ。」


僕がそう答えると、


「そうなの?……これよりも多かったら私、人に酔いそう……」


「その気持ちは分かる……」


若々しい中学生が交わす会話とは思えないような会話が飛んでいる。


僕と同様に、雪菜は人が多いところがあまり得意では無いようで、少し辟易したような表情を浮かべていた。


「ほら、もうすぐ着くからさ。中に入ったらそこまで人は多くないとおもうし。」


「ん……分かった。」


もうすぐ着くという事を聞くと、雪菜は少し元気そうな顔になった。




数分後、僕達はとある建物の中に入っていた。白い壁をした建物は、周りの建物よりも一回り大きい。


何故僕がこの場所を選んだかというと、ここは建物全体が服の専門店で、雪菜が服を見たいと言っていたからだ。


更に、ここは階層ごとに服の趣向が違う店が置いてあるので、雪菜も飽きないだろうと思う。


案の定、雪菜は建物の見取り図が描かれたマップを見て、目を輝かせている。


「ねえ拓海!まずはここに行こう!」


「了解。」


無邪気な雪菜の様子を見て、僕は一人頬を緩ませる。


……そこでふと僕は思った。


(…まだ知り合って一ヶ月も経ってないんだよな……)


こんなに自然に接する事が出来ているのに、まだ友達となってからの日は浅い。しかも相手は超絶美少女。


普通の感覚をした男なら、緊張して上手く喋れないのではないか?


……普通の男(自称)だと思う僕が雪菜とこうして仲良くできるのは、やはり知り合ってすぐに腹を割って話し合ったことが一番大きいと思う。


……しかし、それだけでは無いような気がする。


…なんだか、雪菜には昔会ったことがあるような気がするのだ。

波長があうからこそ感じる勘違いだとは思うが……


「拓海!早く行くよ!」


雪菜からお呼びがかかったので、僕はさっさと行く事した。


「わかった、今行く。」


(……まあ、別に気にしなくてもいいか。)


そう思って思考を打ち切ると、僕は雪菜に追いつくために少し足を速めた。




あとがき


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