第5話 高校
「お待たせ、荒木君」
8時3分、神崎さんが701号室から出てきた。
俺は待ち合わせ5分前に来て神崎さんのポニーテールに身構えていたが、
さっきとは違いロングヘアだった。
「ごめんね、待たせちゃったでしょ?」
「そんなに待ってないよ、神崎さん」
「え? あ、そう? よかった。」
「それじゃあ、さっそく学校まで案内してもらってもいいかな?」
「そうだね、行こっか」
***
マンションを出てからずっと、神崎さんは何か考え事をしていた。
俺は、女子の考え事をむやみに聞いてはいけないと思い黙っていたのだが、信号が青になっても止まったままだったので話してみることにした。
「神崎さん、悩みでもあるの? 俺でよかったら話聞くけど」
「あ、うん。ありがとう。荒木君のことだし、聞いてもらったほうが早いね」
神崎さんは呼吸を整え、俺を見つめて言った。
「荒木君って、二重人格なの?」
「……え?」
「だ、だって朝はなんか、言っちゃ悪いけどすごいコミュ障みたいだったじゃん!
なのにたった2時間ちょっとでこんなに話せる人なんて二重人格じゃなきゃいないよ!」
「それは…、俺、ポニーテールの女子が弱点なんだよね…」
「……荒木君はポニーテール嫌いなの?」
今にも泣きそうな顔で神崎さんが僕を見てきた。
「嫌いじゃないよ。朝のは好きすぎてテンションがおかしくなっちゃっただけだから。
だから、そんなに悲しそうな顔しないで、神崎さん」
「よかったぁ~。嫌われちゃったかと思ったよ。
あと、うちの高校はポニーテールは原則禁止だから心配しなくてもいいよ」
ポニテか禁止なのは解せないが、初日からテンションおかしくなってヤバい奴認定されるよりはマシか。
「話戻るけど、荒木君は二重人格じゃないんだよね?」
「うん。にしても二重人格って本当にいるのかな?」
「う~ん、荒木君はどう思う?」
「俺はいないと思うな。勝手な予想だけど、隠したいことがバレたときに、『私、二重人格なの!』とか言って誤魔化したのが始まりだと思う」
「なるほど…。まあ私もいないと思ってるんだけど、いたら面白いかなって思ってる」
「なんで?」
「例えばの話だけど、人格Aが得意なことでも人格Bは苦手っていうことがあり得るわけでしょ?」
「二重人格だからな」
「それって、すごいからかいがいがあると思うの」
「それ、その人が自分は二重人格だって理解してないとできなくね?」
「それもそっか」
他愛のないことを話していると、いつの間にか入っていた公園を抜けていた。
「神崎さん、あれが今日から俺が行く高校?」
「そうだよ、荒木君。あれが
荒木智也は許さない 古賀翔太 @shota_koga
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