第4話 隣人

「あの……、荒木智也さん、ですか?」



 振り向くと、同い年くらいの女の子が上目遣いで俺を見ていた。


「え? あ、はい。荒木智也です」


「すいません、待たせてしまったみたいで」


 待たせてしまった、って、こんな美少女と待ち合わせしてないよ、俺。

 この世界来たばっかだし。


「702号室の鍵、私が預かってます。管理人さんが外せない用事があるって頼まれちゃって」


「その、鍵、ありがとうございます。えっと…」


「私、神崎っていいます」


「あ、ありがとうございます、神崎さん。そ、それではこのへんで!」


「えっ、ちょっと待ってっ」


 俺は逃げるようにエレベーターへ向かった。

 ごめん神崎さん、不意打ち美少女は耐えられないよ。

 神崎さんはランニング帰りなのか、上はシャツにウィンドブレーカーで下はランニングタイツにハーフパンツ、髪は後ろで束ねていた。

 スポーツウェアのポニーテール美少女。俺の性癖ドストライクである。

 そんな彼女を前にした俺には、落ち着いて会話するのは2回が限界だった。


 神崎のことを考えているうちに、エレベーターが下りてきた。

 俺は「7階」ボタンをを押す。

 「閉まる」ボタンを押そうとしたら、人が入って来た。


「何階行きますか?……って、神崎しゃんっ!」

「はい、神崎です! 7階でお願いします、

「あ、同じだったんですね、……え?」

「隣の701号室に住んでます、神崎遥です! これからよろしくね、荒木君」

「よ、よりょしく!」



***



 エレベーターから降りた俺は、新居702号室へ向かっている。ポニテ美少女お隣さんと。


「荒木君って、今日からうちの高校に転校だよね?」


「え? あ、うん」


 まだタブレットよく見てないから分からないが、俺は転生初日から登校しなければならないようだ。

 初日はこの世界のことを調べたかったのに。


「高校まで案内するから、8時に玄関前に集合ね」


「は、はい」


「詳しいことは登校中に説明するから、また8時に、荒木君」


 そういって神崎さんはドアを閉めた。


「もう目の前に着いてたのかよ」


 俺の頭の中は神崎さんでいっぱいだったので、すでに家についていることに気づかなかった。


 702号室に入って少し経ち、やっと落ち着いてきた。

 さっきの会話を思い出す。


「『高校まで案内するから、また8時に』って、俺、神崎さんと一緒に登校するのか!?」


 さっきはポニテ美少女お隣さんしか頭になかったので気づかなかったが、神崎さんと一緒に登校だと!?


 再び智也が落ち着きを取り戻したころには、約束の時間までの残り10分になっていた。

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