第3話 家
ポーポー、ポッポー。ポーポー、ポッポー。ポーポー、ポッポー、ポー。
見事な朝焼けに透き通った空気。
ゆったりと流れる川。
俺は、あたりを見まわし、少し体を動かし、そして安堵した。
どうやら転生は成功したらしい。
四肢はしっかりついていたし、動かしても違和感ない。
さすが異世界転生サービス。業務を完璧に遂行して見せるとは。
いや、いいんだ。完璧なのはいいことなんだ。いいことなのだが……
「………………寒い」
腕時計を見ると、ちょうど5時1分になった。
転生時間まで完璧にしなくてもいいのに…
今の服装は転生前と同じで半袖のワイシャツに夏服のズボンなので、寒くて鳥肌が立っていた。
***
タブレット端末を確認した俺は、用意されているらしい家に向かっている。
「家ねぇ…。一軒家だといいんだが…」
え? 高望みしすぎ?
そんなん知ってるわ!
とある最強ゲーマー兄妹は転移初日に散々歩かされた挙句に確保できたのはおんぼろの宿だったし、駄女神を連れて転生したとあるヒキニートだって最初は馬小屋生活だった。通り魔に刺されたとある会社員に至っては転生したら人ですらなかった。
それでも俺は集合住宅が嫌なのだ。
俺は小学校低学年ごろまでマンションに住んでいたのだが、ある日、小指を強打してしまった。あまりの痛さに大声を上げてしまった智也少年に対し、隣の住人は壁を叩きながら怒鳴り散らしたのだ。智也少年は痛みと恐怖で泣き出してしまった。
高1になった今でも、このトラウマは払拭しきれていないのだ。
***
転生地点の土手から20分ほどで目的地に着いた。
「マンションか…。そうだよな、一軒家なんてありえないよな…」
隣人が変人ではありませんようにと手を合わせて祈る
「寒いし早く家に入るか」
リュックサックを覗いて鍵を探す。
「………………。鍵、ねぇじゃん」
俺はタブレット端末に助けを求めた。
画面にはついさっきまで見ていた地図が映る。
スクロールすると、「マンションに着いた人は『次へ』を押してください」と書いてあった。
あ、マンションって書いてあったわ。
『次へ』を押すと、鍵の説明があった。
「『鍵は荷物に入れておりません。管理人の方に預けてあります。名前と部屋番号(702号室です)を伝えれば受け取れるはずです。』か。管理人さんは……、いねぇじゃん」
もしかしたら、と思いポストを見るも、鍵は入っていなかった。
俺はポストを閉じてため息をついた。
その時だった。
「あの……、荒木智也さん、ですか?」
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