第17話 お買い物

 透が初めて料理部に来た日に行ったショッピングモール。今日はそこに足を運んでいる。


「何にしようかな~♪」


 ――透の妹であり、イベントのゲストでもあるささらを連れて。


 真衣たちと一緒に買い物に行かないかという相談に二つ返事で了承してくれたささらだったが、今日がかなり楽しみだったようで、まだ寝ていた俺を家から引きずり出した。


 身だしなみは整えることが出来たが、眠気も取れないまま急かすように自転車を漕がされ、昼からのはずだった買い物は9時の開店と同時にスタートすることになった。


 かといって真衣たちが来るのは当然昼からだし、会う前に探し過ぎてしまうことは控えたい。まだ開いてない店も多いしな。そのため2、3店だけ巡った後にフードコートやちょっとしたゲームセンターで時間を潰すことにした。


 今はフードコートでささらと一緒にクレープを食べている。ささらが食べているのは定番のチョコバナナ。声には出さないものの、美味しいと一目で分かる笑顔で齧り付いている。


朝飯も食べれていなかった俺は、野菜や鶏肉が入ったボリューミーなクレープを食べている。所謂スナッククレープというやつだ。透と同じく甘いもの好きなささらとしてはスナッククレープに対して嫌疑的らしく、本当に美味しいの?と目が訪ねてきている。スイーツとしてではなく、1つの食事として捉えて食べると種類の多いケバブのような感じでかなり美味しいんだがなあ。伝わらないようだ。


 食べ終えて少しばかり休憩していると、時刻は10時を過ぎいろんな店が下ろしていたシャッターを開け始める。その中にはゲームセンターも含まれており、ささらはすぐにそこに飛び込んだ。


 ここのゲームセンターは足の運びやすさはナンバーワン。筐体の量など遊びやすさとしてはワーストワン。まさによくあるショッピングモールのゲームセンターといった様相だ。


 とはいえ、それは子供向けのゲームが多いだけで遊べないわけではない。それにこの話は俺に限った話であって、ささらには関係ない。現に今、ささらは目を輝かせながら店内を歩いている。


 ただ、ここでお金を使いすぎて目的の物が買えなくなってしまうのは困る。そのことについて聞いてみたところ、どうも遊ぶことを前提で多めに母親からお金を貰っているそうだ。


 それでも買うものをこれから決めに行く以上、金額が決まっていないため使い過ぎないようにささらに忠告しておくと、はーいと元気に返事をした後に小走りに歩いてレースゲームの前へ行く。


 座席に座ると、俺をちょいちょいと手招きして横の席に座れと促してくる。どうやら対戦がしたいようだ。真衣たちが来るまでまだまだ時間はあるし、いっちょ手合わせと行こうじゃないか。


 そうやってレースゲームだけでなくコインゲームだったり、はたまた協力型のガンシューティングゲームだったりを遊んでゲームを満喫していると時刻はあっという間に12時を迎えようとしていた。


 真衣たちが来る前に腹ごしらえをしてしまおうとまたフードコートに戻って今度はしっかりとした昼飯を喰らう。こういう時は手軽なファーストフードが一番だ。混雑していてもそこまで待たなくても済むしな。


 期間限定で美味い!辛い!と謳われているチキンが想像以上に辛くて思ったよりも汗を掻いてしまったが美味しかった。夏も近くなって暑くなってきたからこそやはり辛いものは美味い。


 ささらは小さめのハンバーガーセットを平らげ、残ったジュースをチマチマと飲みながら一休みする。座っていると遊んだ疲れと元からある眠気のコンボで思わず寝てしまいそうになるが、どうにか持ちこたえる。


 ジュースを飲み干すと90%から110%にまで回復したのか、俺の服を引っ張ってまたゲームセンターに行こうと催促してくる。それだけ今日が楽しみだったことが伝わってくるが、あくまで今日は遊ぶことが目的じゃない。


「こんにちは。……待たせてしまったかしら」


 横から真衣の声。その傍には二奈もいる。そう、今日は真衣たちと買い物をすることが目的なのだ。……俺だけとうに疲れ果ててしまったが。


「いや、待ってない。ちょっとだけささらと一緒に遊んでたんだ」


「じゃあその子がささらさん?私は真衣。こっちが二奈。今日はよろしくね」


 真衣はニコリと微笑む。固まっていたささらは目の前の2人が透の通う部活の人たちだと分かると、行儀よくお辞儀をした。


「ささらです!お兄ちゃんがお世話になってます!」


 言い終わってからきっかり3秒後に頭を上げる。そういうのはしっかりとしてる律儀な子だ。


 挨拶も済んだところで、それぞれが何を買うのかを言っていく。文具だったりカバンに付けられる小物だったりと持っていても邪魔にならないものが多く上がった。まあみんなそういうところに落ち着くよな。


 あくまでそういうものにすると考えているだけで、これ!と具体的には決まっていない。それをこれから決めに行くのだ。良いものがあったらみんなで一緒に1つを買うのもありだしな。


 真衣たちも昼飯は既に済ませているようで、さあ買い物だ……と思ったが、ささらがどうしてももう一度ゲームセンターに行きたいと言う。まあ時間はあるし行ってもいいか、ということになった。


 ゲームセンターに着くと、ささらはさっきとは違ってクレーンゲームが並ぶ方へ行く。


 ゲームセンター限定のお菓子が並ぶプライズ商品を一通り見て回った後、Uターンして戻る途中、目星を付けていたらしいクレーンゲームの台の前で肩から下げていたピンクのポシェットから財布を取り出す。どうやらこの台に挑戦するらしい。


 さて、以外にもささらはクレーンゲームが上手だ。俺や透よりも断然上手い。4回ほど遊べば確率機台  ―――指定金額の部分までお金を投入しないとアームが弱くキャッチすることすら出来ないクレーンゲーム台のこと。指定金額時にしかアームが強くならない―――  以外の台での景品は大概取れてしまうほどだ。だからささらと一緒に居る時の俺や透は基本見守り役に徹している。


 100円を投入していくささらは相も変わらず巧みな技で景品を次々と取っていき、そばに置かれている景品用の袋、それも大型の袋をすぐにお菓子で一杯にしていた。

恐らく、きたる日に向けてお菓子を補充したのだろう。ささらがお菓子を大量に取っている時はいつもイベントが近いときだからな。


 ささらが満足気な顔をしながらこちらに来る。ささらには少々持ちづらい大きさになった袋を俺が持つと、満足気な顔から一転、少し緊張が混じったような顔になる。


 どうしたのかと考える間もなく、彼女は真衣たちの元へ駆け寄る。一緒に遊びましょう!と声をかけていた。


 2人はさっきまでのささらの技を目の当たりにして目が点になっていたが、ささらに誘われるがままにあちらこちらへ行ってはいろんなゲームを堪能していた。3人とも楽しそうだった。


 ……俺はというと、荷物持ち役であり保護者役でもあった。まあ疲れているから良いんだけどな。寂しさや眠気が襲ってくるけど。


 結果、実に2時間ほど3人の和気あいあいとした時間を眺めることとなった。女子の買い物ってこんぐらい長引くものなのだなあと肌で感じたのだった。……そしてその間に俺は案の定うたた寝を決め込んで文句を言われた。

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