第15話 仕込み

 体育祭のお手伝いも簡単に終わる――その言葉を簡単に信じた僕がバカだったのだ。


 少しだけだから!と言われた道具の点検が終わると、プリント作成やら配布やら……果てには体育祭の種目決めまで手伝っていた。


 そんなことをしているもんだから委員の人たちと次第に多少仲良くなってしまっていて、そしてその仲良くなっていることが僕が委員会に深く関わってしまっている証拠である。


 まあ料理部の方も活動していないからちょうど良いといえば良いのだが……。釈然としないものである。


 蓮は僕がすぐには帰れないことを知ると、HRが終わると同時にどこかに行くようになった。


 だから1人で家路に着くことも多くなった。別にこれ自体はよくあることなのだが、疲れ果てた体で1人暗い道を歩いていると心なしか寂しくなってくるのだ。


 家に着いても疲れているためささらとも遊んであげられず、ささらは最近不満たらたらだ。穴埋めもいつかしてあげなきゃな……。


 睡眠も十分に取れていなくて、授業中に寝てしまう事も増えてきてしまった。体育祭が終わるまでは落ち着ける気がしないなあ。……これ、僕も委員を名乗っていいんじゃないだろうか。


「悪いなあ、いろいろ手伝ってもらっちまって」


「本当にいろいろ手伝ってるよ……」


「悪いって思ってるって。いつか借りは返すよ」


 間口くんにはどうやって返してもらおうか考えながら、委員会へと足を運ぶのであった。


 ―――――


「透くんの方はどうなの?気付かれてない?」


「気付く以前にあれは多分忘れてると思うぜ。だからサプライズもバッチリだろ」


「……そんなにおっちょこちょいなの……?」


「いや、体育祭の方で忙しいからな。それで考える余裕もないんだろ」


「そうなの?じゃあ頑張ってくれてる分、より楽しんでもらいたいわね」


「そうだな。それでなんだがな?せっかくサプライズするんなら一緒にやってみないかって考えてる子が1人いるんだが、どうだ?一緒にやるか聞いてみるか?」


「その相手って……あ、分かったわ。一緒にやった方が楽しめるだろうし誘ってみてくれるかしら?」


「おっけー。今日中にでも聞いてくるよ」


「……相手って……?」


「ん?分からなかったか、二奈?それはもちろん――」


 ―――――


「朝霧先生が適任だと思います!」


 そんなことを大声で言うのはもちろん間口くんだった。


 しかしみんな彼のことはよく知ってしまっているため、また言ってるーと笑われながら流される。


 そもそも放送担当は委員の中からだけという点でも突っ込みどころ満載だったが、みんなも疲れているしおちゃらけないとやっていられないのだ。


 どうせ誰も立候補しないし後でじゃんけんで決めようとちょっとだけ恐怖におちいらせてくれる委員長の言葉のあと、僕たちはグラウンドへおもむいた。


 今日は主にグラウンドの整備と再度道具の点検だ。ダブルチェックによって不備を減らす目的がとかなんとか聞きながら、100メートル走などのトラックを作り始める。


 トラックを作っているが、実際にはスタジアムを貸し切って行うらしい。そういえば去年もスタジアムでやっていたなあ。じゃあなぜトラックを作っているのかというと、練習用に必要らしい。


「後片付けのことも考えると2度手間だよなーこれって」


「現地で練習出来たらいいのにね」


「すまないね。前入り出来るのは前日くらいだから、こんなことをしないと練習が上手くいかないんだ」


 委員長が謝りながら話しかけてくる。


「去年も委員会に入っていたんだけど、その時は段取りが上手くいかなくて時間が押しちゃったからね。少しでも練習しておいた方が良いと思ったんだ」


「でもトラックまで作る必要ってあるんですか?」


「放送の時にトラックの位置を間違えてテンパる子がいたからね。地図だけじゃなくて実際の形で分かった方が覚えやすいと思ったんだ」


「なるほど、そうなんですか。……え、待ってください。それはつまりこの後のじゃんけんで負けたら……」


「そのまま練習だね☆」


『マジですか』


 それはつまりただただ業務が増えるわけで……


「あっ、そのじゃんけんなんですけど、僕はあくまでお手伝いなので参加しなくても大丈夫ですよね?」


 間口くんが驚愕した顔をしながらこちらを見るが、知ったこっちゃない。僕はあくまでお手伝いなのだ。


「え?うーんそっか……そういえばお手伝いだったもんね。流石に放送までさせるわけにはいかないか」


「そうですよね!流石に表に立っちゃうといろいろとまずいですもんね!」


「そうだね……じゃあ今から委員になっちゃう?」


 え?


「そうですよね!ここまで手伝ってもらっていたらもう委員になっちゃっても問題ないですよね」


 間口くんが一気にまくし立ててくる。


「そうなんだよね。いろいろとやってもらっているし。ちょっと手続きが面倒になっちゃうけど……出来ない訳じゃないし」


 え


「ほら透!おまえも放送の担当になれるかもしれないぜ?良かったな!」


「いえあの申し訳ないんですけど流石に委員にはならないでおきます」


「いやいや、ここまで手伝ってもらったんだし名乗れるようにも委員になって良いと思うよ」


「あくまでお手伝いで大丈夫ですので気にしないでください」


「そうかい?そこまで言うならこのままにしておくが……」


「はい。このままで大丈夫です。ですのでもう少し業務を減らしてください。お手伝いなので」


「すまないがそれは聞けない相談だ。だが私からのお願いとして体育祭後に行う打ち上げには是非参加してほしい。君なら参加しても誰も咎めないだろうしな」


「都合があえばぜひ参加したいです」


「そうか。それなら安心だ」


「なぜ安心なんですか?」


「……ここまでやってもらっておきながら、何のお返しもしないのはさすがに心苦しいということだ」


「……まあ、そう感じますよね」


 間口くんが表情を伏せながら同意する。……本当にそう思ってるのかな?


「ちなみに、どこで打ち上げをするつもりなんですか?」


「ん、場所か?場所はだな――」


 ―――――


「当然透の家だな」


「そうね。その方がサプライズになるでしょうし」


「食べ物に関しては向こうと連絡取りながら作るなり買うなりするか」


「そうしましょう」


「さて、方向性も決まったし、さっそくいろいろと相談してくるわ」


「ええ、よろしくね」


「あ、可能だったら今度の土日のどっちかで顔合わせしときたいんだが、出来るか?」


「大丈夫よ、二奈は大丈夫?」


「……うん」


「おっけい。じゃ、ささらと会うのを楽しみにしておいてくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る