第14話 話し合い

 お花見会兼僕の歓迎会も終わって1週間が経った。食材も使い切ったし、5月に入って体育祭などのイベントも話題になってきたからしばらく部活動はお休みになるそうだ。


 どうやら思っていたよりも部活動の頻度はゆるいらしく、少なくとも1ヶ月かそれ以上は料理をすることはないらしい。たまにおやつ程度は作るかもしれないらしいけれど。


 少ない部費で1年を通した旬の食材などの季節体験をするための苦肉の策らしい。食費って案外掛かるもんね……。


 という訳で今日は早めに帰ってささらと遊べる……かと思いきや、話があるから少し付き合ってくれと蓮に言われた。


 その話は何かというと――


「対朝霧先生どうしよう会議だ」


「そんなに深刻なの……?」


「俺の安住の地が無くなったんだから深刻だ」


「そこまで言うなら付き合うけど」


 学校でアイドルの曲を気軽に聞けなくなったのが相当辛いらしい。


「でも……僕はもうそこまで不安を感じないんだよね」


「シュークリームを貰ったからか?」


「それもあるけど……あんなに大きいシュークリームをわざわざ買ってきてくれるって、実は優しいんじゃないかなって」


「まあ確かになあ。普通は小さいというか普通のサイズぐらいのを人数分買うって考えになるだろうし」


「あのシュークリームが売ってる場所を調べてみたんだけど、割と遠いところじゃないと売ってないらしいんだよね。パーティーのようなことをするからわざわざ買ってきてくれたのかなって思うとそこまで怖がらなくても良いんじゃないかって」


「調べたのはお前がまた食いたくなったからじゃないのか?とはいえそんな遠いところまで買いに行ってたのか……」


「うっ……まあ食べたくなって調べたのは否定しないよ」


 車を2時間ほど走らせないといけない場所らしく、そこまでしてもらえていたとなると僕の不安も和らぐものである。優しさが垣間見えて。


「透の歓迎会で透を喜ばせるためにわざわざ2時間か……。俺らの事も考えてくれてのあの大きいやつだったんだろうけど、それでもそこまでしてくれてたってのは何と言うか……嬉しいな」


「だからそこまでピリピリしなくてもいいんじゃない?」


「うーん……。でも今まで出来たのが出来なくなるのがやっぱりなあ」


「そっか」


 どういう案を出したら納得してくれるだろう。


「学校で聞く背徳感が良いの?」


「いや……まあ、なんというか、その。それも、あるかも、しれないんだけどさ。…………二奈と一緒に聞けるだろ?そうするとそのまま語り合えるじゃん。それが楽しくてさ」


「あー、なんとなくわかるよ。僕たちもゲームが発売された時に語り合ってるもんね」


「そうそう、そんな感じでさ。そういうのもあるから二奈と一緒に聞けるあの環境が最高でさ」


「そうなると二奈さんがいれば良いのかな?」


「……まあ、そうだな」


 蓮は頬をポリポリと掻きながら答える。


「通話とかはダメなの?」


「通話じゃダメなんだよな。ライブとかのノリが無くなる感じっつーか。興奮や勢いが通話だと削がれるんだよ」


「じゃあ、2人で一緒に聞ける環境があればいいんだね。……家に呼ぶのが一番手っ取り早いんじゃないの?」


 そのことを言うと、途端に蓮は渋い顔を見せる。


「………………それは当然考えたさ。考えたけど……いろいろと恥ずかしいだろ。それに二奈がなんて思うか分かんないし」


「そうだよねえ」


 誰だって踏み込むのは怖い。だから一緒に居れる場を作るのは難しい。どうしたものか……。


 あ、そういえば二奈さんも僕と話したいことがあるって言ってたな。その時が来たらちょっと聞いてみようかな……?


「どのみち朝霧先生に対しては何も出来ないし、そこはもう諦めて別の方法を考えるしかないよ」


「そうだよなあ……。うっし、うだうだしてても仕方ねーし帰るか。わざわざ悪かったな」


「別にいいよこのくらい」


 じゃあ帰ろうか……と椅子から立ったところで、ガラッと勢いよくドアが開けられた。


「おまえら!丁度良かった!戦争を終結させる方法を教えてくれ!」


 そう叫びながら、額に大量に汗を浮かばせている間口くんが僕たちのもとに駆け寄ってきたのだった。


  ――――――


「で、どうしたんだよ。朝霧先生に訴えられでもしたか?」


「そこまでガチな戦争は起こってねえよ!ほら、おまえらのせいで体育祭の実行委員に入らされただろ?」


「入らされたとは心外だな。そういう活動に入っておけば朝霧先生との接点も増えて良いんじゃないか?ってアドバイスしただけだろ」


「入ったは良いけどよくよく考えたら先生が実行委員と何ら関わりが無いんだから無意味だったっていうオチがあるんだけどな」


「高校生活が充実してそうで羨ましいよ」


「黙ってろ」


 朝霧先生に一目惚れし、先生にいろんなアプローチをかけている間口くんは、先生との接点が増えるのではという連のアドバイスによって体育祭の実行委員になった。


 けれども担当教員は違う先生だし、集合場所の案内以降先生と委員会関係で話すこともなしで、ただただ仕事が増えて先生へのアプローチ時間が減っただけという現状になっていた。


「とにかく、終結させる方法を教えて欲しいんだよ!キノコとタケノコの!」


『無理』


 真顔だった。清々しいくらいに真顔だった。


「どうしてそんなことになったの……?」


「よくお菓子を食べながら活動内容を話し合うんだけど、今日のお菓子の中に……っていう感じでな?」


「聞いておいて悪いけど無理だろ。っつーか助けを求めてくるほどにピリついてんのか?」


「綺麗に赤と白で派閥も分かれちゃったから、冷戦みたいな感じになりそうなんだよ」


「体育祭の水面下でんなことしようとすんなよ」


「ところでなんで間口くんは助けを求めてきたの?」


「俺はどっちも好きだからどっちでもいいやってことにしてたんだが、そのせいでどっちからも睨まれる板挟み状態になっちまってな……」


「完全に居場所を無くしただろ、それ」


「だから助けを求めてるんじゃないか」


「僕も悪いけど無理だと思うな」


「でも流石に数日もすれば忘れるだろ。人の噂も七十五日って言うしな」


「その頃には体育祭はとっくに終わってるんだが」


「まあそこまで根に持つこともないだろ。みんな遊び半分で言ってるんだって」


「うーん、そんなもんか。……あ、それはそれとしてなんだけどさ」


「うん?」


「今、普通に人手が足りてない問題もあるのよ。どっちか手伝ってくれないかなと」


 ――数舜固まった後、


「……じゃんけんで決めるぞ」


「……いいよ」


『最初はグー!じゃんけんポン!』


 僕はグー。蓮は……パーだった。


「負けたー!」


「悪いな透、俺は帰らせてもらうぜ」


 ニヤリとほくそ笑みながら席を立つ蓮。その後ろ姿を見つめることしか出来なかった。


「はぁ……で、どんなことをするの?」


「そこまで込み入ったものじゃないんだけどな。道具が使えるかどうかの簡単な点検とかを――」


 ……込み入ったことじゃないと言いながら、僕はガッツリと実行委員の仕事をやらされていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る