第13話 花よりシュークリーム
蓮と真衣さんの食べっぷりに唖然としながらもご飯を食べ終わったことでゆったりと桜を見ながら駄弁り始めていた。
あれほど食べる蓮は初めて見たとか、真衣さんの体のどこにあれだけのご飯が入ったのかとか、2人に関することばかりだったけど。
何はともあれ無事に食べ切ることが出来たから……次の大物が襲ってきた。
先生が持ってきたぞ、と言いながらまたシュークリームをあらわにさせる。
ゆったりとした空気は5分と持たず、次なる大物への挑戦に僕らは思わず唾を呑んだ。
「一応透に宛てられたものなんだから、透が最初に食べようぜ」
「そうね、思う存分食べてちょうだい」
朝霧先生もそうだなと頷き、僕が最初に好きなだけ食べる流れになった。
……ありがたいけど、2人はもう食べられないから極力食べずに済むようにしているだけでは?と訝しみながらフォークとお皿を手に取る。
かなり大きいためどう切り取ればいいのかも分からず、とりあえず上の方にフォークを刺してみた。
……が、刺さらなかった。いや、正確には刺さっているのだが、中まで貫通していなかった。表面で止まっている。
みんなしてあり得ないものを見たかのように目を見開き、そのまま互いに顔を見合わせる。言葉にせずとも考えていることは同じだった。
――こいつはヤバイ。
今までシュークリームを食べる上で感じたことのない手応えに少し恐怖を感じるが……それと同時にワクワクしている。どんな楽しさを見せてくれるのだろうと。
とりあえずフォークを中まで貫通させるために恐る恐るフォークを刺し続ける。思っているよりも固く、段々と刺す力が強くなっていく。そのたびにパリパリバリバリと音を鳴らしながら外層が崩れる。ケーキ屋さんなどで見るような幾つかの層が重なって出来ているパリパリとした生地のため耐久力の低い薄い層がポロポロと崩れていくのだ。
果たして無事に中まで貫通することが出来た。同じように周りを刺し貫いていき円形になるようくり抜いていく。
すると途中で突然生地がポロっと取れたため慌ててフォークに乗せ、そこから皿に移す。
カスタードクリームが漏れ出ていないか心配だったが、どうやら底に溜まっているらしく上の方は気を付けなくてもよさそうだった。まあそれでもクリームが全体の半分ほどにまでたっぷりと詰まっているが……。
さてどうしようかと本格的に手詰まりになっていると、先生がそういえば、とまた何かを取り出してきた。
それは1枚の紙で、その紙にはこのシュークリームの説明文が書かれていた。それによると、どうやら小さく削り取った生地をカスタードクリームにたっぷりと付けながら食べていくのが正しいらしい。
恐る恐る生地をクリームに浸して持ち上げると……そこにあったはずの生地が完全に消えクリームイエローに染まった何かが浮かんでいた。
生地がクリームによって覆われてしまっているのだ。これはもはやシュークリームではなくクリームシューと呼べるのではないか。
見た目からして甘ったるさを感じさせるが、臆することなく口に運ぶ。
甘い。甘い。しかし、くどい甘さじゃない。クリームシューにも関わらずくどすぎずあっさりとしすぎていない丁度いい甘さだった。クリームが染み込んでいない生地のパリパリとした食感も良く、生地とクリームの双方がお互いを高め合って出来ている美味しさだ。
「凄い……凄いよこれ……」
「何がどう凄いんだ?」
「シュークリームを食べてると思ってたんだけど……クリームなシュー……クリームシューを食べてるみたい」
「はあ?あー……言ってる意味がよく分からんが……要するに美味いってことか?」
「うん、凄く美味しい。みんなも食べてみてよ!」
「じゃあ……俺らも食べてみるか」
いまいちピンと来ないらしい蓮たちも同じように削り取った生地をクリームに付けて食べる。
おっ、と感嘆の声を漏らすと、僕の言った意味が分かったのか満足した表情を見せる。
「これは確かに……凄いな。もはやカスタードメインじゃねえか」
「これだけの量となると食べ応えも十分でしょうし、誕生日といったパーティーには最適でしょうね」
「確かに。ちょっとした変わり種として、ホールケーキの代わりにこの巨大シュークリームを出すのもありかもしれないな」
「でも、美味しいのだけれど……今はもう入らないわね」
「ああ、腹いっぱいだ。入る気がしねえ。甘いから余計満腹感が出てくるし」
二奈さんももういらないと言うように首をふるふると横に振り、先生はもし残ったら家で食べるよと言ってくれたが、やはり残すのは気が引ける。というか先生1人だとお弁当の食べ進み具合を見るに消費期限が切れるまでに食べきられる気がしない。
ここはどうにか頑張って食べきってしまおう。
そう意気込むと、時間を掛けてでも底の方に着くまでクリームシューを食べ続けた。
さすがにカスタードクリームが溜まっていた底の方は生地にクリームが染み込んでしっとりとしていた。だが、それはそれでクリームの甘さをほんのりと感じることが出来て、また違った美味しさを楽しむことが出来た。
クリームももうほとんど無くなり、少しだけ残っているのを同じく底であるが故に残っていた生地と一緒に食べる。
やがて巨大シュークリームの実に9割近くが透の胃に収められた。
達成感と美味しさから満足そうな表情を見せる透であったが、周りは怖いものを見た顔をしていた。
それもそうだろう。苦しいかもと言っていた小柄な男があのシュークリームを平らげたのだから。
「透……やっぱお前、甘いものは別腹だろ」
「え?でもこれでも結構ギリギリで……」
「そうは言っても、弁当食ってさらにあのデカブツまで食いきるのはさすがに想定外だぞ」
「あのカスタードクリーム、見る限り600gほどはありそうだったわよ……なのにそのほとんどを食べちゃうなんて……」
「なんだ?今日の私は大食い自慢でも見せられているのか?」
「これで太らないなんていったいどういう体の造りをしているのかしら……」
「本当にな」
「待て、蓮と真衣には言う資格はないからな。お弁当をあれだけ食べておいてそのスタイルを維持できているのに透を恨んでいたらそのうち刺されるぞ。自覚していなかったのか?」
「って、そうじゃん!蓮と真衣さんには言われたくないよ!2人だっていっぱい食べるのに!」
「いや、だって、言いたくもなるじゃない!摂取したカロリーは私以上にありそうなのに、私より軽いなんて!糖分たくさん摂ってるのに!」
みんなが、ん?と引っかかる。
「……真衣……もしかして……実は透より体重が重くて、そしてそのことを気にしてたのか……?」
「あっ……」
どうやら言うつもりはなかったらしく、はっと我に返った真衣さんがしゅんしゅんと小さくなっていった。
「まあなんだ、身長差を考えると真衣も透も適正か少し痩せてるぐらいだと思うぞ。だからそう落ち込むな」
真衣さんを
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