第11話 お花見

 何事もなく1週間が終わり、待ちに待った土曜日が訪れる。天気予報は雲一つない快晴をうたっていた。


 ささらに行ってきます、と言って家を出る。少し寂しげな表情をしていたのが心苦しかった。帰りに何か買ってきてあげよう。


 ……って、これがダメだって言われたのかな。……でもあんな顔をしてたし、何より放っておくと僕の方が辛い。このぐらいはきっと大丈夫だろう。うん。


 まだ朝は早く、やっと朝日が出てきたところだった。空がオレンジ色に染まっている。朝焼け、というものだろうか。


 あくびをして眠たげな蓮と合流し、近場にある桜で一杯の公園に行く。


 朝早くから出た理由は、男子による場所取りのためだ。暖かくなってきたとはいえ、春先のため明け方はまだまだ寒い。そんななか、外で何時間も待つ行為を女子にさせるわけにもいかない、ということで僕たちが買って出たのである。


 ……まあ僕があまりにも手持ち無沙汰ぶさただったから、というのもある。祝われる立場とはいえ、あまりにも何もしていないのは良心の呵責かしゃくを感じてしまった。


 それはともかく、公園に着くと既にチラホラと人が居るのが分かる。地元の人しか知られていないとはいえ、既に戦いは始まっているようだった。


「ここら辺で良いかな?」


「おう、十分良いと思うぜ。景色もバッチリだしな」


「じゃあ敷いちゃおっか」


 蓮と2人でレジャーシートを広げる。6人位は座れそうな広々としたシートだ。オレンジや赤などのビビッドカラーがそこかしこに散りばめられている。


 角に荷物という名の重しを乗せて、場所取りも完了。後は真衣さんたち女性陣を待つだけだ。


 当然暇なため、蓮と会話しながらのんびりと待つことにした。


「そういえばみんなはどうやって来るの?」


「先生が車で送迎してくれるってさ。俺たちは人数オーバーで帰りも乗せてくれないらしいがな」


「まあ、僕たちは近いし諦めようよ」


「ま、それはそうなんだけどな」


 蓮はケロッとした顔で言う。ただ先生に対して愚痴りたかっただけらしい。


 喋っていると時間が経って日も明るくなり、段々と暖かくなってきた。すると、蓮がうつらうつらとし始めた。


 やっぱり眠いのだろう。僕が見ているからと蓮を眠りにつかせると、スマホを取り出して電子書籍を読み始める。


 時刻は朝の6時。8時に来る予定らしいから、それまでずっと見張りをすることになる。


 周りも人が増え始め、歩ける場所がどんどんと少なくなっていく。早めに来ておいて良かったなと思う。


 待ち侘びた新作をじっくりと読みながら、たまに荷物と蓮を見るのを繰り返すこと約1時間。本が佳境に入ってきたところでふと眠気が襲ってくる。


 流石に僕まで寝るのはマズいので、本を読むのをやめてSNSを漁り始める。ダラダラとスマホを見てるだけでも存外眠気を飛ばせるのだ。


 そんなこんなでどうにか30分ほど耐えるも……流石に限界が来た。しっかりと寝たはずなんだけどな……。


 瞼は重く、手に持っているスマホすら落としてしまいそうなほどの眠気に呑まれそうになっていると、んあ……と寝ぼけた声を出しながら蓮が瞼を開く。


 最後の力を振り絞って僕は口を開く。


「ごめん、蓮……。後はお願い……」


「ん……。ああ、お前も眠くなっちまったか。おっし、後は俺に任せとけ」


 その言葉を聞いた直後、僕は深い眠りに落ちたのだった……。


 ―――――――――


「ぃ……。起きろ、透……」


「ん……」


 蓮が呼ぶ声が聞こえる。もうみんなが来る時間なのかな……。


 ゆっくりのっそりと起き上がり、しょぼしょぼする目を擦りながら瞼を開ける。眼前には蓮の顔。何か切羽詰まった顔をしている。……どうしたんだろう?


「もうみんな来てるぞ、ほら」


「え……?」


 蓮が指し示す方を見ると、そこには真衣さんたちみんなの顔が。え……?


「ちょっと蓮!?すでにみんないるんだけど!?」


 大慌てで口元を拭いながら抗議する。良かった、よだれは垂れてないみたいだ。


「まあ……いろいろ事情があってな……」


「僕が小恥ずかしい思いをするよりも?」


「ああ。俺が生きるか死ぬかだからな」


「そんなに大事だったの!?」


 よく見ると、蓮が冷や汗を掻いている。何かあったのだろうか……?


「まあそんなことよりほら、さっさと本題の花見兼歓迎会を開催しようぜ?」


 蓮が強引にオレンジジュースを注いだコップをみんなに渡してくると、そのままの勢いで乾杯!と叫ぶ。


 あまりにも迫真だったためそれ以上何か言う気も無くなり、乾杯と返す。


 真衣さんたちも 何事もなく1週間が終わり、待ちに待った土曜日が訪れる。天気予報は雲一つない快晴をうたっていた。


 ささらに行ってきます、と言って家を出る。少し寂しげな表情をしていたのが心苦しかった。帰りに何か買ってきてあげよう。


 ……って、これがダメだって言われたのかな。……でもあんな顔をしてたし、何より放っておくと僕の方が辛い。このぐらいはきっと大丈夫だろう。うん。


 まだ朝は早く、やっと朝日が出てきたところだった。空がオレンジ色に染まっている。朝焼け、というものだろうか。


 あくびをして眠たげな蓮と合流し、近場にある桜で一杯の公園に行く。


 朝早くから出た理由は、男子による場所取りのためだ。暖かくなってきたとはいえ、春先のため明け方はまだまだ寒い。そんななか、外で何時間も待つ行為を女子にさせるわけにもいかない、ということで僕たちが買って出たのである。


 ……まあ僕があまりにも手持ち無沙汰ぶさただったから、というのもある。祝われる立場とはいえ、あまりにも何もしていないのは良心の呵責かしゃくを感じてしまった。


 それはともかく、公園に着くと既にチラホラと人が居るのが分かる。地元の人しか知られていないとはいえ、既に戦いは始まっているようだった。


「ここら辺で良いかな?」


「おう、十分良いと思うぜ。景色もバッチリだしな」


「じゃあ敷いちゃおっか」


 蓮と2人でレジャーシートを広げる。6人位は座れそうな広々としたシートだ。オレンジや赤などのビビッドカラーがそこかしこに散りばめられている。


 角に荷物という名の重しを乗せて、場所取りも完了。後は真衣さんたち女性陣を待つだけだ。


 当然暇なため、蓮と会話しながらのんびりと待つことにした。


「そういえばみんなはどうやって来るの?」


「先生が車で送迎してくれるってさ。俺たちは人数オーバーで帰りも乗せてくれないらしいがな」


「まあ、僕たちは近いし諦めようよ」


「ま、それはそうなんだけどな」


 蓮はケロッとした顔で言う。ただ先生に対して愚痴りたかっただけらしい。


 喋っていると時間が経って日も明るくなり、段々と暖かくなってきた。すると、蓮がうつらうつらとし始めた。


 やっぱり眠いのだろう。僕が見ているからと蓮を眠りにつかせると、スマホを取り出して電子書籍を読み始める。


 時刻は朝の6時。8時に来る予定らしいから、それまでずっと見張りをすることになる。


 周りも人が増え始め、歩ける場所がどんどんと少なくなっていく。早めに来ておいて良かったなと思う。


 待ち侘びた新作をじっくりと読みながら、たまに荷物と蓮を見るのを繰り返すこと約1時間。本が佳境に入ってきたところでふと眠気が襲ってくる。


 流石に僕まで寝るのはマズいので、本を読むのをやめてSNSを漁り始める。ダラダラとスマホを見てるだけでも存外眠気を飛ばせるのだ。


 そんなこんなでどうにか30分ほど耐えるも……流石に限界が来た。しっかりと寝たはずなんだけどな……。


 瞼は重く、手に持っているスマホすら落としてしまいそうなほどの眠気に呑まれそうになっていると、んあ……と寝ぼけた声を出しながら蓮が瞼を開く。


 最後の力を振り絞って僕は口を開く。


「ごめん、蓮……。後はお願い……」


「ん……。ああ、お前も眠くなっちまったか。おっし、後は俺に任せとけ」


 その言葉を聞いた直後、僕は深い眠りに落ちたのだった……。


 ―――――――――


「ぃ……。起きろ、透……」


「ん……」


 蓮が呼ぶ声が聞こえる。もうみんなが来る時間なのかな……。


 ゆっくりのっそりと起き上がり、しょぼしょぼする目を擦りながら瞼を開ける。眼前には蓮の顔。何か切羽詰まった顔をしている。……どうしたんだろう?


「もうみんな来てるぞ、ほら」


「え……?」


 蓮が指し示す方を見ると、そこには真衣さんたちみんなの顔が。え……?


「ちょっと蓮!?すでにみんないるんだけど!?」


 大慌てで飛び起き、口元を拭いながら抗議する。良かった、よだれは垂れてないみたいだ。


「まあ……いろいろ事情があってな……」


「僕が小恥ずかしい思いをするよりも?」


「ああ。俺が生きるか死ぬかだからな」


「そんなに大事だったの!?」


 よく見ると、蓮が冷や汗を掻いている。何かあったのだろうか……?


「まあそんなことよりほら、さっさと本題の花見兼歓迎会の開催といこうぜ?」


 蓮がオレンジジュースを注いだコップをみんなに強引に渡すと、そのままの勢いで乾杯!と叫ぶ。


 あまりにも迫真だったためそれ以上何か言う気も無くなり、弱い声で乾杯と返す。


 真衣さんたちも、感情を感じさせないほどの冷淡な声で乾杯と言う。本当に、僕が寝てる間に何があったの……?


 ふたたび疑問が沸き上がるも、気にする前に真衣さんが何か大きいものを中央に置く。


 それはバスケットのような見た目をしている大きなバッグだった。上部に付いているファスナーを開けると、中からは色や形がさまざまなお弁当箱が幾つか出てきた。バッグをよく見ると、裏地が保冷シートになっている。


「では、透くんお待ちかねのお弁当のお披露目と行きましょうか」


 カパッとふたを開けると、そこには僕が食べたいと言った唐揚げの姿が。


「ふふ、実はついさっき揚げてきたばかりなの」


 果たしてその通りらしく、唐揚げはまだ表面が油でテカテカと輝いていた。


 そんなものを目の前に差し出された僕は、思わず喉をごくりと鳴らした。


 思えば、朝早くに起きてから何も食べずにここで待機していたのだ。お腹が減っていない方がおかしいだろう。


 そのことを意識すると、急にお腹が減った感覚に陥る。クゥゥとお腹が鳴る。恥ずかしいが、それよりも早く食べたいという思考でいっぱいだった。


 早く食べたい、と伝えるように真衣さんの顔をじっと見ると、何故かそっぽを向かれる。


 伝わらなかったのかもしれない。やはりこういうのは口に出すべきなのだろうか。


「あの……真衣さん」


「はい!?なんでしょう!?」


 慌てて真衣さんがこちらを向き直す。……うん? なんか、耳が赤い?


 さっきのお腹が鳴った音が、僕のじゃなくて真衣さんのだと勘違いしたのだろうか。いやでも、流石にそんなわけないか。じゃあなんで赤いんだろう……。


 どうも今日は疑問が湧いてばかりだ。でも、目の前にエサを垂らされて他の事に集中できるほど僕は賢くない。


「まだ、食べちゃダメですか?お腹がペコペコで……」


「ぅ……。も、もう少しだけ待ってね。全部開けてからみんなで食べ始めましょう」


「は、はい、それはそうですよね。我慢できなくなっちゃって」


「で、では、透くんも限界みたいですし、一気に開けちゃいましょう」


 次々とふたを開けていき、だし巻き卵からフレンチトーストのようなサンドイッチまでたくさんの料理が所狭しと並んだ。


 そして料理が一品一品見えていくたびに、その美味しそうな見た目や香りに僕の胃が早く寄越せと咆哮する。


「それでは、さっそく食べ始めましょう。いただきます」


『いただきます!』


「あ、すまないがちょっと待ってくれ」


 ん?と、みんなが制止してきた先生の方を見る。待ちに待ったご飯をまたお預けされてしまった。


「いや、食事の場で出しておくべきものがあってな。それを車に置いてあるから取りに行ってくる」


「え、私何か車に忘れてきました?」


「いや、私が勝手に用意したものだ。気にしなくていい」


 先生が歩いて行く。2分ほどで戻ってこれるだろう、とのことだ。


「先生の言ってたものって、なんなんだろうな」


「料理の場、と言っていたから食べるものなのでしょうけど……」


「でも、先生が何か持ってくるって聞いてないしなあ。透は何か聞いてないか?」


「僕も何も聞いてないよ」


「わたしも聞いてない」


 みんなで首を傾げていると、すぐに先生が戻ってきた。……何やら大きい箱の入ったビニール袋を手に下げて。


「ふう。そこまで重くはないが人に当たってしまいそうで思ったより慎重になってしまった」


「それはいいんですけど、その……それ、何ですか?」


 思わず聞いてしまった。聞かない方が良かったかもしれないと少しだけ思いながら。


「なに、こっちも開けて中身を出すから少し待っていろ」


 先生が袋から取り出し、テープを剥がして箱を開ける。何が出てくるのかと緊張していると喉が鳴る。


 果たして出てきたのは――超巨大なシュークリームだった。かなり大きい。ケーキ屋などで売っている形の良いシュークリームが20個前後は収められそうな大きさだ。


「前に偶然見つけてな。1人では食べきれないしこういったパーティー向きだと思って買ってみたんだ」


 そう先生は言うも、僕たちは開いた口が塞がらなかった。

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