第9話 先生のすることは

あのあと、担任という事もあり特にみっちりと絞られた僕と蓮はようやく帰ることが出来ていた。


「いや~しかしびっくりしたな。しかもよりにもよって朝霧先生が来るとは」


「びっくりしたじゃないよホント……。真衣さんたちは軽くで済んだから良かったけど」


「でも警告で済んだし良かったじゃん。生徒指導とかされなくてさ」


「そうだけどさ……」


 辺りを見渡す。既に日は沈み、均等にある街頭だけが僕たちの歩く道を照らしてくれている。


「ここまで遅くなるとは思わなかったよ……」


「ささらも心配してたもんな」


 そう。6時を過ぎても連絡のない僕にささらからの電話が鳴り響いたのだ。先生の説教も終わり電話に出てひとしきり説明すると、帰ったら罰があります、とだけ言って切られてしまった。


「真衣さんにはうっかり熱が入って語ってしまったしささらにも怒られるだろうし踏んだり蹴ったりだよ……」


「すまんすまん。でも、まさかあの店にまで来るとは正直思ってなかったわ。あそこは先生が来ないゲーセンということで生徒の間では有名だったし」


「え、そうだったんだ。だから今までバレなかったんだ」


「ああ。だからこそ、これからどこで遊ぶか考えもんだがなあ」


 蓮がスマホを取り出してスイスイと操作している。恐らく他の遊び場所を探しているのだろう。


「でも、もう帰って着替えてからしかないんじゃない?」


「まあその通りだが……めんどくせえじゃん?」


「分かるけども、また同じようなことになった方がもっと面倒じゃない?」


「そんなのは実際にそうなってから考えればいい」


「それだと既に取り返しがつかない気がするんだけど」


「まあしゃあねえか。しばらくはなりを潜めた方が良さそうだな」


「そうだね」


 ひゅう、と風が吹く。夜風はまだ肌寒く、一抹の不安を覚えさせるような冷たさをしていた。


 思わず体を震えさせ、身を捩りながら家に帰った僕を待っていたのは、ささらからの説教だった……。


   ―――――――――――――――――――――――――――――――


 その夜、綺麗な髪を冷たい風になびかせながら風よりも冷たく感じさせる風貌の女性――朝霧冬は、マンションにある自室へと帰りながらある事を考えていた。


 考えている事とは無論、今日ゲームセンターで見つけた4人のことである。


 ああいう類は同じことを繰り返す傾向にある。それを阻止するにはどうすればいいかを考えているのだ。


 だが、良い案が全く思い浮かばない。そもそも品行方正だ生徒の模範だと聞いていた真衣が一緒に居たのが信じられない。


 そのことを他の先生に言ったところで、巻き込まれたのでしょうで済まされてしまうだろう。


 そうなのかもしれないが、そうじゃないのかもしれない。それを見分けるためにも見張りをする必要があるが、果たしてどうしたものか……。


 こういう時はお風呂に入って気分転換でもしよう。一度スッキリすると意外にも簡単に解決方法が見つかったりするものだ。


 そう考え服を脱ぎ始める。大きいが正義ではないと語る美しい乳房や、ミスコンでの優勝を飾ったハリのある柔肌と細身の身体をさらけ出していく。


 湯船は彼女の好きな少し温めの温度。まだ2日目で緊張もあり、少しでも体を解すために好きなミントの香りの入浴剤を入れて心と体を解消する。


 気持ちよさと疲れからうっかり寝てしまいそうになるが、それは寝落ちではなく気絶だと強引に体を起こして気絶を回避する。


 そのままシャワーを浴びて一度頭を空っぽにしようとする。


 それは間口というこれまた品行方正からはかけ離れた男で、聞いてもいないことをぺらぺらと喋っていた奴だった。


 その中に確か、あの2人が通っている部があると言っていた。料理部だと言っていたはずだ。


 料理部には真衣も二奈も在籍していたはずだ。そこから繋がっているのかもしれない。


 しかし部か……どうやって口出ししようか。そもそも他の先生方が顧問をしていると考えられる。まだ私の部活担当も決まっていないし、どうしたものか……。


 だが考えたところでどうにかなるものでもない。少なくとも彼らの繋がりが料理部にあるのでは、と分かっただけでも儲けものだと思う事にしよう。


 お風呂から出て寝間着に着替えた彼女は、いつもとあまり変わらない料理を食べることにした。最近は凝った料理も作ってないなと思いながら。


 料理部の名を聞いてふとそんなことを思ってしまった。


   ―――――――――――――――――――――――――――――――


「朝霧さん、まだ日も浅いし大変かもしれないですけど、部活の顧問やってみませんか?」


「顧問……ですか?」


「ええ。料理部の顧問なんですけど、私が掛け持ちで担当してまして。一応副顧問という形で、顔を出していただくだけでも全然構わないんですけど」


「やります」


「そうですか、それは良かったです。ゆっくりで良いので慣れていってくださいね」


「はい。ありがとうございます」


 彼女は心の内で、これは僥倖だと微笑んでいた。


   ―――――――――――――――――――――――――――――――


 今日も料理を作るのだろうか。流石に毎日作っていると、例え少量だったとしても相当な費用になるだろうから気になる……。


 そんなことを蓮に聞くと、どうやら買い込んだ食材を使いきるまでは連日作り続け、それからしばらくは作らずに献立を考えたり調べたりといろいろなことをするらしい。


 ちなみにまだ食材は残っているという事で、どうやら今日も作るらしい。


 今日も半日で終わったから最高だ。明日からは通常授業だけど。


 最後の半日を噛み締めつつ部室に着くと、そこにはあまり明るくない表情の真衣さんが待っていた。


「どうやら副顧問の人が決まったらしいの。それでその先生なのだけれど……。」


「どうした?なんかマズイ先生だったか?」


 僕たちがさっき閉めたドアがガラッと音を立てながら開く。


「今日から副顧問を担当することとなった朝霧冬だ。よろしくな。特に蓮と透は」


『あ……はい……』


僕たち2人は、顔を真っ青にしながら担任の顔を見つめ呆けるのだった。

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