第8話 類は友を呼ぶ
ゲームセンターへ行こうということになり、近場は先生の巡回など少し不安なので遠めにあるゲームセンターに行くことにした。
電車で4駅ほど行ったところにあるそこは少し小さいながらも活気づいていて、みんなの憩いの場であることを示している。
日も隠れ少し肌寒くなり、手に息を吐きながらどうにか耐えて店内に入る。
すぐに雑踏が嫌でも耳に入ってくる。いきなりの大音量に真衣さんはびっくりしたのか、顔を歪めて手で耳を塞いでいた。
「あれ、そういや真衣は初めてだったか?こういうところに来るのって」
少し慣れてきたのかゆっくりと手を放していく。
「そうね……。二奈や蓮から話には聞いていたけれど、実際に訪れるのは初めてだわ……。ここまで耳に刺さるとは思わなかったけれど」
「まあいろんなゲームが俺の音を聞け!と言わんばかりにかき鳴らしているからな。なあに、すぐに慣れる慣れる」
「ええ、今はだいぶ平気になってきたわ。それで、何を遊ぶの?」
「そうだなあ、何遊ぶよ、透?」
……僕がよく遊ぶのはアーケードゲームとかなんだけど、流石にゲームに詳しくない真衣さんや深くなさそうな二奈さんを前にして、それを選べるほど置いてけぼりにはしたくない。
少なからずゲームには好意を持っていてもらいたい。ということで……
「メダルゲームでも遊ぼうか」
「まあそうだな。真衣もいるしあまり踏み込んだものはやめておくか」
「そのメダルとかアーケードとかって、いったいなんなの?」
「要するにゲームジャンルの一種だ。メダルゲームはその名前の通りメダルを使って遊ぶ。アーケードゲームは……説明しきれないから、機会があったら説明するわ」
真衣さんも落ち着いて来たので、メダルを借り入れて大型機に座り蓮が遊び方を説明しながらメダルを投入していく。
スロットが回り派手な演出を流していく。その度に真衣さんは目を輝かせていた。
ただ、JPCなどにでもならない限りは特別派手なことも起きないため、慣れてくるとだんだんと駄弁ることが多くなっていた。
「そういや透、あのゲームどうだった?」
「結構面白かったよ。最近流行りのターン制戦略シミュレーションゲームとしてかなり正統派で凄く良かった」
「なるほどなあ。……買うか迷うなあ」
「秋から冬にかけて、面白そうなのが一杯あるもんねえ」
「そうなんだよなあ……。セールで良さそうなインディーゲームとかもうっかり手を出しちまうし」
「僕もリメイクやリマスターのゲームがすっごく楽しみで仕方ないんだよねえ」
「あの掘りものパズルゲームのリマスターも楽しみだよなあ」
「そうだよねえ」
と、ゲーム談義に花を咲かせていると、まさかの人物が参戦してきた。
「……わたしでも遊べるゲームって、ある?」
「ん?二奈でも遊べるゲームかあ……。最近流行りのスローライフゲームとか?あれなら自由に出来るし。透はほかになんかあると思うか?」
「え?あ、そうだね……アイドルが好きなら、アイドルが出るようなゲームとか……?」
「あ、二奈はゲーム機持ってないだろ?俺が貸してやるよ」
「ほんと?ありがとう」
「おう。そのぐらいお安い御用さ。……うん?透、どうした?」
「いや、なんというか、二奈さんと会話……と言っていいかはわからないけど、話したのって初めてだし」
「そういや透がいる状態で話しかけてきたのって初めてだよな。もう慣れたのか?」
「うん、少しだけど慣れた。もうあんまり怖くないと思う。…………透には後で聞きたいこともあるし」
「僕に?」
「うん。今は言えないけど」
「ふ~ん。まあ、二奈も透と喋れるようになって良かったわ。やっぱ飯を共にしたのが効いたか?」
「どうだろう。分かんない」
二奈さんが苦笑いで返すと、真衣さんは静かに微笑んでいた。
しかしメダルゲームは僕たちには全く微笑んではくれず、ジャックポットチャンスにすら繋げてくれなかった。
メダルも半分を使ったところで一度他のゲームをしよう、ということになり、メダルゲームから離れてクレーンゲームを遊ぶことにした。
お菓子やフィギュア、ぬいぐるみなど様々なものが置かれている。最近は取り方も様々で、棒を穴に差し込めればゲットできるものや、片側のクレーンで引っ張っていくものなどがある。
その中に可愛らしいペンギンのようなぬいぐるみがあり、思わず欲しくなってしまいお金を投入する。
……まあ当然一発では取れなかった。地道に引きずっていくしかない。
熱くなって100円、また100円と投入すること10数回。どうにかゲットすることが出来た。
「やっと落としたか。落としたのは良いけど、持ち帰る時に荷物になるからって俺のカゴに入れるなよ」
「今日はそんなに荷物あるわけじゃないし大丈夫だよ……多分」
「でも可愛らしいぬいぐるみね。私も何か欲しいのがあったりするかしら」
「あー……、お金に余裕がなければやるのはあまりお勧めしないぞ」
「あら、どうして?」
「クレーンゲームは大抵1500円前後で取るのを想定して置かれてるからな。慣れてないと場合によってはもっとかかるし、特定金額にならないとアームに力が入らないってのまである」
「だけど如何に安い金額で取るかっていうチャレンジもそれはそれで楽しいわけで!……まあ今のは上手くいったと言えるかは分かんないけど」
「それ自体が娯楽だから買うより楽しいってわけね」
「そうそう!それにクレーンゲームの景品はほとんどが専用の景品だからやっぱり欲しくなっちゃうわけで!ついつい遊んじゃうんだよ~」
……?なんかみんながクスクスと笑ってるような……。
「どうしたの?」
「いや、おまえ、熱が入ってたのか知らんが相当熱く語ってたぞ。真衣相手に」
「えっ」
そういえば、間に入ってたの真衣さんだった……、すっかり気付かなかった……!
「ああいやそんなつもりはなかったわけでそのとにかくごめんなさい!」
「顔が真っ赤になってるぞ。素で気付いてなかったのか」
「やっと敬語が取れたと思ったのだけれど、単に熱が入ってただけなのね。でも、蓮の友人だというのがよく分かったわ」
「おい真衣、どういう意味だよ」
「我を忘れるほど熱く語ってたんですもの。蓮が散々二奈と一緒にやってきたことじゃない。まさしく類は友を呼ぶ、ね」
「わたしも入ってるの、それ」
「それは勿論。むしろ入ってないと思った理由を教えて欲しいわね」
「……」
二奈さんが否定できないまま会話は幕を閉じ、良い時間なのでメダルだけ使い切ってから帰ろうという事で再度メダルゲームを遊ぶことに。
するとさっきまでデレなかったというのにいきなりデレ始め、ジャックポットチャンスまで楽々と辿り着いた。
みんなが固唾を呑んで見守る中、ボールは転がり始め……なんども100枚の枠に入りそうになっては声にならない悲鳴を上げそうになる。
そんな運命のボールは……見事ジャックポットに入った。思わず歓声を上げそうになったところで――声を掛けられる。
「お前たち、制服姿で何をしている?」
朝霧先生に、見つかったのだった。
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