第5話 楽しい時間

「ただいま」


「おかえり、お兄ちゃん」


 ささらが出迎えてきてくれた。今日は料理当番なため可愛いエプロンを身に纏い、キラキラした目で僕を照らす。


「ただいま。何か作ってるの?夕飯には少し早いと思うんだけど」


「初めて作るから、どれくらい時間が掛かるか分かんなくて早めに作り始めたんだよ。もう少し時間が掛かるから、ゆっくり待っててね」


 僕は、分かったと言って2階にある部屋に戻り、私服に着替える。洗い物を持ってリビングに行くと、ささらが一生懸命に肉を捏ねていた。


「もしかして、ハンバーグを作ってる?」


「やっぱり、分かっちゃう?」


 あはは、と苦笑しながら答えてくれる。


「友達と練習って言ってたのって、ハンバーグのこと?」


「ううん、違うよ。ハンバーグは簡単だから作ってみたらって、お母さんに教わったの」


 ほら、と言ってお母さんの書いたレシピを見せてくれる。よく食べていたお母さんの味、というやつかもしれない。


 邪魔するのも悪いと思って詳しく見ずにすぐにレシピを返すと、お兄ちゃんも作ってみたら?と言うので、また今度ねと言って洗面所に衣類を置きに行った。


 ささらの方をこまめに確認しながらリビングで待っていると、蓮から連絡が来る。


「明日の料理なんだけどさ、何か作りたいものってあるか?」


「丁度良かった。ささらからハンバーグを作ってみたらって言われたから、練習したいな」


「ハンバーグは少し重いかもしれんが、分かった。真衣たちに伝えておくよ」


「ありがとう。ごめんね」


「良いってことよ。ま、絶対平らげられるだろうしな」

 

 ん?、平らげられるって……蓮が平らげるんだよね?微妙に言葉がおかしいような。俺が平らげられるって言いたかったのかな。


 というかそんなに大きいのを作るつもりなのだろうか。あるもの全部使うのかな。


 何はともあれ明日のお昼は決まったので、後でささらに伝えておこう。


「お兄ちゃん、出来たよ~」


「わかった~」


 丁度出来上がったようで、席に着くとニコニコと笑顔のささらが少し焦げ付きの見えるハンバーグをもってキッチンから出てくる。


 少し目を離していて不安だったけど、おかあさんが作ってくれるハンバーグと瓜二つだった。


「どうかな?」


「うん、すっごく美味しそうだよ。いただきます」


 ハンバーグを割るとホクホクと湯気が上がり肉汁も出てきてなんとも美味しそうだ。


 口に入れると、お肉が口の中に広がって幸せな気持ちになる。タマネギの食感も堪らない。


 何よりささらが作ってくれたものというだけで美味しさ100倍だ。


「美味しいよ」


「良かった~」


ほっとしたような、でも嬉しいのが隠せていないにやついたような表情をしていた。


「じゃあ、私も食べ始めるね」


 ささらも席に着いていただきます、と言って食べ始める。お腹が空いていたのかパクパクと食べていく。


「そうだ、明日なんだけどさ、蓮たちとお昼を作って食べることになったんだ」


「そうなの?じゃあ明日もお昼で終わり?」


「……1日かけてテスト。まあ1日と言っても実際はお昼までらしいけど」


「うわあ……大変そうだね。高校生って」


「学力テストだから成績には影響しないらしいけど、それでもテストは緊張しちゃうね。そっちはどうなの?」


「軽い授業だけやって終わりだって。だから私も半日で終わるよ」


「そっか、お昼からはどうするの?」


「まだ決まってないかなあ。もしかしたらお家でゲームしてるかも」


「じゃあなるべく早く帰れるようにするね」


「うん」


 こんな風に、ダラダラと何かを話しながら食べるのが僕たちの日常だ。


『ごちそうさまでした』


 晩ご飯を食べ終えお皿を片付けて、お風呂に入るまでの間にささらとゲームを遊ぶのが恒例となっている。


 遊ぶと言っても様々で、対戦することもあれば協力することもあるし、どちらかが遊んでいるのを横から見てることもある。


「今日は何やりたい?」


「うーん……」


「決まらないか。一緒に遊びたい?それとも見てる?」


「………………。見てるだけにする」


「そっか」


 それを聞いた僕はパッケージやダウンロードで購入したゲームを眺めていく。


「あ」


 そういえば、まだ遊んでいないゲームがあったのだった。


 一人用ゲームを最近遊んでいなかったので、すっかり忘れていた。良いタイミングだし、せっかくなので遊んでしまおう。


 ささらがキッチンで何かしているのを後目に、僕はそのゲームを遊び始めたのだった…………。


________________________________________________________________________


「お兄ちゃん、お風呂空ふろあいたよ~」


「え?もうそんな時間?」


 時計を見やると、遊び始めてから2時間が経っていた。ささらも呼びかけてくるわけだ。


 割と夢中になって遊んでしまった。これからどうなるのかが楽しみで仕方がないけど、また今度にしておこう。


 セーブをして電源を切り、お風呂に入った。湯船に浸かると、疲れていたのか一気に眠気が襲ってきた。


 体を洗ってお風呂を出て、ささらと二言三言ふたことみこと交わした後はおやすみなさい、と言って自室に戻る。


 今日一日の出来事を思い出しながら寝る準備をして布団ふとんに潜ると、自分でも驚くほど早く眠りについたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る