第4話 3時のおやつ

「それでは、ホットケーキを作りましょう」


 その声を合図に、僕たちは食器を取り出すなどの準備を始める。J-POP系の音楽をBGMにしながら。


 どこから取り出してきたのか分からないCDプレイヤーの側でトリップしている2人をどうしたものかと考えていると、真衣さんの「もう帰ってこないから2人だけで作っちゃいましょう」の一言で作り始めることになった。


 僕が買ってきたハチミツやメープルシロップを食器と一緒に並べ、真衣さんがホットケーキを2つのコンロを使って2枚同時に焼いていく。


 ホットケーキぐらいなら僕も……と思って言ってみたのだけれど、お客さんなのだから私に任せてと言われて、座席に待機することになった。


 ……お試し参加なのに一切料理をしなくていいんだろうか。


 シングルCDの曲が1周したところで全て焼き終え、トリップから帰ってきた2人も一緒に席に着いた。


 『頂きます!!』


 2段積みのホットケーキにメープルシロップをかけて食べ始める。うん、甘くて美味しい!


「透くんは甘味が強い方が好きなの?」


「え?ああ、そうですね。甘いものほど大好きです」


「甘いものだけはどんなに量があってもペロリと平らげちまうからなあこいつは」


「あはは……手が進んで気が付いたら食べきっちゃってるんだよね」


「おかげでケーキをホールで買うのに半分近くはこいつ1人に食われちまうんだよ。堪ったもんじゃないぜ」


「そんなに食べるの……」


 真衣さんだけでなく二奈さんもちょっとでは済まないぐらい引いていた。


「それだけ食べて太らないの?それとも意外と太ってたりする?」


「聞いて驚け。52kgだ」


「えっ……」


 真衣さんの顔が固まる。


「まあ身長も低いからな。それでも少し痩せている方だとは思うが」


「というか、なんで僕の体重を勝手に言うのさ」


「嫌だったか?悪かったな」


「別にいいけど、せめて一言断ってからにしてよ」


「次からはそうするわ。次があるか分からんが」


「ところで、何か運動をしているからそんな風に痩せているのかしら」


「残念なことに、何もしていなくても痩せるタイプだ」


「許せないわね」


「だろ?」


 二奈さんも同意するようにコクコクと頷いている。


 ……いつの間にか、おやつの時間は僕の体質への文句タイムになっていた。


 夕日が出てきてもう遅いので帰ろうという事でバッグを持とうとしていると、蓮が問いかけてくる。


「どうだ、料理部、入ってみるか?」


「うーん……正直、結局お昼もおやつも料理体験しなかったのに入ってみるかと言われてもって感じなんだけど」


 みんなが、あっ……と忘れていたという顔をした。


「じゃ、じゃあえっと、明日って活動するのか?」


「え、ええ。明日もやっているわよ」


「じゃあ明日も一緒に料理部に来ようぜ。それで決めよう。なっ!」


「妹に止められなければそうしたいな」


「では、明日も待ってるわね」


 最後は締まらなかったけど話は終わって、今度こそ帰ることになった。


 正門を出て真衣さんと二奈さんと別れて、蓮と2人で自転車を漕ぐ。


 夕日のす方へ進むため、視界はずっと眩しい。だから少しでも眩しくならないように睨みながら漕いでいると、前にいる蓮に話しかけられる。


「まあ、今日はこんな結果になっちまったけど、どうだった?楽しかったか?」


「楽しかったよ」


「そっか。なら良かった。後は明日だな」


「うん。そうだね」


 春先と言っても日が沈むのは早くて、もう夜になろうとしている。


 でも、お腹が満たされているからなのか、なんだか心も満たされているような気がする。


 そんな不思議な感覚を抱えながら、自転車を降りて軽いバッグを持つ。


『じゃあ、また明日』


 2人そろってそう言って、蓮は自転車を漕いでいき、僕は鍵を取り出して家に入ったのだった。

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