第3話 お買い物

 お腹も落ち着いてきたので、それぞれ支度したくを終えて買い出しに行くことにした。


「それじゃあ行くか。忘れ物は無いよな?」


「多分大丈夫だよ」


「おっし、じゃあ出発だ!」


 蓮がそう言うと僕たちは高校を後にした。


 高校から歩いて約15分。歩いて行くと遠いような近いような、そんな場所にあるショッピングモールが僕たちの目的地だった。


 日差しを浴びたからか食後で鈍っていた頭がようやく動き出し、ホームルームで聞いたことを思い出す。


「……あの、ホームルームで先生が寄り道するなよって注意してたんですけど、大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。買い出しも部活の一環だから。もし見つかって何か言われたら、料理部の買い出しですって言えばいいのよ」


「それで良いんですね。……割と雑というかなんというか」


「ふふっ、それはそうね」


「そういうことだ。というわけでちょっとCDショップに寄っていいか?欲しいものがあってな」


「ダメって言ってもゲームセンターとかにも勝手に行ってるじゃない」


「さすがにそういうところに居るのがバレたらいろいろ言われるからな。被害は少ない方がいいだろ?」


「そもそも行かなければ良い話なのだけれどね」


「行くなと言われたら行きたくなるのが人ってもんだ。二奈だって今日はCDショップに行きたいよな?」


「……うん」


 小さい控えめな声であるにも関わらず、その決意は絶対に揺るがないと思わせる何かがあった。


「……ああ、そういうこと」


 真衣さんは何かを察したらしい。


「長居するわけにも行かないから、私は食材を買いに行っているわ」


「透はどうする?」


「え。……真衣さんの方に行こうかな。欲しいCDとかがあるわけでもないから」


「じゃあ丁度二手に分かれての買い物になるな」


「1つは本来の目的から外れてるわよね」


「いや、俺たちにとってはこれが本来の目的だ」


「……そう」


 最初からそれが目的だったとハッキリと知らされた僕たちは、ため息を漏らすように呟いたのだった。


  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 程なくしてショッピングモールに着いた僕たちは、予定通り?にそれぞれに別れて買い物に行くことになった。


 CDショップは入った東の入り口からは近いけど、食品系の場所が反対の西側にあるため、後から蓮たちがこっちに合流しに来るらしい。


 2人と別れて真衣さんと歩き始めて早速、真衣さんは僕に1つ教えてくれた。


「蓮と二奈は同じCDを買いに行ってると思うわ。2人とも同じアイドルが好きだから」


「…………そ、そういえば蓮が絶対にCDを買うって断固するときはそのアイドル関連でした……」


「やっぱり普段からそうなのね。まあそういうことだから、ああなった2人を止めることは無理なのよね……」


「そうですよね。好きな事となると蓮も全然止められなくて……」


「二奈もそうなのよ。あんなに引っ込み思案なのにアイドルだけは止まらないわ」


「ああなってしまうと大変ですよね」


「本当にそうよね」


 蓮と二奈さんに対する困っていることを話し合っていると、真衣さんはまたなぜかフフッと笑った後、話題を変えて悪いのだけど、と付けて僕に聞いてきた。


「透君は、甘いものはお好きかしら?」


「えっと……大好きです。反対に苦い物は苦手ですね」


「ふふっ、なんだか子どもみたいね」


「あはは、よく言われます……」


「聞いた理由なのだけれどね、かなり甘いものだからもし苦手だったら甘すぎないようにした方が良いのかなって思ったのよ」


「そうだったんですか。多分大丈夫だと思います」


「そう。なら安心して作れるわね」


 真衣さんがニコニコしていると、ショッピングモール内の食品販売コーナーにたどり着いた。


 ついていくと、ホットケーキミックスに牛乳といったものたちをカゴに入れていく。ホットケーキを作ると分かると、満腹だと思っていたお腹が急に空きだした。


「甘いって、そういうことだったんですね」


「そうよ。だから苦手と聞いたらまた違ったものを作ろうと思っていたわ」


「ホットケーキだったらたくさん食べたいです!」


「ええ、たくさん作るからたくさん食べてね」


 と、スマホが震えたため確認してみると、買い物が済んだからそっちに行くと連絡が来た。


 その事を伝えると、2人が来るまで時間を潰そうということで食品コーナーをグルグルと見回っていた。


「よう。しっかりバッチリ買ってきたぜ」


 別れる前よりも少し膨らんだカバンを下げた2人が現れた。抑えているつもりなんだろうホクホクとした顔が嬉しさを物語っている。


 良かったねと言いたいけど、下手に触れると長~い魅力を語られるから言うに言えなかった。


 そんな思いを抱えつつ、レジで買い物を済ませ終えて高校に戻ることになった。その途中……。


「……何というか、凄いですねあの2人」


「完全に自分の世界に入りきっちゃっているから、今は何を言っても聞かないと思うわ」


 上の空なのに慈愛じあいに満ちた目をしていて、少し恐怖きょうふすら覚えてしまうほどだった。


 ……2人は、料理部に入るまでずっとこの調子だった。

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