そうと決まれば
ひとまず、一旦鍛練はこれまでだな。
マントルまで潜って、超高温超高圧と言う過酷な環境に身をさらす。
無論これでも今の俺にはたいした負荷ではない、なら鍛練になるのかと問われると悩むが。
まあ、耐久力の鍛練ぐらいにはたぶんなっているかもしれない。
……実際、本当の意味で肉体の頑丈さを鍛えるなら肉体に苦痛が伴う程の刺激が必要になるかもしれんだろうが。
しかし、それをやるとなると最低でも戦略兵器規模の破壊力がなければならないため、とてもじゃないが実行できるわけがない。
今の俺には何が必要なのか。より強く、さらに成長するには?
こうしてる間にも魔獣も超獣も、その身を改良強化して戦闘能力を向上させてるはずだ。
いずれ今の俺を越えるほどの超獣だって現れるだろう。
そうなれば、この世界は終わりだ。そうなる前に、対抗できる力をつけておかなければならない。
そのためにも俺達石カブトは、さらに強くなるためにも、どうすればよいかだ。
……とは言え、今は任務が優先だ。
そう自分に言い聞かせ、歩を進めていた足を止めて、俺は副長達から数百メートル程離れた位置で停止した。
あまり近よりすぎると、会話しずらいのでな。
「ムラト殿、任務の内容は把握できているだろう?」
「ええ、もちろんです」
虫のように小さいニオン副長から発せられる極小の音波も怪獣の超感覚によって容易く拾えて、その言葉の内容が鮮明に理解できる。
そして俺も口腔内から精密に調整された振動を声として発生させて応じた。
この世界の言語は完全に理解し、さらに声帯ではなく口腔内から調整した振動を出すことで発声ができるようになったので、もはや魔粒子の通訳の機能は不要だ。
おそらく肉体の構成が少しばかり作り変えられ、この世界の状況には適応できたと言えよう。
「地中にいながらでも、会話の内容は把握できていましたから」
精神感応により、副長が聞いた依頼内容も情報として俺に共有されている。
もはや、わざわざ一からの説明など不要だ。
任務はギルゲスに向かい、あの危険な人食いどもの殲滅。
オボロ隊長のクサレた脳ミソを解析するよりは、精神的には楽な仕事だ。
「そうと決まれば、すぐに準備に取りかかり、本日には発たなければなりませんな。おそらくまだ生き延びている住民もいるでしょうから、支援物資が必要になるはずです」
「うむ、私達も準備を手伝おう。チャベック殿、支援物資の準備を」
「了解でございます」
俺が早速仕度にかかると、副長もチャベックさんも今やっていることを止めて、任務の手伝いを始める。
危険性の高い依頼を受けたら即仕度。それは鉄則である。
なぜなら俺達の行動が遅れりゃあ、それだけ犠牲が増えるものだ。
わずかに数秒遅かっただけで、助かるはずだった命が間に合わないことだってある。
依頼がなければ、管轄外ではどんなに酷い犠牲が出ている状況でも俺達には勝手な救援は許されない。
しかし一度許可がでれば、最善をつくして人々を助ける。
そんな許しがなければ動けない躊躇したやり方では多くの人達を助けられない、と言えばそれまでだが。
もどかしくとも、そこんとこは割り切るしかないのだ。
用意した二つの大きなコンテナに次々と支援物資が納められていく。
携行食はもちろんの事、怪我人や病人だっているはずだ、医療器具や薬、非常用道具など様々だ。
「内容事態は蛮竜殲滅だが、それと同時に救命と支援も必要だからな」
根本である蛮竜を殲滅しただけ、では人命救助にはならない。
そう囁き俺は、もくもくと仕事をするみんなを見下ろす。
作業をするのはエリンダ様の命令を受けた陸竜達や業者、それに加え副長、ベーン、電動ファークリフトを巧みに操るチャベックさん。
素手や機械など運び方は様々だが、みなの協力でもうすぐ作業は終わるだろう。
……俺は見ていることしかできんがな。
大きなコンテナをここまで持ってきたのは俺だが、まあ積み込みはサイズ的に不可能だ。
「……ん」
ふと、みんなに紛れてミアナも作業を手伝っている姿を捉えた。
停戦中とは言え敵国の救援をもくもくと手伝うとは、当初と比べるとかなり落ちついたものだ。
そして、しばらくして物資の積み込み作業が終わり石カブトや一部の者達以外は、作業が終わったことで都の中へと帰っていった。
残っている副長とウェルシ様達は内容及び報酬についての話をしている。
そして、その間に俺はコンテナに吊り下げるためのワイヤーをくくりつける作業を始める。
こうすることで持ち運びがしやすくなるものだ。
「おや?」
と、また何かをしているミアナを発見した。どうやら俺が触ってない方のコンテナに異常がないか、しっかりと施錠されてるかの確認をしているようだ。
(ミアナ、お前関係ないのに手伝ってくれて、感謝するぜ)
そんは彼女に俺は声を持ち要らない対話を試みた。思念の会話である精神感応だ。
(ここに、いさせてもらってるんだから少しは手伝わないと忍びなくてね)
とミアナの返答が来た。
そうは言うが、実際のところはただアリシア達を助けてやりたいだけなのかもしれん。
でなければ、ここまで手伝ってはくれんだろうに。
(……そのうやはり聞くのはなんだが、不満なんかはあるのか?)
(……ない、て言えば嘘になるかな)
それはそうだろうな。
何故にギルゲスは助けてくれるのに、自分達の国は助けてくれないのか、と言う不満。
そう思っても仕方はない、思うなと言う方が無理なことだ。
(でも、それは石カブトの掟もあるし、人として抑えなければならないこともある、だから仕方ないことだと今は思ってるの。それにエリンダ様が今、私達避難者のために町まで建設してくれているんだから、これ以上何かを欲求するなんて図々しすぎるから)
そう言ってミアナは点検を終えたらしく、納得したようにフゥーと息を吐いた。
(それにね悪いのはアリシア達じゃない、彼女達だって被害者なのよ。国の敵対関係が続いてるとは言え、そんなアリシア達に怒りや恨みを向けるのは大間違い。今は彼女達が無事に国に戻れることを願ってる。だからこそ悪い言い方になるかもしれないけど、石カブトに依頼をだすように仕向けてみたのよ)
そういやアリシア達は石カブトのことをミアナから聞いたんだったよな。
精神面が大きく成長して、油断できない奴になったものだな。
「それにしても大丈夫なのムラト? あなたが都市を離れたら危ないんじゃ……」
と思念の言語止めてミアナが俺を見上げてくる。
「確かに危険ちゃあ危険かもしれんが、仕方あるまい。空を飛び回る蛮竜相手には対空迎撃能力を持つのは現状は俺だけだ。そのためにも、とっと終わらせんとな」
ミアナ同様に俺だって心配だ。
隊長もいない、クサマもいない、そんな状況で俺が離れれば無防備そのもの。
もしそんな状態で大型魔獣や超獣が出現すれば一貫の終わりだ。
だからこそ早く出発して、早く任務を終わらせ、早く帰投しなければならない。
「なら、どうすべきかは分かりきっている」
支援物資の準備は完了だ。あとは出発するだけと言いたいが、まだ必要なものがある。
俺はニオン副長と会話するウェルシ様達に顔を向ける。
「……あう」
迫ってきた俺の顔を見て、姫は小さな声をあげると恐がるようにアリシアの後ろへと隠れた。
やはりまだ竜の恐怖心がとれてないか。
「ウェルシ様、随伴者として護衛のどちらかをお借りしたい」
怪獣がいきなりにやって来て「救援に来た」と言っても住民達がパニックになるだけだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます