赤き衣を纏いし悪魔

 ……それにしても、あの急な頭痛いたみは何だったんだろうなぁ?

 脳味噌を引っ掻き回されるような、今までに味わったこともない激痛だった。

 そしたら一瞬意識が飛んで……まさか! やまいか。

 ……脳卒中とかか?

 動脈硬化、生活習慣病?

 いやいや、まさか。そんなはずがない。

 怪獣は熱核攻撃にも耐えられる程の生命力と耐久力を持っているんだ。

 そんな化け物が血管障害なんぞ受けるわけがない、たぶん。

 ……それに俺には左脳右脳だけでなく、生体性の特殊能力を司る上脳下脳まで存在している。

 さらに、それら通常の脳が発達したことで分化した、精神感応や超高速演算、解析、記録などを司る量子脳まであるんだ。

 ……ゆえに多少なり脳にダメージが入ったところで、どうと言うことはない。

 この分化した脳の機能と遺伝子情報を制御する力で怪獣は、代を重ねることなく自己内で進化を繰り返すことができるんだ、ゆえにどんな過酷な環境や外敵にでも適応できるようになった。

 だから、そんな病ごとき心配するには値しない……。

 んっ? まて……なぜそんな事が分かるんだ。

 強烈な頭痛に襲われてから、意識や記憶が何だかおかしい。

 自分が自分でなくなってきてるような気もする。

 にも関わらず、なぜか嫌悪感や不安がない。

 やはり徐々に俺は精神から怪獣になりつつあるのだろうか?


「……」


 それに一瞬意識が飛んでから、なぜか分からないがニオン副長が一言も喋らないのだ。

 俺の頭の上で何か深く考え込んでいる様子。俺が気づいた時には、もう副長は思いにふけっていた。

 そんな副長を邪魔したくないため、俺も黙っているのだが。

 あれから数時間は経過し、太陽も顔を見せ始めていた。

 互いに何も喋らず、俺は超獣を引きずりながら帰路を歩く。

 ……なんだか居心地が悪い。

 ここは、俺が何か話題を出した方が良いだろうか?


「副長、やはりこの超獣と都市に現れた魔獣ヤツは俺達が目的だったのでしょうか?」

「……んっ? ああ、すまない。聞いていなかった」


 遅れて副長は返答した。

 こんな真面目な人が話を聞いていないなど、らしくないありさまだ。


「こいつらは、俺達を目的にして襲って来たんでしょうか?」

「何とも言えないが、その可能性は高いかもしれない。石カブトの戦力が分散するように陽動を行い、それから個々に攻撃してきたのだから。ただその理由は分からない、私達が何かの障害だったのか、あるいはより強い存在と闘うことでより自己を強化しようとしたのか」


 まったくわけが分からねぇ宇宙生物れんちゅうどもだぜ。

 まあ、いずれにせよ今はディノギレイドを早く持ち帰って処理することだ。

 色々と小難しい事を考えるのは、大きな仕事を終わらせてからだ。

 俺達に迷ってる暇はない。





 ゲン・ドラゴンに帰還するなり石カブト本部には向かわず、まず西門を目指した。

 西門の近くにある岩山、そこはクサマの格納庫であり、そして地下には何でも副長専用の研究室があるのだ。

 その近くに活動を停止したディノギレイドとニオン副長を置いて、それから本部がある南門へと出向くことにした。

 オボロ隊長に帰還したことを報告するために。

 ……そして、現在にいたるのだが。


「よう、大丈夫だったか? こっちも色々と大変だったぜ」


 隊長は門の近くで、大皿に盛られた大量の蒸かした芋や焼いた鶏肉、パンをムシャムシャと頬張っていた。

 おそらく魔獣との戦闘で負った傷を治すためにも、大量の養分やタンパク質が必要ゆえにだろう。

 隊長の肉体には治りかけの傷がいくつもあり、さらに帰りの道中に大地に刻まれた激戦の痕跡を見かけた。こちらも相当な闘いだったことが理解できる。

 

「ええ、やや苦戦はしましたが生け捕りにすることができました……ところで隊長」


 帰ってきて早々だが、とんでもない光景が映っているんだ。

 それは隊長の今の姿だ。


「んっ? ああ、これか。注文していた品物しなもんを『大人タ~レン』の親父さんが持ってきてくれてなぁ、そん時に試しに使ってみてくれと、貰ったんだ」


 淫具専門店『大人タ~レン』。それはオボロ隊長の行きつけの店のことだ。

 ……早い話、アダルトショップである。

 超人たるオボロ隊長は、色々とあって女性を抱くことができない。つうか、たぶん女性が死んでしまう。

 ゆえにその超精力を発散するためにも筋力鍛練、そして淫具専門店に頻繁に出入りしている。

 して隊長のその姿は……全裸ではない。全裸ではないのだが。

 

「……隊長、そんなもん着てどう言う気分ですか?」


 今にも視覚が死にそうだ。また頭痛に襲われそう。これはひどい。

 スリングショット(真っ赤なマンキニ)を着込んだ変態クマ。それしか言いようがないのだ。

 いや、もはや赤き何かを纏った悪魔だ。


「それと、はみ出しているんですがねぇ」


 全裸じゃないから、アレが隠れているなんてことはなかった。

 隊長の男根ブツは超人レベルのため、モロにはみ出ているのだ。

 ……全裸以上に変態性が増長された見た目である。


「なんでも股間の所に磁石が仕込んであってな。こいつが血行を良くして、勃起力かたさを三倍にしてくれるらしいぞ」


 そう言ってオボロ隊長は、自慢するように股間を前につきだした。

 ガチでやめてくれ。

 だいたいこれ以上、勃起を強化していったいどうしようと言うのか?

 それに血中の鉄分は、磁気には反応しない性質だと聞いたことがあるが。


「鍛えあげられた肉体をさらけ出す、何をためらおうか。これは、どんな奴にでも常にオープンでいたいと言うオレの精神の現れだ……チ○ポして何が悪い」


 この変態野郎、変なポージングを行いながら最後になんかとんでもないことを呟いたぞ。

 この人、おつむ正常だいじょうぶだろうか。

 今すぐにでも殺獣光線で頭をぶち抜いてやりたいところだ。


「ところでだ、これを見てくれ。コイツをどう思う?」


 するといきなり隊長は傍らに置いてあった、白と黒のストライプの模様の大きな筒状の物を手にした。


「すごく、大きいですね。それが注文していた品ですか」


 その筒状の物体、俺はその正体をおおかた理解できていた。


「そのとおりだ。四代目こと、カズネちゃんだ! 不動樫をくり貫いて作った特注よぉ。もう、そう簡単には壊れんぞぉ。これで孤独なセンズリからは解放だ」


 そう言って隊長は嬉々として筒状の物体に頬ずりをする。

 ところで、隊長が持ってる筒状の物体。これが何なのかと言うと、特大の吾妻型オナホである。

 普通の物では隊長の超男根ブツがおさまらないため特注を依頼するしかないのだ。


「……しかし、なんで帰ってきて早々にアダルトグッズの紹介を見なければならんのだろうか?」


 ちなみに初代シノミちゃん二代目シゲミちゃん三代目カナエちゃんは、隊長の男根と射精量はっしゃによって破壊さつがいされている。

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