邪神は荒ぶる

 ……神。

 それは、全知全能、絶対的存在、人知を越えた者、天地と生命を創造した全ての支配者。

 その存在意義は個々の考え方によって様々であろう。

 そしてその容姿は、威厳のある老人、美しい天使、絶世の美少女、神々しい獣。

 これもまた、あらゆる姿形として捉えられているだろう。

 最初からそのような姿をしていたのだろうか?

 それとも神はあらゆる姿に変形できるのだろうか?

 あるいは神とは、個々の想像の反映によって形が変わってしまうのか?

 まさに多種多様な神が存在している、と言えるだろう。

 ……裏を返せば、つまりそれだけの数が揃っているとも言えなくないが。


「……まったく、余計なことをしてくれる」


 しかしそんな中で、少なくともこの愚痴をこぼす神は光の塊とも言える姿をしていた。

 その神は創造神であり邪神でもある。

 想像力一つであらゆる存在を生み出し、量子レベルから物質に干渉することで事象を操ることができる。

 言葉で説明するなら、エネルギー状の超知性体と言えるだろうか。


「あの小娘め……ここぞって時に、しゃしゃり出てきて闘いの邪魔なんかしやがって」


 グチグチと語るギエイは、暗黒の空間に映像のようなものを展開していた。

 それはオボロとゴドルザーの戦闘の場面。

 結果は、ミアナの乱入によって超人の足を引っ張ったことによる一対一サシの勝負の中断。

 そして最終的には星外魔獣はシキシマによって倒された。

 ……邪神にとって、それはあまり好ましくない結果であった。


「闘いはオボロ一人の実力によって成し遂げられてこそ意味がある。制御の効かない星外魔獣との殺し合いは、貴重な闘いだったと言うのに……」


 思い通りにいかなかったためか、苛立たしげにギエイは展開されていた映像を消した。

 星外魔獣はギエイでも制御できない存在のため、オボロと魔獣の戦闘と言う事象を自由に繰り広げさせることはできない。

 魔獣や超獣との闘いは自然に起きるまで待つしか手段がないのだ。

 ゆえに今回の戦闘は貴重であったのだ。


「ええい! 歯痒い。どいつも、こいつも言うことを聞きやがらねぇし!! 事も思うようにいかねぇ!!」


 忌々しそうにギエイは暗黒の空間で音声会話でない思念の言葉で怒鳴り散らす。

 とても全知全能の支配者とは思えぬ荒れっぷりである。

 邪神が求めているのは、オボロが戦闘経験を積んで進歩していくことなのだ。

 だからこそ、今回の闘いは邪神にとっては台無しとも見てとれる。


「……くそう世界の異常のさえなけりゃあ、もう少し円滑にいくんだろうが」


 だがしかし今や女神リズエルと協力して創造したこの世は、創造者でも手に負えない程に異常となりイカれている。

 もう神の手から離れ、どのような現象が起こるのかも分からないのだ。

 せっかく期待を寄せることができる超人が誕生したと言うのに手がつけられないと言うありさま。

 それが邪神を苛立たせているのだろう。

 そんな時、暗黒の空間に一つ言葉が響き渡った。 


「この世を、上手く制御しきれていないようだな」


 ……さて、これはどうしたことか。


「……だ、誰だ? ここには俺しかいないはず」


 いきなりのことに驚愕しギエイは慌ただしく思念の言葉を発する。

 この暗黒の空間にいるのは邪神のみ。

 ここは自分が作り上げた固有の隔離空間であり、神でもなければ入ってくることはできないはずだが……。なのに今の言葉は。


「次元のはざまを越えた対話は、何もお前達だけの専売特許ではあるまい」


 またもや言葉が響く。

 いや実際のところは、暗黒の空間に響いているのではなく直接ギエイに伝わっている。


「次元の間を越えた対話だと……そんなことは俺と同類クラスの創造神かみか、あるいは次元に干渉できる程の超科学か能力を持った存在しか……」

「私の場合は後者であろうな。成長の過程で身に付けた」


 邪神への返答は何とも無感情で冷たげであった。

 機能だけが存在し、感情的なものは廃絶されたような雰囲気である。


「……貴様は、いったい何者なんだ?」


 神であるギエイが恐る恐ると尋ねた。

 神である自分と、こうも容易く対話ができるのだ。並の存在でないのは確かだろう。


「お前が創造した宇宙とは、別の宇宙から来訪した者。お前も私を怪獣と言う名で認識しているようだな」


 怪獣!

 それを聞いたのは、ごく最近のことである。

 そう、あの得体がしれない巨大な竜のごとき存在。


「……ムラト」


 ギエイは息を詰まらせたかのように小さな言葉を発する。


「それは小僧の名であって、私のことではない」


 やはり返ってきたのは無機質な言動。


「……だいぶ感情が昂っているようだな。他の神や人類と接触するときは余裕を装っているようだが、への恐怖心と不安で追い詰められているな」


 そして思考を読まれているような物言い。


「……くっ! 勝手に思考を探るな!」


 思考を覗かれてギエイは不快感を覚える。

 だが、しかし……。


「いや……待て貴様はがなんなのか分かるのか?」


 怪獣の言葉の中に聞き捨てならないことがあったのだ。


「接触したことはないが知ってはいる。それに対抗するために、お前達が戦力となる存在を生み出そうとしていることもな」


 どうやら怪獣と呼ばれし存在は、神の企てさえも見とおしているようであった。


「……そうだ、俺と今はもう亡きリズエルは神の戦力となる存在を得るために世界を創造した」


 全てを見抜かれていることを察したギエイは苦々しく白状するが如く呟きだした。


「だが、どうもことが順調にいかない……どうにかして、戦力の素体となる可能性を秘めた超人を育まねばならんのだ」


 そう語り終えて少し間を置いてから、怪獣の言葉が返ってきた。


「手段はどうあれ、やりように間違いはないな、それでいい。神の戦力と言う役割、魔法、異能、神の力を用いる存在に務まるわけがないからな」


 対話している対象が神であるにも関わらず、怪獣の口調はやや上から目線である。

 最初からそうであったが、この生物は神に対して畏怖や尊祟は抱かないのだろうか?


「私は既に、神より高位の存在と数万年前に戦っている。ゆえに神を認知しても、そのような考えには至らない」


 やはり思考を見抜かれた。もちろんかなり無機質で淡々とした口調が返ってきた。

 だがそれよりも……。


「おい今何て言った!」


 感情と動揺を抑制できずギエイは問いかけた。


「神より高位だと……なんなんだそれは。教えろ!」

「鎮まれ」


 そして、そんな昂る邪神を怪獣はたった一言で制止させた。


「感情的になりすぎるな。だからこそ思考に同調され、容易く心の内を読み取られる」

「……貴様は、いったい」


 神への説教だろうか?

 だがしかしギエイは何も言い返せなかった。

 怪獣の方が正論ゆえに。


「お前に情報を提供する。それを確認してから、この先どうするか決定するとよい」

「……貴様は、何の敵であり、何の味方なんだ?」

「私は、ただ自分の意思で行動しているだけ。……人類も世界も神の所有物。だがしかし更に領域を広めれば、神もまたより高度な存在の所有物でしかない」

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