超生命体との対話
これは、果たして本当に現実か?
意識はある。思考もハッキリとしている。
だがしかし、肉体は動かない。瞬きすらできない。
音も聞こえず、視界に写るのは空間全てが硬直している様子。
時間が停止した、としか言いようがないのだ。
(……いったい何が?)
この異常を現象をどう受け入れたらいいのか、ニオンは考えを巡らせた。
時をも支配する超テクノロジーだとでも言うのか?
……いや、もはや物理法則を超越した何かだろうか?
神のごとき超常の力によって、なせる現象か?
(否! 私と言えども物理法則を超越するなど不可能)
と、美剣士の思っていることを見抜いていたように言葉が響き渡る。しかしそれは音声会話ではなく、思念の言葉だ。
だが、これを発してるのは戦友であるムラトではない。
これは、彼の
(お前の脳の処理速度を増幅させているだけだ。それによって体感時間が引き延ばされたがゆえに時が
感情的でない無機質な言葉が頭の中に木霊する。
他者との対話に馴れていないのか、あるいは人などよりも遥かに高位の存在のために単純な感情など表さない性質なのか。
……それは分からない。
しかし言葉の内容は理解できる。
(……なるほど、思考だけが加速された状態にあるわけですね)
ニオンは微動だにせず……いや、微動だにできず思念の言葉を発した。
理屈は分かるが、だがやってることはとんでもないだろう。常人の脳の処理速度をここまで増幅させるなど。
生物でありながら電子頭脳のような超高速の計算を行っているようなもので、普通に考えて生身の脳がそんなことに耐えられるわけがない。
おそらく人類が至らない方法を用いているのだろう。でなければ説明がつかない。
(全て、あなたの仕業ですかな)
(理解が早いな。現状を考慮して、やはり私とまともに対話できるのはお前と、あとは極僅かだけだろう)
怪獣の冷静さを帯びた返答が不気味に響き渡る。
今のニオンに、できることはただ一つだけだ。身動きもできず、その怪獣と対話するだけなのだ。
まるで命運を握られているようであろう。
あまりの得体の知れなさに、無敵の白き剣士は息を飲んだ。
(その状態で自由に動きたくば高性能な加速装置を開発するか、なんらかの方法で運動速度を高速化しなければならんぞ)
その怪獣の言葉は何を意味しているのか。
自己の能力の強大さを誇示するためか、あるいはこの遅滞地獄と化した世界にニオンを閉じ込めて置くことも可能だと思わせることで彼を弄んでいるのか……。
(とても敵いませんね。あなたの想像を絶する力なら、それらも可能なのでしょう。どうか、こんな下等な私に少しばかりでいいので力を恵んではくれませんか?)
ニオンは丁寧に言葉を返す。怪獣を崇めるような、やや幼稚な言い分であった。
しかし、これはあくまでも怪獣がどのような気質なのかを知るための牽制である。
未知の巨大生物たる怪獣の正体を少しでも知ろうとするための。
(……私を試しているようだな。私がそのような、おだてに乗るとでも? 甘く見られたものだ)
やはりニオンの考えは完全に読まれていた。
(仮に答えてやるが、お前の頼みをなぜ聞かなければならない。無論のこと不可能ではないが、生身の人間がそのような高加速に耐えられるわけがなかろう。肉体が四散するだけだ)
そして、やはり棒読みで無感情的な言葉が返ってきた。
(……これは失礼をいたしました。あなたを試すようなことをして)
怪獣を試した非礼を詫びるニオン。
やはり、その言動から怪獣はかなり高い知能を有しているのが理解できる。
劣る者に試されたにも関わらず、激昂しないのは超生命体ゆえの寛大さからか。
はたまた、そんな些細なことで激怒するような単純な感性は持ち合わせていないのか。
しかしながら、その本質までは見抜けない。
(ムラト殿から、あなたの事を多少ではありますが聞きました。彼のいた世界を壊滅させたと……なぜ、そのようなことを?)
そう怪獣は凶暴で圧倒的な破壊力を持つ存在。その荒々しい力によって蹂躙された
だがしかし、いざ対話してみるとまるで獣のような野蛮さも凶暴さも皆無である。
むしろ賢人のごとき知性と冷静さを兼ねているようだ。
……まるで話とは違う。
(それは今のお前に教える必要はないことだ。お前との対話を謀ったのも、唯一その価値があると判断したからだ。必要以上の事を語る気はない)
ニオン問いに怪獣は呟くように淡々と返答する。
(このように体感時間を引き延ばしたのも、お前との対話を極短時間で終わらせるためだ。小僧の精神活動を一時的に停止させてはいるが、この男の意思は強靭なものだ、そう長くは抑え込めぬ。ゆえに取り込んだのだが……)
(なぜ彼と融合したのです?)
(私が今望んでいるのは肉体的な進化ではなく、精神進化にある。そのためにも、この小僧の並外れた精神力と人格を欲したのだ)
(……まさか、精神レベルから彼と一体になろうと……)
ニオンは言葉を詰まらせた。
もはや人の考えでは、到底理解し難い領域の話であったのだ。
つまり怪獣はムラトととの完全な一体化を謀っているのだ。
(そのようなことを……)
一方的に他者の精神を取り込もうとするなど許されるだろうか?
しかし、ニオンにそれを咎める資格はない。
これは怪獣とムラトとの問題であり、それに怪獣の価値観ではそのような行為は悪しきことではないのかもしれない。
(しかし、そのためには長い時を要する。ゆえに小僧に私の肉体を明け渡し、私自身は精神の融合に専念しているのだ。二割程度までにしか力を発揮できないように制限はかけているがな)
(二割!)
またも驚愕の言葉であった。
つまり今までムラトの発揮していた強さ僅かなものであり、本気は出していないと言うこと。
……ならばたったそれしきの力で超獣を打ち倒したことを意味している。
(余計な話はこれまでだ。お前が知りたいのは、私が敵か味方か、と言うことであろう)
(……よく分かりましたね)
またもや考えを見抜かれていたかのように怪獣は語りかけてきた。
これには、ニオンも苦い返答しかできない。まるで全てを知り尽くされているようであった。
(お前達は思考の隠蔽がなってないからな。そこまで進歩した生物でないがゆえに、仕方ないのだろうが。……私は、お前達の敵でもなければ味方でもない。ましてや屈しているわけでもない、ただ力をかしているにしかすぎん)
やはり怪獣の真意はまるで掴めない。
どういう理由で、この世界の者達に助力しているのだろうか?
そもそも、なぜに怪獣はこの世界に来たのか?
そうニオンが考えを巡らせると、どうやらそれすら見透された。
(私がこの世界に来た理由は、いずれ分かるだろう。必要以上のことは語らぬ。……再び言葉を交えるときは、私と小僧が完全に一体となったときか、あるいはお前が超生命体とも呼べる領域に到達したときだ)
超生命体?
それを聞いて、ニオンは慌ただしく問いかけた。
(それは、いったいどう言うことですか!? 私が超生命体とは?)
(この世界は、強さを極めた生命体を誕生させるべく神々が創造したもの。……その領域に、今もっとも近いのはオボロと呼ばれし男。しかし、お前にもその領域に至る素質がある。それを開花できるかは、お前しだいだ。……さらばだ)
そして遅滞していた時は、通常へと戻るのであった。
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