チブラスの好奇心
……司令官。
チャベックのその言葉を聞いて、オボロは両腕を組んで異星人達に目を向けた。
「そいつが、お前達の頭目か」
視線の先にいるのは、多種多様な姿の知的生命体達。
身の丈二メートルを軽々と越える者もいれば、一メートルにも及ばない異星人もいる。
生身の者もいれば、体の一部を人工物に置き換えている者もいる。
そして異星種同士である以上、思想も思考にもかなりの隔たりがあるに違いないはずだ。
科学至上の考えもあれば、神秘主義の者だっているだろう。
そんな異星人達が銀河中から集まり、統括され指揮されているのだ。
……ならば、そんな彼等を束ねる司令官とはいったい何者なのか?
数多の異星人を統合させているのだ、相当な実力と統率力を秘めているに違いないだろう。
「その、お前らの総大将は何もんなんだ?」
そう言ってオボロは、頭足類型の異星人を見下ろした。
「この世で最も偉大なる頭脳を持つお方です。剣術の祖でありながら、建造魔人と言う唯一大型魔獣と対等に渡り合える機動兵器を初めて設計開発した人であり、超常存在とされる言うなれば神との対話を実現させるテクノロジーを生み出すなど、文武の達人です。多くの異星種達から見ても、あの方は途方もありません」
神との接触を可能とする技術と聞いても、今さらオボロは驚きはしなかった。
むしろ、その言葉を聞いてオボロは確信を得た。
「……そうか、あいつか」
建造魔人の開発だの、神との対話だの、そんな事を語れるのはニオンと深い関わりを持つ人物しかいない。
そして唯一心当たりがあるのは、魔獣や超獣との戦いの時などに助言をしてくれるニオンの師範だけであった。
「ただその、司令官の素性は詳しくは分かりません」
チャベックは触手で自分の大きな頭をコリコリと掻いて言葉を紡ぐ。
「司令官は常にガスマスクを被っているため素顔も分かりませんし、名前に関しても本名かどうか知りませんが当軍内ではハクラと呼ばれております。……失礼がないように、我々も深くは詮索しておりませんので」
「……ハクラ? それがあいつの呼び名か」
本名かどうか分からないとは言え、あの男の通り名がチャベックから呆気もなく語られた。
それを聞いてオボロは落ち着いた表情を見せる
正体こそ分からないが、ニオンの師範であり石カブトの協力者であることには変わりない。
ゆえに前々から呼び名を知りたかったのだ。
(俺の幼名だ、今では軍内での名称にしているがな。そう言えば、お前達に俺の呼び方を伝えてなかったな。不便をかけただろ、すまなかった)
と、いきなり頭の中に言葉が響き渡る。
「……な、なに念話の魔術!?」
「あっ! 司令官」
どうやらオボロだけでなく、ミアナやチャベックにも聞こえているようであった。
ミアナが驚愕するのは仕方ない事だろう、いきなり頭の中に声に頼らない言葉が響いたのだから。
「ああ、まったくだ。互いに協力関係になるんなら、通り名ぐらい知りたかったぜ。話し合う時に不便になるからな」
もう馴れたようにオボロは返答する。
当初はミアナ同様驚愕モノであったが、今ではもう何とも感じないものである。
(……ほう、やはり治りが早くなってるな。チャベック、オボロの肉体をスキャンしてこっちに情報を送ってくれ)
「かしこまりました」
ハクラから指示を受けたチャベックはどこからか生体スキャン装置を取りだし機動させる。
装置から扇状の光が放射され、その青白い輝きはオボロの四メートル半を越える巨体を頭上から足下にまでかけて舐めるように降っていく。
そして、その解析情報がハクラの元に送信された。
(
「……そう言えばたしかに」
オボロの容態を聞いて、チャベックは触手を伸ばして超人の肉体にペタペタと触れ始めた。
「おいおい、くすぐってぇなぁ」
しかし好奇心の方が勝ったのだろう、オボロの言葉を無視してチャベックは負傷していた部位を撫で回す。
やはり超人である。あれほどの重症が、もうすでに完治しつつあったのだ。
保護材に覆われているが、背面の深傷もふさがりかけているだろう。
「うおぉぉぉほっほっ! これは素晴らしいですぞ」
いきなり甲高い声をあげると、チャベックは嬉々した様子で端末を取り出した。
そして、その端末に先程スキャンしたオボロの肉体に関する情報をダウンロードすると、立体映像が浮かび上がる。
ホログラムで映し出されたのは、オボロの骨格図と体組織のデータである。
「おい、なにしてんだ?」
チャベックの変貌ぶりに戸惑いながらオボロは問いかけた。
(チブラスは知識欲がとても強い種族でな、特に医学や生物学には目がないんだ)
夢中に端末をピコピコと操作する異星人に変わり、ハクラが返答してくれた。
(まあ、目の前に生物の究極形とも言える超人の肉体があるんだ。こいつに我慢を迫るのは無理な話だろうな)
「……超人か」
オボロは、やや重々しく口を開く。
……超人。
それは天才とか優秀なんかではないのだ。
もはや生物として、根本的に何もかもが逸脱している事を意味しているのだ。
……それが原因で幼い頃に孤独にいたった。
(悪く言うつもりはないが、お前は普通の生物ではない。どんな優秀人材だって、生身で攻撃を受ければ傷つくし血も流す、最悪死に至ることだってある。しかしお前は、どんな魔術を食らってもまともなダメージを負わず、星外魔獣の攻撃でも死なない、それを
「……」
御世辞がないハクラの話を聞いて、オボロは押し黙る。
言わずもがな、そんなことは一番自分がわかっている。
……周囲に置いてきぼりにされてるわけではない。
自分だけが度を越して先を行きすぎているのだ。そんな感じだ。
一人だけと言う寂しさ、自分だけと言う優越感。
そんな幼稚な感情に至った時もあっただろうが、今では自分が超人であることに何とも言えない思いだ。
……しかし。
「だからこそ、化け物とやりあえる」
オボロは力強く呟いた。
(その通りだ。今後の事を考えると、お前達の戦力は重用なものだ。お前は通常の生物ではないが、化け物なんかではない。人なんだ)
「……人か。そう言ってくれると、うれしいものだな」
力を持った人と化け物の違いは何なのか?
「うひょおぉぉぉ!」
と、いきなり端末を操作しているチャベックが奇声を響かせた。
どうやらかなり興奮しているようだ。
それだけオボロの肉体の分析結果に、素晴らしい発見があったのだろう。
「素晴らしいですぞ、骨格は鉄筋コンクリートを遥かに上回る程の頑丈さを! 筋繊維の強度は
知識欲に支配された異星人の狂喜の甲高い声が、しばらく続くのであった。
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