異星人の過去と正体
いかに高度な文明を持とうとも、実力行使による防衛手段ができなければ敵に食い物にされ、滅びるしかないのだ。
……その現実は歴史が語っている。
倫理を知らぬ存在、それを理解しない者、破る輩、そういった連中には人の言葉など通用しないということだろう。
ましてや愛情や慈悲などとは無縁で、殺戮と破壊と闘争と力の渇望の本能しか有していない化け物には武器を持って闘うしかないのだ。
……それができなかったがために滅亡した存在は、この宇宙にどれだけいるだろうか?
彼等も、その中の一つであった。
それは、この大宇宙のどこかに存在していた。
緑が生い茂る美しい惑星。
そこには高い知性を持ったとある種族が生存しており高度な文明があった。
それを証明するかのように森林の中には、いくつもの建造物が建ち並んでいる。
しかし釣り合わない光景ではない。
まさにテクノロジーの利便性と惑星の自然の美しさを見事に調和させているようであった。
恒星のエネルギーを光学反射鏡によって効率良く収束して無制限のエネルギーを得る発電システム。
有害物質を処理する装置。
水や大気から合成食料を製造する技術。
自然災害に怯まない建造物の数々。
飛躍的に進歩した医学による病の克服と長命。
自然を配慮した高度な科学文明は、優れた形で環境保全と発展を両立させていた。
そしてその文明を築き上げた者達は平和主義の下、争いとは無縁の安定した理想郷を実現したのであった。
……しかし、その恒久的な平和と安息はいきなり終わりを告げる。
巨大な火山のごとき怪物が突然出現したのであった。
そして、惑星に住む者達は怪物を前にして為す術がなかった。防衛はおろか、闘うと言うことを知らなかったのだ。
だからこそ、まともな抵抗一つもできず蹂躙されるしかなかった。
怪物の破壊力は圧倒的だった。
その巨体は動くだけで文明の産物を破壊しつくし、溶岩のごとき灼熱は自然を焼いて大地を不毛と化させていった。
だが本当に恐るべきは直接的な破壊ではなく、怪物が噴出する黒煙であった。
見るも毒々しい煙は惑星を覆いつくし、恒星の光を遮蔽させ、環境を氷河に変えてしまったのだ。
……それによって理想郷は崩壊し、一つの文明が滅びることとなる。
「……うぅ……もう二百年も前の話になります。わたくし達の母星が滅んだのは」
自分達の文明崩壊の経緯を語る頭足類のような生き物……チャベックは触手をウネウネさせながら、右目から涙を一滴落とす。
「戦いのなんたるかも知らず、兵器開発のノウハウもなく、わたくし達は何も抵抗できずに逃げ惑うことしかできませんでした」
表情にあまり変化はないが、悲しげな甲高い声と涙が彼の無念さと悲痛さを物語っているのが分かる。
「そ……そうか」
それに対してオボロは戸惑うような返事しかできなかった。
やはりまだ今の状況を上手く理解しきれず、頭がうまく回らないのだろう。
まったく知らない訳ではないのだが、未知の領域たる宇宙だの、天上の星々に異なる文明が存在するだの、そう言った星外の物事にはあまり精通していない。
そんな状態で直に異星人と接触したのだから混乱するのも当然としか言いようがないだろう。
「……いったい……さっきから何を言っているの?」
ミアナに至っては、もはや理解不能と言ったありさまである。
国々や大陸しか知らない今の彼女に、異星文明、宇宙空間、などを把握するなど無理なことである。
「多くの同胞が死にはて、絶望の淵に立たされましたが、どうにか生き残った者達で無慣性式超光速航行機関を搭載した移民船を建造して脱出することができました……新たに移住できる場所を求めての旅立ちです。……母星を捨てる、そうするしか我々に生き延びる道はありませんでした」
故郷のことを思い返すかのように、チャベックは無数の星が輝く夜の大空を見上げる。
故郷を見捨てたことに罪悪感を抱いているのだろう。
「……出航できたのは、わたくしを含めて三十人余り。ほとんどの者達がグランドドスが行った破壊と環境の変貌により、命をおとしていきました」
するとチャベックは触手を伸ばして、それをオボロの右手に絡めてきた。
「お……おい、いきなりなんだ?」
突然のことにオボロは声をあげる。
「だからこそ、種を代表して礼を伝えたいのです。グランドドスを倒した、あなたに」
どうやらチブラスと言う種族にとって、触手を絡める行為は友好の強調を示しているようであった。
それを悟ったのか、オボロは頭を掻いて息を吐く。
「なるほど、つまりメルガロスで討伐した超獣は、お前達の故郷を潰した奴だったってわけか」
「そのとおりでございます、あなた様のおかげでございます」
そう言って、チャベックは絡めていた触手をほどいた。
オボロにとってグランドドスの討伐は、メルガロス防衛のためのものだった。
しかしチャベック達にとってそれは、母星を滅ぼした恐るべき存在を打ち倒してくれたことを意味していたのだ。
「別にそう言うつもりでやったわけじゃねぇんだがな……」
両目を輝かせて英雄視してくるチャベックに、オボロはやや戸惑った様子を見せる。
……そもそも、目まぐるしく移り変わる状況、未知との接触、それについていくだけでも精一杯なのだ。
ありがたく思われるのも、英雄視されるのも、けして悪い気分ではないが、得体の知れない者達にいきなりそう言い寄られても困惑してしまう。
一旦落ち着きたいものであった。
「ですが、まだ終わりではありません。わたくし達の故郷を滅ぼした超獣は倒されましたが、まだこのアズマ銀河系には天文学的な数の魔獣や超獣が存在しているのです」
チャベックは振り返って、ゴドルザーの回収に当たる作業員や周囲を見回る警備員達に視線をむけた。
その全員が多種多様な姿をしている。
丁度、サーチライトで照らされている魔獣の胴体にワイヤーがくくりつけられる作業が行われていた。
どうやら二隻の揚陸艇で空輸するようである。
「彼等もまた、わたくしと同じく故郷を失った方々なのです」
「……ところでだ」
しかし、ここでついに痺れ切らしたのだろう。
オボロは立ち上がると、チャベックと同じように回収作業の様子を見つめて口を開いた。
「結局のところ、お前達は何なんだ? ひとまずお前達がこの星の種族じゃねぇ、と言うことは理解できた。んで魔獣や超獣どもに故郷を滅ぼされたことも。そんな奴等が徒党を組んで何をしようとしてるんだ?」
するとチャベックは、またオボロに向きなおって触手をくねらせた。
「そう言えば、まだお伝えしていませんでしたね。わたくし達は、この大宇宙で跋扈する魔獣や超獣達に対抗するために発足された組織『アズマ銀河連合軍』の構成員なのです。数多の異星種が集い、戦力の派遣、兵器や装備の開発、物資の調達を行っております」
そして、また作業場の方へと目を移した。
「わたくし達が新天地を求めて放浪していたとき、偶然にもこの恒星系にたどり着きました。そして組織の創設者にして司令官である、あのお方が手を差し伸べてくれたのです」
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