戦闘後の処理
……向こうも、戦いが終わったようだな。
身体中の負傷を再生し終えた俺は触覚から伝わってくる情報で、都市部近郊に出現した魔獣も倒されたことを理解した。
どうやら隊長達も勝利したようだ。
だが、しかし隊長だけでなく無数の未知の存在も感知できる。しかも機械的なエネルギーだ。
何か高度テクノロジーを持った集団が集結しているような……。
「ゲン・ドラゴンに、先生が指揮している連合軍の部隊が来ているようだ」
考え込む俺を察してくれたのか、そう言って端末を片手にしたニオン副長が足元にやって来た。
先生と言うことは、副長に剣術を指南したあの男のことだろう。
……しかし連合軍とはいったい、どう言うことだろうか?
「倒された魔獣を回収するためだろう。さあ、私達も事にあたろう」
いずれにせよ細かい疑問などは後回しだ。
副長の言うとおり、今は目の前の仕事をこなさなくては。
こちらも同様に超獣の回収を行わねばならない。
「それにしても……ひどい臭いだぜ」
周囲は鉄錆と生臭さを合わせたような臭気で満たされていた。
とは言え、原因は俺の血液とディノギレイドの体液がそこら中に染み付いているせいなのだが。
右手に持っている超獣の生首からは、今なお滝のごとく体液が流れ落ちて真下に溜まりを作っていた。
超獣の首をネジ切ったのは俺だが、なんとも不快な光景だ。
……いや、今はそんな嫌悪感を抱いている時じゃないな。
俺は触覚を研ぎ澄ませ、頭部がないディノギレイドの倒れ伏している体に意識を向ける。
まずは奴が完全に死体に変わったのか確認しなくては。
「……くっ! この野郎ぉ……」
触覚から得られた情報で、思わず舌打ちをしたくなった。
魔獣や超獣が、とんでもない化け物だってぇのは分かるが、しかしこれは異常すぎる。
「……確かに、これはまともではない」
グヂュグチュと、大怪獣と超獣の血でぬかるむ地面を踏みしめながらニオン副長がディノギレイドの肉体に近づいていく。
副長は手にしている端末を操作して、動かなくなった超獣の分析結果を表示しているようだ。
「はい。……活動は停止しましたが、今だに生体電流などは健在。間違いなく、生きていますね」
まったく、不気味なものだぜ。
頭部と胴体を切り離されても絶命しないなど。
恐らく凄まじい損傷を受けたせいで、目に見える活動が一時的に停止しただけなのだろう。
……成長と強化を繰り返したがために、こんな異常な生命力を身に付けやがったのか?
「ムラト殿、超獣の移送を頼む。これほどの大きさを短時間で運ぶことができるのは君だけだ。いつ活動を再開するか分かったものではないからね、すみやかに処理しよう」
「分かりました」
その指示に頷き副長を頭の上に乗せた後、ディノギレイドの尻尾を掴んで帰路に着いた。
超獣がまだ生きているとなると、こいつの処分は急がなくてはならない。
しばらくすれば、また活動再開に至るだろうからな。
超獣だけに限らず星外魔獣は討伐した後、回収と分析をして完全に処分される。
衛生上の問題もあるが、超技術の塊でもあるからだ。そんなもんを放置しといたら何が起きるか分かったものじゃない。
「今度こそ、完全に息の根を止めてやる」
右手に超獣の生首、左手には引きずられる超獣の胴体。
そんな、おどろおどろしい物を持って帰りの足を急がせる。
こいつも今まで葬ってきた魔獣どもと同じように、バラバラに寸断してプラズマ焼却で原子未満まで分解される。
……頭をちぎり取られても死なねぇ奴なのだから、そこまでしねぇとくたばらねぇだろう。
× × ×
都市ゲン・ドラゴンから南方に数キロ程、そこで空中停止する二隻の揚陸艇の下で作業を行う者達がいる。
その集団の全員が、人間でも毛玉人でもエルフでもドワーフでもない姿をしていた。
人のような容姿はしているが、皮膚の色が青黒かったり、真っ白だったり。
頭の形が両生類のような者もいれば、魚のような者もいる。
まさに異形の者達で構成された集団としか言いようがないだろう。
それもそのはず、みなが異星人なのだから。
そんな彼等は、もくもくとゴドルザーの回収作業を行っていた。
特殊スーツを着込んだ警備員とおぼしき隊員達は箱型の突撃銃を持って周囲を警戒し、作業員達はセンサー類を手にしてゴドルザーを分析している。
そして、そんな現場から数百メートル程離れた位置で横になる巨大な熊とレッサーパンダの少女の姿があった。
「本当に消毒だけで、よろしいのですか? わたくしどもの医療設備を用いれば、あなた様の負傷など瞬時に完治させることができるのですよ」
「大丈夫だ、この位のケガなんざぁ大袈裟なことをしなくてもすぐに治る」
甲高い声にオボロは返答する。
そんな超人は地面に拡げられたシートの上で、うつ伏せになっていた。手当てを受けるために。
この辺までには魔獣の体液が滲んでいないらしく、ぬかるんではいない。
ゴドルザーとの戦闘で負ったオボロの損傷はひどいものであった。
打撲、裂傷、骨折とう重症だらけ。さらには光線の直撃で背面の表皮はほとんど残っていない。
だが、しかしそれでも致命傷には至っていないのだ。
「……分かりました。それでは」
そう言って甲高い声の持ち主は、自分の横においてあるボックスから応急処置器具を取りだし始める。
しかし、それら器具を掴むのは指のある手ではなく触手であった。
それ以前に、オボロを手当てしようとしている者の姿は人とはかけ離れている。
そんな彼の見た目は芥子色の頭足類としか言いようがないだろう。
体長一メートル程で、十本以上の伸縮する触手が備わっている。
その触手を使いオボロの身体中に低刺激消毒液を噴射してゆく。
消毒液の噴射器は、まるで
「……」
そんな手当ての様子をミアナは興味深く眺めていた。
そして傷の消毒が終わると、今度はチューブのような物を取り出して内容物を傷に塗布し始める。
それは黄色いペーストのような物であった。
「これは重合体皮膜でございます。しばらくすると乾いて患部を保護してくれます。数分程そのまま横になっていてください」
手当てを終えたらしく、頭足類の彼は器具をボックスに丁寧にしまった。
「おう。助かったぜぇ」
「それにしても、とてつもない
オボロが礼を言うと、頭足類のような異星人は超人の肉体を調べるように両目をキョロキョロと動かす。
「どれ程の生命力と耐久力を秘めているのか被験対象にしてみたいものです。衛星軌道から落下させてみたり、生身で宇宙空間にほうり出してみるなど、わたくしの計算によれば十分に適応し耐えられると思います」
「おいおい、オレをなんだと思ってやがるんだ?」
異星人の好奇心に満ちた言葉を聞いて、オボロは不機嫌そうな声をあげた。
「あ、申し訳ございません。我が種族は、どうも探究心が強い性質がありますゆえ。申し遅れました、わたくしの種族名はチブラス。個人名はチャベックと申します。……あなた様に会いとうございました。我々の母星はグランドドスによって崩壊したのです」
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