驚愕! 戦人パワー

 戦人の鉄拳の威力たるや強烈なものであった。

 

「……ギュアァァ」


 それを証拠づけるように、オボロの攻撃を耐え続けてきた強靭な暴獣が苦痛の鳴き声をあげているのだから。

 これがシキシマの攻撃力、いな建造魔人の一撃なのである。


「オォォォン……」


 内臓にも相当な衝撃が入ったのだろうか、ゴドルザーは腹部を押さえながら悶えることしかできなかった。


「グオォォォン」


 苦しむ暴獣に顔を向けると、戦人は目を発光させて戦闘体勢に入いる。

 機械的で重々しい音を発して、両腕を体の前で構えた。

 角を含まぬ機体の高さはおおよそ四十五メートル。ゴドルザーと、あまり差はない。

 機械仕掛けの魔人と宇宙の魔獣。巨体同士が対峙する。


「……ギュアァァ!」


 己の大きさに比肩する敵が現れたためか、暴獣は苦痛の最中で威嚇するような咆哮を響かせる。

 そして、それに合わせたかのようにシキシマの高度人工頭脳に指示が送られた。


(シキシマ! 奴は生体活動の補助として大量の放射性物質を体内に蓄えている。爆散させようものなら大惨事だ。いいか、原子熱線砲指向性エネルギー兵装ならびに噴進式水陸両用魚雷爆発物は使用するな。格闘でしとめろ)


 それは開発者にして操縦者の命令。

 指示を受信したシキシマは再び目を発光させた。まるで「了解」と言っているようである。

 ……いや、実際言っているのだろう。彼は機械仕掛けの魔人だが、自我を持っているのだから。


「ギュアァァオォォォン!」


 眼前の戦人が戦闘体勢に入ったことを理解したのか、ゴドルザーは先に攻撃を仕掛けた。

 後ろ足で立ち上がると、その五十メートルにも及ぶ巨体を半回転させて長大な尻尾で魔人を殴り飛ばそうとした。

 強靭な表皮と骨格筋で構成された巨大な鞭とも呼べそうな武器は、音速に到達して強烈な一撃を生む。

 そして、その必殺の一撃が魔人に叩きつけ……られることなく両手で掴み取られた。


「グオォォォン!!」


 轟くのは雄叫びのごとき無機質な音。

 それを発端とするように、海洋戦人のパワーが発揮された。

 シキシマが暴獣の長大な尻尾を掴み直すと、八千トンにも及ぶ魔獣の巨体を軽々と浮き上がらせた。

 次の瞬間、まるで竜巻としか言いようが情景となった。


「グオォン!」


 戦人は再び咆哮のような音を響かせる。

 シキシマはその超パワーによって、ゴドルザーを高速で振り回し始めたのだ。

 幾度も魔獣の巨体が回転するため、辺り一帯は凄まじい風圧と砂煙に包み込まれる。


(特殊な駆動技術だ。機体内に備わる複数の動力源が必要に応じて協調することで、これほどの大出力と高速可動が実現できる。……シキシマ、あまりそこで暴れるな)


 操縦者が出した指示の意味を理解したらしく、シキシマは再び目を発光させる。


「うあぁぁ……うっ!」


 そう声をあげていたのは、戦人と魔獣が争うすぐ側でうずくまっている少女であった。

 彼女は発生している強烈な突風と巻き上がる砂塵の影響をモロにうけているのだろう。

 ここで戦闘を行えばミアナや都市の人々に余波が及ぶ。

 それを理解したシキシマは魔獣を現在位置から遠ざけるべく、タイミングを見計らい尻尾を離した。

 振り回されて十分に加速を得た状態で投じられたゴドルザーは南方へと吹っ飛んでいく。

 そして都市からおおよそ五キロ程離れた草原に落下した。

 体長五十メートルもの怪物が大地に落ちたのだ、いくら距離があるとは言えその震動で都市ゲン・ドラゴンは大きく揺さぶられる。


「グオォォォン!」


 間をあけず、また大地が揺れ動く。

 重量五千トンの戦人が駆け出したのだ。

 その巨体と質量に見合わぬ速度でシキシマは放り投げた魔獣の元に向かう。

 海洋戦人ゆえに飛行機能は搭載されていないが、それを補うほどの機動力。

 重量感あふれる巨体が大地を揺るがしながら疾走する様は、凄まじい威圧を持ちながらも神々しくもあろう。





 彼女にとってそれらは未知の光景ばかりであった。

 魔物など比較にもならない程に巨大で強力な怪物の出現。

 突如として魔術が発動しなくなる現象。

 そして、いきなり金属の巨人が助けに来てくれたこと。


「……な、なんなの? いったい、何がおきてるの?」


 腰が抜けて今だにへたり込むミアナは、呆然とした様子で走り去るシキシマを見上げていた。

 幼くはあるが彼女は頭脳明晰。しかし、そんな賢い魔導士でも目の前の現状は理解できなかった。

 すると……。


「ミアナ! しっかりしろ!」


 その大きな声で獣の少女は、ハッ!と我に帰った。

 その声の主をミアナは見上げる。

 いつの間にか、すぐ傍らに超人が座り込んでいた。


「……オボロ? わたし……の」


 彼の体を見て、ミアナは言葉をつまらせる。

 オボロの肉体は余すところなく痛々しい程に傷だらけであった。

 ボタボタと血が流れ落ち大地を汚している。

 ……オボロがこんなにも負傷したのは、全て自分の責任であった。

 彼の指示に従わず、でしゃばって足手まといになった結果だ。


「馬鹿野郎、なんで他の奴等と一緒に避難しなかった」


 低くい声でオボロは叱責の言葉をのべた。


「……う……あぁ……あ」


 するとミアナは嗚咽を上げながらオボロに抱きついた。自分の体毛に超人の血が滲むことも気にせずに。

 恐怖からの解放、助かったことへの安堵、浅はかな行動でオボロの足を引っ張った負い目。

 それら全てが彼女の頭の中で渦巻いていた。


「……ご……ごめんなさい……みんなを守りたかっただけなの。オボロを助けたかっただけなの……でも……魔術が使えなくて」


 泣きじゃくるミアナの言葉は純粋なものだろう。

 ただ知識と経験が不足していたがために、こんな無茶なことになってしまったが。

 それはオボロも理解している。


「いずれにせよ、無事で何よりだ」


 ゆえにこれ以上責めるのをやめ、その図太い指で少女の頭を撫でるのであった。


「……しかし、ありゃあいったい」


 そして、オボロはまた戦いの場に集中する。高速で駆けるシキシマに訝しげそうに視線を向けた。

 ……クサマに、似ているような気もするが。

 また、ニオンが作ったのだろうか?

 いきなり現れてミアナを助けた。味方なのだろうか?


(海洋戦人かいようせんじんシキシマ。俺が開発した)


 と、あの男の声が頭の中に響き渡った。


(設計はニオンだが、部品製造と組み立ては俺がやった。これで建造魔人は三機目だ)

「建造魔人?」


 度々ニオンがそんなことを言っていたことは知っている。


(今のところ唯一大型の星外魔獣と渡り合える存在だ。その意味合いは、既存の兵器を凌駕する人類ヒト。それを機械的に再現したのが建造魔人。大仙で眠る制空鉄人せいくうてつじんテンマ、ニオンが作り上げた機動超人きどうちょうじんクサマ、そしてあれが三号機である海洋戦人かいようせんじんシキシマ)

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