彼等が集う

 ……何時間、闘っていただろうか?

 厳しい戦闘と、それによる疲労と負傷もあってか内心的には数日間あの宇宙から飛来した怪物と殺しあっていた心境であった。

 活動が停止した電磁魔人を背にして、オボロとニオンは戦場から離れていく。目指すは、被害が少ない都市の中央部。

 戦いの場であった都市の南部は今だに燃えているのだ、戦闘が終わったのだから危険な場所に長居するものではない。

 戦いと言う彼等の役目はこれまでなのだ。


「急げぇ!」

「消火だぁ!」


 そして中央を目指している二人がすれ違うは消防ポンプを乗せた荷車を引っ張る都市の消火隊達。

 災厄を振りまいていた怪物が倒されたのだから、今度は彼等が活躍する番であった。


「……だ、大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。助かりました」


 そう感謝の言葉を述べながらニオンとオボロに近づいて来たのは救護隊であった。

 消火隊、救護隊はともに都市災害に備えて組織されている存在である。


「……私は大丈夫です」


 肩を上下させながらも、ニオンは平然とした様子で救護隊の一人に返答した。

 そして、後ろに佇んでいる巨体に目を向ける。


「私よりも、この方を。彼の方が負傷がひどいので」


 ニオンが戦闘によって受けた損害は、激しい活動による疲弊と瓦礫がぶつかったことによる損傷を負った程度である。

 しかしオボロは、怪力線高出力マイクロ波を用いた電磁結界による体液沸騰、超高速の高密度鉄拳の着弾、大電流による感電、常人なら何度死んだか分からないような攻撃を立て続けに受けたのだ。重症どころではないのだが……。


「あぁぁ……頭がグラグラするぜぇ」


 全身に深傷を負い大量出血しながらも、オボロの命に別状はないようであった。

 さすがは超人と言えるだろう。


「そ、そんな怪我で……だ、大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫だぁ! 以前、猛毒を盛られたときがあってだな、しばらく勃起不全インポになっただけだったんだ。だからよぉ、今回の怪我も大丈夫だぁ」

「えっ……! あぁ、はい……」


 しかし強烈な衝撃と感電によって、今だに意識と記憶の混濁があるらしくオボロの言葉は意味不明なものになっていた。

 実際、救護員との会話の内容が滅茶苦茶なようだ。


「み、見てみろ……元気だろぉ……どうだぁ!? オレのどうだぁ!?」

「……あ、あの服と医療器具を……すぐに手配しますのでぇ」

「……そうか、綿棒をれてくれるのかぁ。ところで、どうだぁ? オレの巨根もの、触ってみないかぁ? いや、握ってみたいだろぉ。大きさと重量感は並じゃないぞぉ、どうだぁ!? 煮革鎧なんかよりもオレの竿は頑丈だぞ、どうだぁ!? 飛び出るのは水袋をも溢れさせる、どうだぁ!? うぐぐぐぐ……」

「……ち、近寄らないでください! ひとまず落ち着いて」


 激しい戦いで衣服は全て消失したのだ。

 ならオボロが全裸であるのは仕方ないこと。ある意味、勝利の勲章でもあるかもしれない。

 彼が、それだけ今回の戦いに貢献した証明でもあるのだ。

 なら、安易にオボロが裸であることに苦情は言えないだろう。


「オボロ殿がいなかったら、どうなっていたか」


 オボロと救護員の狂気と変態性あふれる会話を聞きながらニオンは大きく息を吐いた。

 マグネゴトムとの戦いで、自分は何か多きな役割はできただろうか?

 いや、ほとんどできなかった。

 唯一まともに働けたのは、敵の能力の分析と足首を斬り崩して転倒させたぐらい。それに、あの時に何者かが刀を投げ与えてくれたからできたこと。

 真っ向から戦い、そしてとどめをさしたのはオボロである。

 自分は普通の人間だから仕方ない、と言ってしまえばそれまでだが……。

 だが、しかし今後何もできないわけでもない。唯一のある手段があるのだから。


「……かつて戦った、剣聖や勇者達が可愛く思える」


 そう言ってニオンは、動かなくなったマグネゴトムに振り返った。火災の光でギラギラ輝く金属の塊を。


「……これが先生がおっしゃっていた最後の試練と言うわけか。宇宙生物の討伐が。……奴を分析して建造魔人の設計と開発を急がなければ、一刻も早く」





 救護隊に付き添われながら、オボロとニオンは都市の中央部辺りに辿り着いた。

 とても大きな広場になっており、豪奢な噴水などがある。

 そして避難してきたであろう住民達がザワザワと喧騒をたてていた。


「あの人達が……」

「ああ、あの化け物を倒してくれたんだ」

「す、凄い!」

「……よかった、我々は助かったんだぁ」


 老若男女の人と毛玉人が二人に注目するのも同然である。ゲン・ドラゴン防衛の精鋭たる飛竜達でも手も足も出なかった怪物を生身でしとめたのだから。

 ならオボロもニオンも住民達の生命と生活を守った英雄と言っても過言ではない。

 だがしかし称賛の声をあげても彼等に近づく者はいなかった。

 怪物を倒したと言うことは、あの電磁魔人以上に二人は化け物であることを意味しているのだ。……少なからず恐怖を抱いて人々が近寄るのを躊躇うのも仕方ないかもしれない。

 と、いきなりズズーン! と地面が揺れた。


「ぐがあぁぁぁぁ!!」


 そして響きだしたのは大きなイビキであった。

 突如オボロが大の字に倒れ込み熟睡し始めたのだ。意識がハッキリしないまま歩き続けた結果、ここで意識が途切れたのだろう。

 ニオンも、それに倣うように地に座り込み項垂れる。彼の体力も気力も限界寸前であった。

 あれだけの激戦だったのだ、ここまで歩いて来れたのが不思議なぐらいと言える。


「……申し訳ないが、ここで少し休ませてもらいます」

「す、すぐに手当ていたします! 少々お待ちください!」


 救護員が離れていくと、ニオンは肩を上下させながら何も喋らなくなる。それほどまでに消耗しているのだろう。

 そして住民達は一定の距離を保ったたまま、疲弊しつくした二人を囲むように視線をむけるだけであった。


「ねぇ、大丈夫」


 そんな中、少女の声が響いた。

 すると沈黙していたニオンは、ハッと我に帰ったように頭をあげる。聞き覚えがある声だったのだ。

 ……マグネゴトムと戦っていた時に聞こえた声に。

 そして住民達の間から彼女は現れた。小柄なその少女の身形はこの場にそぐわないものであった。


「……忍服……まさか大仙の者」


 近づいてくる少女を見てニオンは小さく呟いた。

 彼女の身に付けている衣は大陸のどの文化にもそぐわないもの。

 しかしニオンは知っていた。かつて師から、多少なり大仙についての知識を得ていたからだ。


「あの時、君がこの刀を?」


 そう言ってニオンは、忍服の少女から腰に携えてある刀に目を移した。


「ごめんねぇ、あたしも加勢したかったんだけど……」


 少女は申し訳なさそうに視線を落とすのであった。


「いや、とんでもない。君のおかげだよ、この刀がなかったらどうなっていたか分からなかった」

「……あたしは、ナルミって言うの。まってて、治療魔術が扱える人を呼んで来るから」


 するとナルミと名乗った少女は顔をあげると声を張り上げた。


「アサムぅぅ! どこにいるの? すぐに来てぇ!」


 そして、そんなナルミの行動を見てか住民達はいてもたってもいられなくなったようだ。


「アサムを探してくるわ!」

「今度は俺達が助けてやらねぇと」

「ああ、そうだ。あの二人は、みんなを守ってくれたんだ」





 ……これが石カブトの結成、そして宇宙と言う未知の領域から来る怪物達との戦いの始まりであった。

 奇跡のごとき魔術も神が与えし異能も通用しない怪物中の怪物との。

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