二大巨獣の同時攻撃
上空より現れた火球は、深夜の空間を眩い閃光で照らしながら減速し始めた。
明らかに、ただの落下物ではない。地表に近づくにつれ徐々に落下速度を落としているのだから。
隕石のような落下物が、こんな異常な性質を持つわけがない。
やはり、意思を持った何かであるのが理解できる。
そして、その火球は狙いを澄ましたかのように俺達の前方約一キロ先に着地して爆炎をあげた。
大地が揺れ、凄まじい爆音が響き渡り、強い爆風が押し寄せた。
「……ぬぐぅ」
突風の影響で、ニオン副長が身を少し屈めた。
「副長……間違いありません、宇宙生物です」
俺の超感覚が反応している。落下した位置に何か不吉な存在がいると、言わんばかりに。
火球が落下した場所は炎上し、夜の空を赤く染め上げていた。
そして、ズシンと大質量の物体で地面を叩くような大きな鈍い音と強い揺れが伝わってくる。
……炎の中に巨大な何かがいる
「……あれは、もしや」
燃え盛る炎の中の巨大な姿を確認したらしく、ニオン副長は険しい様子で言った。
「ムラト殿、気を付けるんだ。あれは……」
「はい、分かっています。副長」
炎の中に佇んでいた存在が、俺達に向かって歩いてきた。
ズン! ズン! ズン!
それが一歩一歩動く度に大地が打ち震え、重々しい大きな音が大気を揺さぶる。
それは二足歩行する恐竜か爬虫類を思わせる姿をしていた。しかし、その身は細く引き締まっており人間的なフォルムをしている。
怪獣的ではなく、まるで筋肉質な
その肉体には鱗のようなものはなく朱色の強靭そうな表皮らしきものに覆われ、腹側の喉元のあたりから尾の先端付近まで黄色みがかかった白色をしている。まるで蟹のような配色だ。
体の所々に突起物が生えており、頭部はサメのような形状で頭頂部に大きめのヒレがある。
そして手に指などはなく、手の先端から直接鋭い長大な刃のような鉤爪が三本生えていた。
だが、やはり一番に目を引くのはその大きさである。
「デカいな。初めてだ、俺と同等の大きさの奴は」
炎の中から姿を見せた宇宙生物は百メートル近くの体長を誇っていた。
しかし思いのほか質量は俺よりもだいぶ軽く、地面の振動から考えると体重は五万トン程である。
とは言え、今まで見てきた外敵の中では最大クラス。
「副長、大きさと質量から察するに、あいつは……」
「ああ、そうだろうとも。あれは魔獣ではない、超獣だ」
……超獣。
魔獣が極限まで成長し、そこから突然変異した存在。
単独で惑星の文明を滅ぼす程の戦闘力を持つ怪物。
「くそっ! 都市部には魔獣が出現したってぇのに……」
魔獣の襲撃を受けそうになっている都市に急いで戻りたいところだが、まずはこいつをどうにかしてからだ。
それにゲン・ドラゴンには隊長がいる。そう易々とはやられはしないだろう。
恐らく、ここに潜んでいた魔獣とあの超獣はグルだったにちがいない。
魔獣は俺達をここまで陽動しその後に手薄になった都市を襲撃し、超獣は単独になった俺達をしとめると言う算段だったのかもしれない。
「副長、あの超獣は俺がやります。あなたは下がっていてください」
「頼む、ムラト殿。いくらなんでも、あれ程の大きさでは太刀打ちできない」
まあ当然の話だ。
刀だけで、あれほどの巨体と質量を持つ敵に挑みかかるのは無謀だ。
俺達が会話している合間にも、ズシンズシンと超獣は大地を揺るがしながら近づいてくる。
「キシャアァァァァ!!」
そして超獣が前屈みになって甲高く吠えると、いきなり駆け出してきた。
「……は、速い!」
超獣の走る速度は音速を越えていた。
衝撃波を発生させながら一キロ近くあった隔たりを瞬時に駆け抜け、ものの数秒で俺の間合いに入り込んでいた。
「キシャアァ!」
超獣は咆哮すると、俺に目掛け右の鉤爪を薙いできた。
とっさにその攻撃を左前腕部でうけとめる。
「ぐぅっ!」
ズシリと鈍い大きな音が響いた。
骨身にしみるような痛みと衝撃が上半身しに伝わる。
強烈な一撃ではあったが骨は無事だ。ダメージは激突による痛みと、鋭い鉤爪によって腕の表皮が少し切れた程度であった。傷は浅い。
切り裂かれた傷からジワリと赤い血が滲み出し、バシャッと一滴落ちた。
俺から見ればポタリと落ちたに過ぎないが、副長から見ればかなりの血液量だろう。
思ったほど、超獣の攻撃力は高くなさそうだ。
この程度なら十分に倒せる。
「やってくれるぜぇ、次は俺の番だ!」
予備動作が殆んどないジャブのように、スピーディーな右掌打を繰り出した。威力は少ないが牽制にはいい殴打だ。
「なにっ!」
しかし俺の掌打は超獣に当たらなかった。避けられた訳ではない。すり抜けたのだ。
と言うより超獣の体が赤黒い煙のように変化していた。
× × ×
「よぉし、できましたよ」
石カブト本部の自室で何かを作り終えたアサムは椅子から立ち上がった。
可愛らしい青年が作っていたのは、白い獅子のぬいぐるみであった。布から綿まで拘り、丁寧に縫合されて作り込まれた一級品と言えそうな出来であろう。
彼の部屋は石カブト本部の二階にある。その部屋は綺麗に整えられていた。
薬草に関する本が綺麗に並べられた本棚、乳鉢や天秤や薬研もそろえて置いてある。
ここはアサムの部屋でもあり、作業場でもあるのだ。そのため数々の道具がある。
「レオ様、立派な王様になってくださいね」
そう言ってアサムは傍らにある揺りかごの中で眠るレオ王子の横に、ソッと作ったばかりのぬいぐるみを置くのであった。
だがしかし、そんな微笑ましい雰囲気を砕くように恐怖と破壊を象徴するような音が響き渡る。
そのサイレン音の本質を知っているのは、極一部の者達だけ。そして、アサムもそのうちの一人。
「……こ、このサイレンは」
五年前の恐怖が蘇ってきたのか声を震わせ目元を潤ませた。
……そう五年前。初めて
鳴り響いているサイレンはマグネゴドム討伐後にニオンが開発した装置で、星外魔獣が都市に接近あるいは出現すると自動で作動するようになっている。
そんな恐怖の音が響き渡ったためだろう、安眠していたレオ王子は大声で泣き出した。
「レオ様、僕達がお守りします。どうかご安心ください」
王子の泣き声を聞いたアサムは気を引きしめるため深呼吸した。
「すぐに避難しましょう」
とにかくシェルターに逃げ込むか、都市から離れるかしなければならない。
アサムはレオ王子を抱きかかえると、速やかに部屋を出て階段を降り本部の玄関を開けて外に出るのであった。
そして、それを目で捉えることができた。
「あ、あれが……」
それは体長五十メートルを越えた爬虫類のごとき星外魔獣であった。尻尾を含めた全長ともなれば百メートルを軽々と越えている。
そんな巨大の怪物が四足歩行で前方から迫ってきていたのだ。
魔獣の前進してくる地響きが伝わってくる。しかもかなり速い。
恐らく二分もあれば都市に直撃するだろう。明らかに人々の避難が間に合わない。
すると、アサムの近くに何かが降り立った。それはかなりの質量を持ってるらしく着地と同時に大地が激しく揺れた。
「アサム! お前は王子をつれてすぐに逃げろ」
大質量の正体は防壁の上で魔獣の様子を窺っていたオボロであった。
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