海洋戦人、初陣す!

 騎士達と疾走する変異ゴブリンの群れの中間付近の地点から姿を現した巨大な戦人せんじんは、ズンと一歩踏み出して迫り来る魔物達に顔を向ける。

 その容姿は、青みがかかった灰色と紺色を基調とした機体色で、頭部には水牛のような二本の角が備わり、黄色く発光する目には格子のような縦線が並び、胴体は力強そうな逆三角形で、前腕部と下腿部と肩部装甲は巨大であった。

 角を含まない頭頂部までの高さは四十五メートルにもなり、その重量は五〇〇〇トン以上。

 もはや、変異して巨大化した魔物達でさえ小さく見えてしまうほどの超技術で開発されし魔人メカであった。





 シキシマから高度約一万メートル。

 そこに三隻の全長七十メートル程はあろう揚陸艇が浮遊していた。

 別に魔術の類いで浮いているのではない。各所にある、水素を推進剤とするプラズマ推進機で停止飛行しているのである。

 揚陸艇の一番艦の船橋で、腕を組みながら渡世人のような姿をした男がメインモニターを眺めていた。そのモニターには、身構えるシキシマが表示されている。

 さらに別のモニターには、騎士達や魔物の様子も映し出されていた。


「基礎設計はニオンだが、精密回路、装甲、駆動系、一部の武装は、おれ独自の物が組み込まれている」


 ガスマスクを被る渡世人風の男が、くぐもった声で言う。


「海戦型ゆえに飛行機能はないが、新型の蓄電装置、強化型電動筋繊維、アストロチタニウム合金の採用により機体の出力と強度はクサマを凌駕している」


 男がそういい終えると、モニターに映る巨大な戦人が目を明滅させた。どうやら、指示を待っている様子だ。


「しかし、あの程度の相手では肩慣らしにもならないのではありませんか?」


 やや不満そうな声が聞こえた。

 そう言ったのは、操縦桿を握る白い肌の女性であった。

 彼女は、メカニカルなスーツを着込んでおり髪の色も色素がないのか真っ白であった。そして、その目は白目部分が黒く、黒目部分が白くなっており、頭部から昆虫のような触覚が生えている。

 見るからに、普通の人間ではないようだ。


「高指向性エネルギー武装の試験には、ちょうどいい被験者どもだ。命中精度と単位面積あたりの破壊力は、どれ程のものか」


 ガスマスクの男は淡々とした様子で返答する。

 そして、ついに新型の建造魔人に命令がくだされた。


「シキシマ! 原子熱線砲で奴等を焼き払え」





 いかなる方法でシキシマは指令を受け付けたのだろうか、巨大な戦人はガスマスクの男の命令どおり熱線砲の発射体勢に入る。


「グォン!」


 それは声なのか、あるいは駆動音なのか、シキシマは謎の音を響かせながら右腕を前方につき出す。

 その先にいるのは、疾走してくる醜いゴブリンども。

 そして、シキシマは突き出された腕の指先を真っ直ぐに伸ばした。

 次の瞬間、五つのそれぞれの指先から青白い閃光がほとばしった。指先の前方にいた大暴鬼は、爆音ととも一瞬にして跡形もなく消し飛び、さらにそのゴブリンを起点に大爆発が発生した。

 その影響で巨大ゴブリンの足下にいた複数の石鬼も爆炎に包まれ粉々に吹き飛ぶのであった。


「グガアァォ!?」

「ギィゲゲゲゲ!」


 いきなり仲間が爆炎に飲まれたためか、ゴブリン達は驚愕のあまりに走るその脚を停止させて、前方で佇む魔人メカを見据えた。

 彼等には何が起きたのか分からないのだろう。

 しかし、それは騎士達も同じであった。


「な、なんだ! 今のは……。ゴブリンどもが粉微塵に」

「……魔術か?」

「いや、あんな攻撃魔術なんか見たことがないぞ……俺達が知らない武器か、なんかか?」

「つうか、それ以前に、あの巨人はなんなんだ? ……ゴブリンを攻撃したあたり我々の味方なのか?」


 王国の騎士達も困惑しかできなかった。

 いきなり目の前に正体不明の金属の巨人が現れ、時代にそぐわない強力なビーム砲を照射し、その武装で自分達の敵であるゴブリンどもを粉砕したのだ。

 そんな光景を目の当たりにしたのだから、彼等が混乱するのも当然であろう。

 そして、そんな騎士達の状況など知るはずもなくシキシマは左腕も前に突きだした。

 そして、五指の先から再び強力かつ鋭いエネルギーが放たれようとしている。

 イオン化された原子が電磁的に加速と収束され、シキシマの指先から照射された。

 それは視認が難しい程に細く鋭い粒子線ビーム。だがしかし、その破壊力は既存の兵器や魔術を超越してる。

 原子熱線砲をまともに食らった二匹の大暴鬼は瞬時に蒸発し、さらに発生した爆発に巻き込まれ十数匹の石鬼が粉微塵と化した。





 その指向性エネルギー兵器に関する情報が、はるか上空で待機している揚陸艇に送信されていた。


「命中精度は申し分無し、破壊力は……まあ、ゴブリン相手にはやりすぎだな」


 ガスマスクの男は、送られてきたデータを見ながら満足気に言う。

 情報によると、熱線砲の着弾点は数十万度に達していた。


「よし、まあゴブリンごときが相手だからな、今回はこんなものだろう。シキシマ、もう十分だ。一気に片付けろ」


 有益なデータが得られたのだろう、ガスマスクは戦闘を終わらせるべく、巨大魔人に最後の命令を伝えた。





「グオォォン!」


 指示を受け取ったシキシマは咆哮のごとき音を鳴り響かせると、両腕を伸ばして照準をつける。

 狙いは一番左端の大暴鬼。

 そして三度目の原子熱線砲が放たれた。

 シキシマは指先から強力な荷電粒子の奔流を照射したまま、両腕を左から右へと薙ぎ払うのであった。

 無数の変異ゴブリンの群れ、左端から右端へと順序よく爆炎の壁に包み込まれ、轟音とともにこの世から消え去るのであった。

 よほどの熱エネルギーだったのだろう、ゴブリン達がたっていた地面は融解して赤く発光している。

 上空から見れば、横一文字に赤い光の線が描かれているように見えるだろう。

 これが超技術で開発された魔人の初戦闘であった。





 騎士達、ただただゴブリンどもが爆炎の中へと消えていく光景を見ていることしかできなかった。

 目の前で何が起きたのか、理解できないのだ。

 とても、説明がつく内容ではない。

 巨大な金属の魔人が突如現れて、一瞬にしてゴブリン達を消し去った。それしか言いようがないのだ。

 騎士達が唖然とするなか、メリッサだけは張り詰めた雰囲気で口を開いた。


「いいかお前達、この事は一切口外するなよ。これは機密事項だ」


 彼女は知っているのだ。

 あんな機械仕掛けの魔人を開発することができるのは、ペトロワ領の秘密を知る者だけだろう。

 となれば現状の自分達が、まだ触れてはいけない領域なのだ。

 そして、歩き去ろうとするシキシマを見つめた。


「あれは、私達がまだ触れ……」

「うおぉぉぉ! 何すかあれ、隊長!」


 メリッサの言葉が、興奮の雄叫びに遮られた。

 ランランと目を輝かせていたのは、新米のメップであった。

 皆が呆然とするなか、彼だけは子供のごとくはしゃいでいた。


「隊長! なんですかあの格好いい巨人は! 国の秘密兵器かなんかですか? ああ、だから今回のことは口外禁止なんですね!」


 メップは、シキシマが去っていく後ろ姿を眺めながら鼻息を荒くさせる。


「やかましい!」

っ!」


 そして、メリッサに頭を殴られるのであった。 

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